海岸沿いの土地のみならず、海から数十キロも離れた内陸部でも、多数の地区で「液状化」によりズブズブとなった。内陸の埼玉県加須市、千葉県我孫子市などがそうだ。
海を埋め立てた土地、または、かつて河川・湖沼であった場所などは、今回の大揺れで、砂粒の結束が弛(ゆる)み、地表に泥水が噴き出したのだ。
東京湾沿岸では、東京ドーム900個分(約4,200ha)の広大な土地で「液状化」が見られ、関東地方だけで、2万4,000棟もの家屋が被害を受けたという。
家が、たった「1°」傾いただけで、その家には住むことはできなくなる。傾いた状態で生活を続けると、気分が悪くなって、健康被害を招いてしまうからだ。
家屋の被害もさることながら、地中の水分が抜けたことによって、道路の下などが「空洞化」してしまった箇所も多いという。そうした箇所は、地盤沈下の危険が高い。
神奈川県川崎市では、道路下の空洞化の箇所は300ヶ所以上。すべての被害箇所を補修するには、少なくとも5年はかかるそうだ。
地中に埋設されていた「水道管」などの被害も大きい。水道管は、建物に比べて軽いために、液状化によって、軽々と浮き上がってしまった。マンホールなどが1m以上も、道路から飛び出してしまったりしている。そのため、千葉県では、いまだ水道が復旧していない地域があるという。
なぜ、これほど広範に「液状化」の被害が広がったのか?
それは、地震の揺れが「長く続いた」ためだという。
阪神大震災で「液状化」が起きた地域は、震度6〜7の激しく揺れた地域。ところが、今回の液状化は、震度4〜5の地域で起きている。
阪神大震災の揺れは「15秒」と短く、今回の大震災の揺れは「1分間」と長かった。
今回新たに判明した事実は、比較的弱い揺れでも、長く揺れが続けば、「液状化」は起こるということだ。
さらに、衝撃的な事実は、「鉄筋のビル」が津波で流されたことだ。
今までは、鉄筋ビルは津波に流されないとされていた。しかし、その常識を破って、宮城県女川市では、大津波により「鉄筋ビル」が6つも「横転」した。
今回の津波の強度は、1平方メートルあたり「10トン」。このくらいの衝撃では、鉄筋ビルは倒されないはずだった。
では、なぜ6つもの鉄筋ビルが横倒しにされたのか?
それは、「液状化」でビルを浮かされた後に、津波を直撃を喰らったためだった。
液状化と津波が重なることにより、鉄筋ビルが倒壊するという事実は、今回初めて明らかとなったことである。
今までは、「津波が来たら、高台か高いビルに逃げろ」と言われてきたが、鉄筋ビルが必ずしも安全とは、もう言えない。
現在の「津波用の避難ビル」は、果たして安全なのかどうか?各自治体は、新たな課題を突き付けられている。たいていの避難ビルは、揺れと津波は想定していても、「液状化」までは想定していないのである。
「液状化」の想定を充分にしていないのは、大企業も同じである。
今回の大震災で、千葉県沿岸の石油コンビナートは、大火災を起こし、その猛火は10日間も燃え盛ったという。
その原因の一端も「液状化」にあるというのだ。
海岸沿いの土地は、「埋立地」であることが多い。
「液状化」が起こると、埋立地は地盤沈下するとともに、土地全体が海の方向へ「横滑り」をして、海との境の「護岸」を破壊する危険性がある。この現象を「側方流動」という。
海岸沿いの石油コンビナート地域に「側方流動」が起これば、大火災である。東京湾岸には、ズラリと石油コンビナートがひしめき合っているため、その被害は連鎖的に拡大する恐れがある。
「側方流動」に対する企業の備えは、充分なのか?
充分とは言えないだろう。今回の地震でも、東京湾岸の石油基地周辺では、多数の「液状化」現象が確認されている。
だが、残念なことに、そうした企業の敷地内を調査することはできない。企業の私有地であり、「液状化」に関しては、企業に報告義務もないためだ。
企業側は、沈黙を守っている。
もし、石油施設が大火災を起こせば、燃料供給のみならず、火力発電所も発電を停止せざるをえない。ご存知の通り、東京湾岸には12の火力発電施設があり、首都東京の電力を支えている。
燃料と電気が途絶えたら、現代文明は手も足もでない。
護岸の強化は喫緊の課題であるものの、企業敷地内の現状がベールに包まれたままでは、その対策も講じられない。
なぜ、企業側は情報を公開しないのか?
ある企業の従業員は、内部事情を洩らす。
「写真撮影は厳禁。世間に知られることを恐れているのではないだろうか。我々は安心して働ける状態にはない。」
護岸に「巨大な鉄の杭」を打ち込めば、「側方流動」の危険性は軽減される。ところが、その費用は100mの補強に3億円もかかるという。
現状を明らかにしない企業側には、こうした計算もあるのではなかろうか。
原発のストレステストもさることながら、各発電所やコンビナートのストレステストも必要だとの声も高い。
また、一企業だけが対策を講じても意味がない。
どこか脆弱な部分で火災が生じれば、それは全体を巻き込むことになるからだ。
埋立地全域を強化しなければ、大火災の危険は避けられない。
今回の大震災で、今後起こりうる大災害の前兆は、各所で現れてきた。
今、対策に動かなければ、次の災害を防ぎきれないかもしれない。
分かっていながら、何の手も打たなかったら、それは「人災」となってしまう。
液状化の起こる場所は、ある程度まで特定できるという。
なぜなら、一度液状化を起こした場所は、また液状化を起こす可能性が高いからである。
数百年の歴史を遡(さかのぼ)れば、日本中の液状化危険箇所は、自ずと明らかになってくるのである。
だが、個人レベルでは液状化の対策は不可能だ。
数百万円かけても、一般家屋の基礎杭は、10m前後の深さにしか打ち込めない。
液状化の対策には、数十m以上の基礎杭を打たなければ意味がない。
山を削り、谷を埋めて平地を造成し、川の流れを変えて、海の上まで地面を広げた「現代文明の代償」は大きい。
山や谷にそのまま住んで、川や海の形を変えていなければ、液状化や地盤沈下の対策は必要なかったはずである。
浅薄な知識に頼り切って、充分な対策を講じ切れていなかったツケが、ここにきて大きな課題となっている。
すでに出来上がってしまった都市を改変することは、至難の技である。
もし、また大震災が来たら‥‥、今後ともに、「ツナ渡り」は続きそうだ。
日本は「水の国」。
その歴史においては、治水という事業が、大変に重視されてきた。
現代文明は、「水」をうまく押さえ込んでいたように見えたが、その実、極めて「危うい治水」であったことが、今回の液状化で判明した。
かつての日本人の知恵は、水と「共存すること」に主眼があったように思われる。
しかし、戦後日本の治水は、欧米流の「支配・屈服」させる傾向が強まったのではなかろうか。コンクリートと重機は、人間の知恵が自然を上回ったかのような錯覚を与えた。
自然に対する傲慢さは、今回の液状化の惨状と無縁ではないだろう。
水と共存してきた民族としては、何とかこの苦境を乗り越えたいものである。
森、山、そして水は、本国の誇りである。
出典:NHKスペシャル
東日本大震災 「“世界最大”の液状化」

