「このまま、原子力発電を推進すべきか?それとも自然エネルギーへと舵を切るべきか?もしくは、化石燃料へと後戻りするか?」と。
これら三者は、組んずほぐれつの「三つ巴」となっており、そう簡単には結論に至りそうにもない。
ふと、視線を「地上から宇宙へ」と上げて見ると、思わぬ解決策が得られるかもしれない。
「宇宙はどうやってエネルギーをまかなっているのか?」
その解答は単純明快。「核融合」である。
「太陽」は、水素原子を「融合」させて、地球に届くほどの膨大なエネルギーを、45億年にわたって宇宙に放出し続けている。さらにあと倍の時間、太陽はエネルギーを生み出すことが可能と言われている。
太陽のエネルギーは、わずか一秒でアメリカに100万年分のエネルギーを供給できるほど。つまり、人類にとっては無尽蔵のエネルギーである。
そして、「核融合」というエネルギーの産出方法は、この銀河系において、およそ1000億個の星々が行っている、「最もありふれた方法」である。
原子力発電というのは、「核融合」とは全く逆の「核分裂」のエネルギーを利用した発電方法である。
原子核をバラバラにして(分裂させて)エネルギーを生みだす方法は、宇宙の常識においては「まったくの邪道」であり、どの星々を見てもその方法を採ってはいない。
残念ながら、原子核の「分裂」によるエネルギーは、「核融合」のエネルギーに比べれば、悲しいほどに小さいのである。
そのエネルギーの差が歴然と判るのは、「原子爆弾」と「水素爆弾」との爆発力の比較である。
原子爆弾とは、原子核の「分裂」するエネルギーを利用したものであるのに対して、「水素爆弾」は、「核融合」反応を利用した爆弾である。
「核融合」を利用する水素爆弾は、原爆の4000倍の破壊力があると言われている。一円玉一枚(1g)の原子があれば、核融合により水素爆弾一個分のエネルギーが生み出せるのである。
また、「核分裂」は「放射性物質」を放出するが、「核融合」は放射性物質を生み出すことはない。「核分裂」による原子力発電は、地球を汚し続けるが、「核融合」による発電は実にクリーンである。
人類が「核分裂」という方法を手に入れたのは、何も不幸なことではなく、むしろ幸運なことであった。
なぜなら、「核分裂」のパワーによって、「核融合」を起こすことが可能となったからである。
「核融合」を起こすには、とんでもなく「高温・高圧」の環境が必要とされる。そして、その環境を作り出せたのが「核分裂」のエネルギーだったのである。
原子爆弾を開発したアメリカは、原爆のエネルギーを使って、8年後には「核融合」による水素爆弾を作り出すことに成功している。

水素爆弾は、とんでもない殺人兵器ではあるが、その技術の発想は、宇宙の本筋に沿うものである。宇宙の星々は「核融合」によって、暗黒の宇宙に「光」をもたらしたのである。
ところが、人類は「核分裂」を「核融合」へと進化させずに、ステップの一つに過ぎなかったはずの「核分裂」にとどまってしまった。
核分裂による「原子力発電」は、「核融合」よりも安易な方法だったがゆえに、世界中に定着してしまった。
悪いことには、世界の原子力発電所は、放射性物質を生み出し続けている。
これが諸悪の根源である。放射性物質さえ出なかったら、原子力発電が非を鳴らされることはないのである。
現在の原子力発電は、易(やす)きについたがゆえに、放射性物質という代償をもたらし続けている。
なぜ、よりクリーンな「核融合」の技術は難しいのか?
それは、原子核同士をくっつける(融合させる)ためには、トンでもないエネルギーが必要とされるからである。
どれくらいトンでもないエネルギーかというと、太陽の内部(1万5,000℃)の10倍以上の高温・高圧エネルギーである。
原子核同士は、磁石の同じ極同士が反発するように、電磁力によってお互いが反発し合う。
反発する原子核同士を融合させるには、原子核を高速で運動させる必要があって、その運動エネルギーを与えるのが、高温・高圧の環境なのである。
その高音・高圧の環境を作るための、最も手っ取り早い方法が、原子爆弾による「核分裂」であったわけだ。
ところが、繰り返してきた通り、「核分裂」は放射性物質という毒を撒き散らすために、人類は別の方法で、高エネルギー環境を作り出す必要がある。
レーザー光線を収束させたり、プラズマ状態を作り出すことによって、その環境を生み出す技術はあるものの、太陽のように長期間にわたり、その環境を維持する技術は、現在の人類はまだ持たない。
しかし、それでも科学者たちは、「核融合」への期待を一向に衰えさせない。
なぜなら、「核融合」こそが「宇宙の本質的エネルギー」であることを充分に理解しており、この道こそが人類の進むべき道だと確信しているからである。
一方、核分裂による原子力発電は、決してとどまるべき技術ではないとも確信している。
放射性物質という好まれざる副産物を出す技術が終着地点だとは、誰も思っていないのだ。

まだ一つも星がなかった宇宙(135億年前)には、「水素」と「ヘリウム」しかなかった。
水素が集まりだして「重力」が生じると、第一世代の星たちが誕生する。
そして、水素による「核融合」反応が、宇宙に「光」をもたらし、暗黒時代は終わりを告げる。
急速に水素を融合させた星たちは、「超新星爆発」によって、その一生を終える。この爆発により、様々な新しい元素が生まれ、その元素は宇宙へと撒き散らされる。
水素とヘリウム以外のあらゆる元素は、星の内部で生成されたものである。
こうして、水素とヘリウムしかなかった宇宙に、我々のよく知る元素が作り出され、それらの元素が集まり、また新しい星々を作り出した。
それらの元素は、星々を作り出しただけではなく、我々人間の身体をも作り出した。
我々の肉体は宇宙の星々と同じ材料でできており、人間はまさに「星たちの子供」なのである。
太陽の75%は「水素」、24%は「ヘリウム」、残りの1%はそれ以外の元素である。
水素の原子が4つ融合して、ヘリウムができる。ところが、そのヘリウムは元の水素原子4つよりも重さが軽くなる。
消えた重さはどこへ行ったのか?
その消えた重さこそが、エネルギーとなり、地球にも光や熱となって届いているのである。
水素の融合により消えるエネルギーは毎秒400万トン。これが「核融合」によるほぼ無限のエネルギーである。

太陽の核融合を詳しく見てみよう。
水素の原子同士が接近すると、「核力」という強い力により陽子同士が結合する。
その際、1個の中性子と、2個の素粒子(陽電子とニュートリノ)に別れ、ニュートリノが飛び出す。そして、それが水素の同位元素である「重水素」となる。
太陽では、この「重水素」一個を生み出すために何十億年もかかっている。
この「重水素」さえできれば、あとの反応はとても速い。
重水素がヘリウム・スリーとなり、それが2つ結合して、ヘリウム・フォーとなる。このとき、2個の陽子が飛び出すことで、太陽のエネルギーは放出され、太陽は輝くこととなる。
幸運なことに、地球には「重水素」がたくさんある。
太陽が何十億年もかかって生み出した「重水素」は、地球の海にふんだんにある物質なのである。
つまり、地球の海には、「核融合」反応に必要な「原料」が無限にあることになる。理論上は、一円玉一個(1g)の原料で東京ドーム一杯分の水を沸騰させることができる。
地球には「核融合」を起こすための材料があるのだから、あと必要なのは、その環境ということになる。高温・高圧の環境である。
その環境を作り出すことは困難ではあるものの、科学者たちは楽観的である。「時間はかかれども、必ず実現できる」と。

しかし、「核融合」に対する人類の注目は、おそろしく低い。そのため、資金が集まらない。
イギリスでは、10億ポンド(1,300億円)が投資されたとはいえ、その額は「携帯の着信音」に投資される額よりも少ない。
人類の選択は、「次期エネルギー」よりも携帯の着信音を選んでしまっている。
我々の文明にとって、どちらの優先順位が高いのだろうか?大衆に「迎合」しすぎては、道を誤りかねない。
「核分裂」から「核融合」へ。
この道は、宇宙の本質へ迫る「王道」である。
ところが、人類は放射性物質を撒き散らす「核分裂」に至極満足してしまっているようである。
「融合」よりも「分裂」を選択するのは、現代の世相を反映しているかのようでもある。
「分裂」によるエネルギーは小さく、「融合」のエネルギーの足元にも及ばない。
それでも、人類は「分裂」を繰り返すのであろうか?
原子力発電は、良いステップであった。しかし、ここは「階段の踊り場」に過ぎず、決して永住の地ではない。
化石燃料も、充分にその役目を果たしたのではなかろうか?
現代文明は、宇宙の「核融合」を実現できる一歩手前までやって来ている。
あと一歩で、無限のエネルギーを手に入れることができるのである。
「エネルギー危機は終わる。
人類が本当に望むならば。」
(The energy crisis is over. If you want it)
ブライアン・コック博士は、こう断言する。
それでも「分裂」にこだわる意味はどこにあるのだろう?
出典:BS世界のドキュメンタリー
シリーズ エネルギー革命
「地上の太陽〜“核融合”発電は実現するか」