だから、エサとして「唐辛子」を与えることができる。唐辛子は「ビタミン」が豊富な優秀なエサなのである。

なぜ、鳥が「辛さ」を感じないかというと、それは唐辛子の「繁殖」戦略ということになる。
「歯」がなくて、「消化管」が短い「鳥」は、食べた種を傷つけることが少ない。さらに、パタパタと飛んで遠くへと種を運んでくれる。

唐辛子は鳥には食べてもらいたいけど、他の動物には食べてもらいたくなかった。
そこで、辛さの元となる「カプサイシン」という物質を作った。幸いにも、鳥だけがこの「カプサイシン」の受容体を持たず、辛さを感じない。これに対して、人間も含めた他の動物たちは、辛くて辛くて、唐辛子を食べることができなくなった。
ところが、人間の好奇心は、唐辛子の繁殖戦略の裏を行った。
「怖いもの見たさ」のように唐辛子を食べる奴が、紀元前2,600年前から存在したようだ。すでに唐辛子を食していた痕跡が残る。
辛い辛いと食べてみると、思わぬことが起こった。「快感…」である。
辛さは「味」ではない。「痛み」である。その痛みを和らげようと、脳は快楽物質「エンドルフィン」を放出するのである。そのため、辛いんだけど、気持ち良くなってしまったのだ。

これは、チンパンジーでも実験された。
チンパンジーも最初は唐辛子を食べない。しかし、定期的に少しずつ唐辛子を与え続けると、次第に「やみつき」になるらしい。
他のエサよりも、唐辛子を好んで選ぶまでになる。

唐辛子の原産地は、南アメリカ大陸とされる。

これが鳥たちによって、北アメリカ大陸に広まったあとに登場するのが、「コロンブス」。
彼はアメリカを「インド」と間違えたのみならず、唐辛子を「コショウ」と間違えた(今でも英語の「pepper」は、コショウとともに唐辛子を意味する)。
コロンブスは意気揚々とヨーロッパへ唐辛子を広めた。その後は、インド、そしてアジア、日本へと伝わってくる。唐辛子が入ってくるまで、インドの「カレー」も韓国の「キムチ」も辛くなかったと言われている。
日本に入ってきたのは、16世紀頃というから、鉄砲やら何やらなどと同じ時期と考えて良いかと思う。松尾芭蕉も唐辛子の俳句を読んでいる。「とうがらし、羽をつけたら、赤とんぼ」。……微妙な作品である。

かつて、「ハバネロ」という唐辛子が世界一の辛さを誇っていた時代があったが、今やその何倍も辛い唐辛子がドンドン作り出されている。
辛さを表す単位は、「スコビル」というのだそうだ。何倍の「砂糖液」で薄めたら辛さが和らぐかという単位である。10スコビルなら、10倍の砂糖液で薄めると辛くなくなるということ。
ハバネロは57万7,000スコビル。2011年のチャンピオンは、138万スコビルの「ナーガ・ヴァイパー」。ハバネロの2.3倍の辛さということになる。

辛さ競争は、どんどんエスカレートする。
オーストラリアで栽培された唐辛子「トリニダード・スコーピオン・ブッチ・テイラー」は、何と146万スコビル。すこびる辛い。

栽培者は「食べたら、病院行きだ」と言いながら、この唐辛子を使って「激辛ソース」を製造・販売している。その製造工場は、あまりの辛さのため、「毒ガス用のマスク」をしなければ仕事ができないという。
「激辛」の唐辛子を作り出す秘訣は、「ワーム・ジュース」と命名された特別な栄養液にあるらしい。この栄養液は、ミミズが分解した土を元にして作られているという。

もともとは、動物に食べられないように「カプサイシン」という辛さを身につけた唐辛子。
ところが、このカプサイシンは人間に敬遠されるどころか、「もっと辛く、もっと辛く」と急かされている。
結果的に、唐辛子は世界中に広まるという拡大戦略に大成功した。
何が吉と出るかは、分からないものである。
出典:いのちドラマチック
「トウガラシ 世界がシビれた“辛さ”戦略」