2011年10月10日

宇宙の折り紙たる「宇宙船イカロス」。日本の「たたむ文化」が世界に高評価を受ける。


2010年5月、「イカロス(IKAROS)」という名の宇宙船が打ち上げられた。

この「イカロス」というのは、真四角のピクニックシートのような「セイル(帆)」を広げたヨットのごとき宇宙船である。

このセイル(帆)は実に巨大であり、「14m×14m」、およそ「200平方メートル(60坪・120畳)」もある。

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当然、打ち上げの際には、巨大すぎるセイル(帆)をキレイに畳んでおかなければならない。

しかも、ただ畳めばいいだけではない。小さい力で簡単に「展開」する必要もある。その小さい力とは、宇宙船本体が回転する「遠心力」のみである。

「できるだけ小さく畳み、できるだけ小さな力で展開する」。この難題を解決するために活用されたのが、日本の伝統「折り紙」の技術であった。

宇宙科学のハイテク研究者たちが、頭を突き合わせてローテクの「折り紙」に試行錯誤したことになる。



最初は「扇子(せんす)折り」という折り方が有力な候補に上がった。しかし、この折り方では「折り目」が中央に集中してしまい、中央部分のセイル(帆)の損傷が懸念された。

そこで、「らせん折り」という方法が試された。この折り方であれば、折り目が分散するので、よりセイル(帆)に優しい結果となった。

しかし、この「らせん折り」は見た目よりもずっと複雑である。直線に見える部分が、実は全部「曲線」なのだ。制作も困難であれば、キレイに折り畳むこともより困難である。

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長き試行錯誤の末、最終的に採用された方法は「四角型折り」というシンプルな折り方だった。

巨大なセイル(帆)を四分割し、その4つの部分が独立して展開する仕組みである。

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このセイル(帆)、実に薄い。わずか7.5マイクロメートル(0.0075mm)。

巨大で極薄のセイル(帆)をキレイに畳む困難さは想像を超える。折り鶴ですら、ズレないつもりで折っていても、結局ズレて白い部分がのぞいたりするものである。

「イカロス」のセイル(帆)は、大の大人が10人がかりで一折り、一折り、心を込めて折っていったのだという。わずかのズレが宇宙では致命傷ともなりうるのである。

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「イカロス」のセイル(帆)は、宇宙で美しく展開した。大成功である。

このセイル型の宇宙船の成功は、世界初の快挙であった。

日本の心は、宇宙に大きくその翼を広げたのだ。



そもそも、なぜイカロスはそれほど巨大なセイル(帆)を必要としたのか?

それは、太陽光のエネルギーのみならず、太陽光が外側に放射する「極くわずかの圧力」を推進力とするためだった。

太陽光の圧力は、イカロスの巨大なセイル(帆)に対しても、わずか0.2g(1円玉の5分の1)。こんな微弱な圧力でも、空気抵抗のない真空の宇宙空間では加速できるのである。



「イカロス」がこの微弱の太陽圧力をとらえることに成功したことにより、「燃料なし」で宇宙を航海することが可能となった。

それまでは、太陽光以外のエネルギー源は「原子力電池」しかなかった。この電池は、原子力という名の通り、放射性物質の「プルトニウム」を搭載することになる。そのため、その危険性や世界的な感情の問題があった。

しかし、「イカロス」の成功は太陽光の届かない宇宙への旅の可能性を見せてくれた。木星より遠い宇宙は太陽光が弱く、ソーラーパネルだけの旅は不可能と考えられていたのだ。



「イカロス」は宇宙への夢を大きく押し広げた。

そして、そこには日本の伝統「折り紙」があった。

原子力という最先端の技術に、「折り紙」という古い古い伝統が打ち勝ったのである。



宇宙飛行士の選抜試験の一つに、「折り鶴200個を正確に折る」というのもあるそうだ。

宇宙と折り紙は、まったく次元が違うようでいても、その思想の根は同一の地平にあるようだ。



「ミウラ折り」という地図の折り方も、人工衛星の太陽パネルの折り方として実用化されている。

この折り方は「三浦公亮」氏の発案によるもので、対角線の両端をつまんで引っ張るだけで、巨大な面が一気に展開する仕組みである。



これら「折り紙」の技術は、日本の「たたむ」という文化が育んだ結晶である。

その「たたむ」という文化は、省スペースの発想を超えて、「部屋に何も置かない」という美学にまで通じている。

「何もない空間(無)」に美を見出すのは、源氏物語の時代から日本の伝統である。



欧米文化においては、どちらかと言うと「大きいもの」、「豪華なもの」にステータスがあるようだが、日本文化の粋(すい)は「何もない(無)」ということになる。

家のパーツは取り外し可能(フスマ・障子・畳)であり、収納可能(布団・ちゃぶ台)である。

欧米の「足し算」の美学とは対称的な、日本の「引き算」の美学ということか。



ある外国人は、それが日本人の「謙虚さ」だという。

普段は決してひけらかすことなく、必要な時にだけ力を見せる。



こうした日本の「古き美」を再評価するのは、決まって外国人ということになる。

日系アメリカ人に「イサム・ノグチ」という芸術家がいる。彼の作品の中に、「ちょうちん」をモチーフにした「あかり(Akari)」というシリーズがある。

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「ちょうちん(提灯)」とは、紙と竹で構成された折り畳める灯りであり、その機能美と柔らかい光がアメリカやヨーロッパで絶賛されたのだ。

当初、日本では評価の低かった「あかり(Akari)シリーズ」も、欧米の高評価とともに日本で再評価されることとなった。

それは、第二次世界大戦が終わって間もない頃だった。



戦後の日本は「追いつき追い越せ」と、ひたすら欧米化を進めていた時代。

日本は欧米を嗜好し、かたや欧米の一部では日本の美を評価する。愉快なスレ違いである。



宇宙に羽ばたいた「折り紙」は、世界各国でも子供の教育として取り入れられているのだという。

ペラペラの紙一枚が、またたく間に立体的な動物になったり、いろいろな道具になったりする。

「限定されているはずの世界が、無限の可能性に変化する」。それこそが「折り紙」の妙であり、その創造性と芸術性が世界で高く評価されているのである。



「イカロス」の成功は、折り紙の発想が「最先端分野」でも「実用可能」であることを示してくれた。

一言では言い表せない日本文化の深淵を、折り紙はたった「一枚の紙きれ」で表現していることになる。その単純な一折り、一折りには「日本人の心」が折り込まれているのである。

そして、日本の美しさは表に出てくるとは限らない。奥深くに畳み込まれていることも、ままあるのである。




出典:COOL JAPAN
〜発掘!かっこいいニッポン たたむ




posted by 四代目 at 09:02| Comment(1) | 宇宙 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年09月27日

オオカミが太陽に追いつく時……。「日食」に魅せられる人々。


太陽と月は誂(あつら)えたように「同じ大きさ」に見える(地球から)。

太陽は月の「400倍」も大きいのだが、「400倍」も地球から離れているため、結局、太陽と月とは「同じ大きさ(見かけ上)」に見えることになる。

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この奇跡的な偶然が、「日食」というドラマを生むのである。



「日食」とは、太陽の前を月が横切るとき、月がスッポリと太陽を覆い隠してしまう現象のことだ。

しかし、いつもいつも起こるわけではない。

太陽の動きまわる「黄道」と、月の動きまわる「白道」には、約5°の傾き(ズレ)がある。そのため、太陽と月が完全に重なるのは特異な現象となる。

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特異な現象といえど、地球のどっかこっかでは年に2〜3回は「日食」が起こっている。

ただ、自分の住む地域で「日食」に出会うのは大変に珍しいことである。月が太陽を覆う「影(本影)」の大きさは地表面積のわずか1%の大きさに過ぎないのである。

今後21世紀中に、日本で完全な日食(皆既日食・金環食)が見られるは、「2012年・2030年・2035年・2041年・2063年・2074年・2085年・2089年・2095年」である。

しかも、その「影」は時速1600kmで進んでいくため、完全に月が太陽を覆っている時間は、長くとも8分程度である。



多少の説明を加えると、月が太陽を完全に覆うのが「皆既日食」である。

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そして、太陽と月の中心が完全に一致はするものの、わずかに太陽が大きい時に起きるのが「金環食」である。この際、あたかも金環のような細い光が月の周りに残ることとなる。

なぜ、月の「見かけの大きさ」が異なることがあるのかというと、月の軌道、および地球の軌道は「だ円」であるからだ。だ円軌道のため、お互いが微妙に離れる時と近づく時がある。離れれば小さく見え、近づけば大きく見える。



また、「部分食」というのもある。

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これは太陽と月が部分的に重なりはするものの、完全には重ならない状態である。この時の月が地球上に落とす影は「半影」と呼ばれ、その範囲は皆既日食などの「本影」よりはずっと広い。

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人々は思わず「日食」の虜(とりこ)になってしまう。

世界中で「日食ツアー」なるものが企画され、皆既日食(金環食)の起こる土地に人々は殺到する。来年5月は日本の番である。

「日食」は太陽研究にとっても貴重なチャンスでもあるが、何よりも日食は人々の好奇心を呼び起こさずにはいられないのである。



それは、過去の人類にも共通の思いである。

歴史上、「日食」に関する記述は世界中に残っている。



邪馬台国の「卑弥呼の死」が日食の年(247)であったという計算もあるが(特定不可)、歴史書に残る最古の事例は、推古天皇の時代(628)である(部分食)。

「日、蝕え尽きたる」とあり、その5日後に推古天皇は死去している。



日本の首都(京都)で初めて「皆既日食」が見れれたのは平安時代(975)。

「墨色の如くにて光無し(如墨色無光)」。この後、朝廷は「大赦(罪人の罪を減ずる)」を発布する。



多少印象的な日食は、源平合戦の最中(さなか)に起こる(1183)。

日中にも関わらず、突然辺りが暗くなる。何事ぞと空を見上げれば、なんと太陽が欠けていくではないか(天にわかに曇りて、日の光も見えず、闇の夜の如くなりたる)。

度を失った「源氏」の兵士は算を乱して退いてゆく。日食の起こりを予見していた「平氏」は、ここぞとばかりに重ねて攻め立てる。

源義仲が平氏に敗れた「水島の合戦」である。



最近の太陽の観察と言えば「黒点」などに注目が集まるものの、過去の人々にとっては、「日食」こそが明快な天体現象であった。

太陽が完全に月に覆われた時、太陽の明るさは100万分の1に減ずると言われている。源氏の兵士でなくとも、「何事か」と思わずにはいられない。



コロンブスは日食を予言して、西インド諸島の原住民を畏怖させたとも伝わる。

ヴァイキングたちの伝承では月を「オオカミ」にたとえ、太陽を追いかけるオオカミが太陽に追いつくと日食が起こると記されている。

そして、ついにオオカミが太陽を飲み込んだ時…、世界は終わる。



それでも、世界は続いてきた。

今も昔も、人々は日食に一喜一憂しながら。




出典:地球ドラマチック
「月と太陽の神秘(2)皆既日食が明かす太陽の力」



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posted by 四代目 at 05:33| Comment(0) | 宇宙 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年09月26日

太陽フレアとは? 大爆発による爆風が地球を襲う危険性が……。


今から20年ほど前、カナダ(ケベック)で「大停電(1989)」が発生する。

この大停電の原因は「巨大な太陽フレア」であった。

「フレア」とは太陽で起こる「大爆発」のことである。



太陽フレアは、太陽系で最大の爆発現象であり、その威力は水素爆発10万個分とも1億個分とも言われている。

その「爆風」や凄まじく、太陽系で最遠の惑星「海王星」まで到達する。



幸い、地球の周囲には「大気圏」と「磁気圏」という二重の防御圏があり、通常の太陽フレアくらいではビクともしない。副産物であるオーロラという美しい現象を楽しむ余裕すらある。

しかし、大規模な太陽フレア(大爆発)となると話は違う。

太陽系惑星のうちでも、地球は太陽の至近距離に位置しているため、その爆風たるや強烈である。さすがの地球の防御圏(大気圏・磁気圏)でも防ぎ切れない。



観測史上最大といわれる太陽フレアが起きたのは、今から8年前の2003年。

地球の磁気圏の外側にある「人工衛星」などはモロにその衝撃を受けた(わずか8分で到達)。日本の探査機「はやぶさ」も太陽光パネルが回復不可能なほど破損している。

宇宙空間にいる宇宙飛行士なども放射線で「被曝」する危険性があった(最悪、致死量に達することもある)。そのため、国際宇宙ステーションの宇宙飛行士たちは緊急避難を命ぜられた(放射線の到達までは数時間を要する)。

幸い、この時のフレアは地球をそれたため、地球上への被害は免れた。



しかし、上述の1989年のカナダ(ケベック)においては、太陽フレアにより電力網が破壊され、9時間に及ぶ「大停電」が発生したのである。

なぜ、太陽フレアが停電につながるのか?

太陽フレアが起きて2〜3日後に、太陽のコロナガス(プラズマ)が地球に到達する。

強い磁場を帯びたプラズマが地球の磁気圏に衝突することで、大規模な「電気エネルギー」が発生し、この巨大すぎる電気エネルギーが地球の発電設備をパンクさせてしまうのである。



現在では、「宇宙天気予報」というのが存在し、太陽の一挙手一投足は一時も休まず監視されている。

なにせ、現代社会は電気なしには成り立たない。大規模な太陽フレアが起これば、現代社会は完全にストップ。食料や水すら手に入らなくなる危険性がある。

幸い、地球に被害が及ぶのは太陽フレア発生から2〜3日後である。この間に、ささやかながらも何らかの手が打てる可能性があるのである。



今後、大規模な太陽フレアが発生することはあるのだろうか?

太陽は地球のような岩石ではなく、燃えたぎる火の海である。そのため、地球の海が回流するように、太陽の火の海も40年かけて大循環をしている(表面的なものではなく、内部深くから循環している)。

この循環スピードが速くなるほど、爆発エネルギーは太陽内部に充満していることになり、耐え切れないほど早くなった時に大爆発が起こる。

その周期はおよそ50年。



また、太陽には11年ごとに「極大期」と「極小期」を繰り返しているが、大循環のマックスと「極大期」が重なることで、大爆発の可能性はグンと高くなる。

カナダで大停電が起きた1989年は太陽の極大期に重なっている。

2003年の史上最大の太陽フレア発生時は、太陽が極小期に向かっている時期だったので、この時の大フレアは少々異常であった。

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太陽の内部循環の速度は「1986〜1996年」の間に最も速くなった。しかし、この時に溜め込んだエネルギーは十分に解放されていないと見られている。

つまり、現在においても太陽の巨大な爆発エネルギーは内部に留められたままなのである。



ところで、現在の太陽の活動の状況は?

2007年末に太陽は極小期に入った。翌年の8月には太陽の黒点はゼロに(黒点が多いほど太陽活動は活発である)。

黒点がゼロになるのは1913年以来であり、実に100年ぶりの元気のなさであった。2009年も1月、2月、8月が黒点ゼロ。この辺りが極小期の「底」であった。

ようやく2009年後半からは、徐々に太陽の黒点は増えだし、この傾向は現在まで続いている。



今後の予測として、来年(2012年)は黒点の増加が続くと見られている(宇宙天気情報センター)。

しかし、前回の黒点ピークと同様、次回のピークも低めに終わる可能性が高いようだ。

ちなみに、1980年頃と1990年頃の極大期には黒点の数(月平均)が200を超えていたが、前回の2000年頃はピーク時でも黒点の数(月平均)は150程度であり、それ以前のピークよりも2〜3割減であった。



最近の太陽活動の傾向は、極小期が長く続き(通常の11年周期以上)、極大期においてもピークが低めになっている。

そのため、「地球は氷河期に入るのでは?」と囁かれたり、「今回、太陽の極大期のピークが2012年までずれ込んでしまったのは、マヤ暦の終末予言の通りだ」との憶測も飛び交っている。



いずれにせよ、太陽の活動が地球に多大な影響をおよぼすことは、紛れもない事実である。

しかし、近年の太陽の活動は過去からの予測を逸脱することが多く、今後の予想が困難となってきている。そのため、太陽活動を巡る論争は、氷河期から史上最大の太陽フレアとまで両極端である。



もし発生すれば、現代社会に多大なダメージを与えかねない巨大太陽フレア。

その前兆を一刻も早くとらえんと、科学者たちは太陽を凝視し続けている。

先月9日にも巨大な太陽フレアが発生したばかりだ。



画像:地球ドラマチック
「月と太陽の神秘(2)皆既日食が明かす太陽の力」


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2011年09月22日

日本人たちの不屈の精神が、探査機「はやぶさ」を地球に帰還させた。絶望に次ぐ絶望の果てに見た「大きな希望」。


探査機「はやぶさ」の使命(ミッション)は、小惑星「イトカワ」から「何らかの物質」を地球に持ち帰るというものであった。

小惑星「イトカワ」とは、ラッコのような形をした500m長の小さな惑星である。

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こうした試みは「世界初」であり、その成否には大いに懸念がもたれた。

しかし、この「はやぶさ」はどんな絶望をも乗り越え、ついにはそのミッションを完遂してしまうのである。



常識的な頭で考えれば、「はやぶさ」は地球に帰って来れなくて当然であった。それほど「はやぶさ」の受けた傷は致命傷だったのだ。

ところが、ここに「絶対に諦めない日本人たち」がいたのである。



「はやぶさ」は目的地の小惑星「イトカワ」までは、まずまず予定通りに着いたといってよい。

重大な問題が発生するのは、「イトカワ」への着陸の時である。

グラリとバランスを失い地面に激突。ボンと跳ね返され、ボールが跳ねるように何度か地面に叩きつけられる(重力は地球の10万分の1)。そして、ピタリと動かなくなってしまう。

転がったまま30分が過ぎた後、ようやく「はやぶさ」は立ち上がり、何とか「イトカワ」を離脱する。



当初の予定では、鳥の隼(はやぶさ)のように、一瞬だけ「イトカワ」に接地し、瞬時に舞い戻るはずであったのだから、「はやぶさ」は思わぬトラブルに見舞われてしまったことになる。

この時のダメージで機体が破損していたことは、後々判明する。



「イトカワ」で転倒してしまった「はやぶさ」は、「イトカワ」の物質を採取し損ねていた可能性が高かった。

そのため、再トライが必要とされた。しかし、また失敗したら地球に帰って来れなくなるかもしれない。悩ましい選択が迫られることとなる。

その決断は……、「Go」。

「はやぶさ」の使命は何だった? 何も持たずに地球に帰って来ることか?



2度目のトライは、あまりにも見事であった。

まさに隼(はやぶさ)のごとく瞬間的に獲物を捕らえることに成功した。

それもこれも、素晴らしい決断のおかげであった。

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さあ、地球へ帰ろう。

ところが、突如「はやぶさ」からの通信が途絶える。

「はやぶさ」が何処(どこ)にいるか分からなくなった。「迷子」である。

探すアテは、「はやぶさ」の周波数を捉えることだけだった。しかし、「はやぶさ」の周波数はリセットされてしまっていたらしく、「はやぶさ」がどんな周波数を発しているのか分からない。周波数には430もの選択肢があったのだ。



この時、さらに悪いニュースがもたらされる。

2度目のトライの時、予定の弾丸が発射されていなかったことが判明したのである(弾丸をイトカワに撃ちこむことにより、舞い上がったホコリを採取する計画であった)。

痛恨のプログラムミスである。働かなくてもよいはずの安全装置が作動してしまっていた事が判明したのだ。

「はやぶさ」は消えた……。しかも、「はやぶさ」は何も持っていないかもしれない……。



それでも、諦めるわけにはいかない。

「はやぶさ」は何かを持っているかもしれない。



必死の捜索が始まった。

「はやぶさ」が地球の方を向いた瞬間に、地球から周波数を送れば、「はやぶさ」に周波数をキャッチしてもらえるかもしれない。

ひたすら、信号を送り続けた。430種類の信号を絶え間なくである。



40日後、諦めかけていたその時、「はやぶさ」から奇跡の応答があった。

「はやぶさ」は生きていた!



ところが、ようやく見つかった「はやぶさ」の機体はグラグラと安定しない。

宇宙では、「縦・横・高さ」の3つの軸をコントロールする必要があるのだが、「はやぶさ」は3つのうち2つの制御装置がすでに壊れてしまっていた。

さらに悪いことには、転倒による衝撃の傷口から気体が漏洩しており、ますます体勢は崩れるばかりであった。「はやぶさ」は「よろめく独楽(コマ)」のようにフラフラである。



制御できない2つの軸を何とかコントロールしなければ、「はやぶさ」は地球の方向を向くことすらできない。さあ、どうする?

ここで名案が湧き出た。「太陽の力」を借りれば良いというのだ。太陽の照射する光は、少なからず外側へ押す力を持っている。その力で「はやぶさ」を押してもらうのだ。

この名案は、見事に「はやぶさ」の向きを整えてくれた。



残るはもう1つの軸。

この調整には、「はやぶさ」自慢のイオンエンジンによるコントロールが試みられた。

エンジンの向きを調整しながら、体勢を制御するのだ。

しかし、「はやぶさ」のミッションは予定より大幅に遅れており、燃料は底をついて次々とエンジンが停止。万策尽来たか…。



その時、またしても名案が。

4つあるエンジンは、それぞれプラス極とマイナス極がある。偶然にも、4つずつある各極のうち、1つずつが生きていた。それを繋げばよい。

通常、4つのエンジンはそれぞれ独立しているため、プラスとマイナスの組み合わせは決まっていた。ところが、奇跡的に違う組み合わせもできるような部品が組み込まれていたのである。



その部品は、長さ5cm、重さ1gという小さなものであった。しかし、最終的に「はやぶさ」を救ったのは、この小さな部品であった。

重さの制限が厳しかった「はやぶさ」は、極限まで部品を減らしていた。ところが、この小さな部品だけは「想定外」に備えて取り付けられていたのである。

今こそが、その想定外。万が一であった。



「はやぶさ」はピタリと体勢を整え、一路地球を目指す。

見えてきた。地球だ!

地球を飛び立ってから、すでに7年の歳月が流れていた。数々のトラブルに見舞われた結果、予定よりも3年遅れてしまっていたのである。



大気圏に突入する直前、「はやぶさ」は懐かしき母国・地球の姿を、自らの眼である「カメラ」に収める。

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そして、そのまま焼滅……。

大切な「イトカワの物質」の入ったカプセルだけは、燃え尽きることなくオーストラリアの砂漠へと無事落下。この砂漠はアボリジニ(オーストラリアの原住民)の聖地であった。



宇宙の小惑星から物質を採取できたことは、まことに快挙であった。

失敗したかと思われていた2度目のトライにおいても、見事「イトカワの物質」を採取できていたことが判る。嬉しい誤算である。

「はやぶさ」の送った画像や持ち帰った物質からは、今までの常識を覆すような事実が次々と明らかになっている。

「はやぶさ」の功績は、地球人の宇宙への理解を大きく前進させたのである。

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「はやぶさ」が宇宙に滞在した日数は「2,592日間(世界最長)」

旅した距離は「60億km(世界最長)」



不屈の日本人が成し遂げた偉業である。

どこで絶望してもおかしくはなかった。

それでも諦めなかったからこそ、絶望の先の希望にたどり着くことができた。



「はやぶさ」の開いた宇宙の扉は大きかった。

今まで宇宙に興味がなかった人にも、宇宙の魅力を教えてくれた。

「はやぶさ」の遺伝子は「はやぶさ2」へと受け継がれ、「今や遅し」とその出立の時を待ち構えている。




関連記事:
惑星を巡る壮大なツアーを成し遂げたボイジャー。その旅はまだまだ終わっていない…。

火星は地球の未来の姿かもしれない。火星探査機たちの冒険。



出典:コズミック フロント〜発見!驚異の大宇宙〜スペシャル
「大冒険!はやぶさ 太陽系の起源を見た」


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2011年09月19日

月のおかげで、地球の傾きは安定している。ところが、その月が遠ざかりつつあるのだとか……。

「月」は地球から離れつつあるのだという。

月は「一年におよそ3.5cm」ずつ地球から遠ざかっている。

月が離れすぎると、地球には数々の異変が起こると言われているが……。



月の誕生は「45億年前」と考えられている。

45億年前、グツグツと煮え立った「原始地球」に、火星ほどの大きさ(地球の半分ほど)の星(テイア)が「激突」。

その激突には「45°の角度」がついていたため、地球は決定的な破壊を免(まぬが)れた。しかし、その凄まじい衝撃により、地球のマントル(核)の一部が破壊されて地球周辺に撒き散らされる。

そして、それらの破片が集まって「月」ができた。月ができるまでに要した時間は、「わずか一ヶ月」と言われている。

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「テイア」の激突は、地球に破滅的なダメージを与えたものの、その副産物としてできた「月」によって、地球は恒久的に守られるようになった。

月は地球の何を守っているのか?

「地球の軸(地軸)の傾き」の角度(現在23.5°)を守っているのだという。

玉である地球は本来コロコロと転がりやすい。ところが、地球と月がお互いに引っ張り合うことにより、地球は横倒しになることなく、キリッと立った状態をキープできているのだそうだ。

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できたてホヤホヤの「月」は、地球にピッタリと寄り添っていた。

その距離は3万2,000キロ、現在(38万キロ)の10倍以上も近かった。そして、両者が近い分だけ、お互いが引っ張り合う力も強かった。

そのため、地球は今以上に「直立」しており、地軸の傾きは「10°」しかなかったという(現在23.5°)。

さらには、地球の回転(自転)も今より高速で、6時間で一周していたそうだ。つまり、一日が24時間ではなく、「6時間」だったのである。

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長い長い年月を経て、月は少しずつ少しずつ地球から離れていった。

そのペースは「一年に2cm」ほどだったという。

こうした長い年月のすえ、月と地球は今の関係に落ち着くことになった。一日は24時間になり、地軸の傾きは23.5°に落ち着いたのだ。

おかげさまで、地球は毎年「ほぼ安定したリズム」を刻めるようになった。



もし、地球に月がなかったら、こうした安定は得られなかったかもしれない。

その実例は「火星」である。

地球は月と引っ張り合うことで傾きを安定させているが、火星には月のような巨大な衛星はない(小さい奴はある)。

そのため、火星の軸はフラフラである。0〜60°ほどフラつくという。直立したり、横倒しになったりと不安定極まりない。60°も傾けば、地球でいうと「赤道」がモスクワやロンドンあたり(北緯50数度)まで来ることになる。

火星は「傾き」が定まらないまま太陽の周回を続けたため、全面がコンガリと太陽で焙(あぶ)られた。かつては「水」があったとも言われているが、今はカラカラに乾燥した赤い大地が広がるのみである。

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火星がフラつく理由はもう一つある。

「木星の引力」である。

木星は太陽系最大の惑星で、火星の20倍以上の大きさがある。そのため、火星はお隣りの巨大すぎる引力の影響をモロに受けてしまうのである。この点、火星は木星の独裁化にあるようなものである。



木星の引力は地球にも影響を与える。木星は地球と比しても10倍以上のサイズがある。

ところが幸いなことに、地球には月がある。地球は月と協調する(お互いに引っ張り合う)ことにより、木星の引力の影響をあまり受けずに「独立した回転」を保つことができているのである。



ところが、そのベストパートナーである月が地球から離れていっている。

離れるほどに、お互いの引き合う力は弱くなる。

かつては一年に「2cm」だったペースが、「3.5cm」へと拡大している。

月の支えは少しずつ弱まっている……。

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このまま進めば、地球の独立は危うくなり、火星と同じようにフラフラと軸がブレてしまう可能性がある。そうなると、地球は火星化しかねない。ヤバッ。

この点に関しては、良くも悪い事実がある。

月が地球を離れるペースよりも、太陽が膨張するペースの方が早いのだそうだ。

つまり、月が地球から離脱する前に、地球と月は巨大化した太陽に飲み込まれてしまうのだという。

これほどのスケールになると、人智も及ばなければ、人命も持たない。10億年単位の話であり、SFである。

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ここまで話を大ゲサにする必要はない。

しかし、月と地球の距離が変わるということは、地軸の傾きに変化を与える可能性があることは確かである。今までも月が地球から離れることにより、地軸が10°から23.5°へと変わっている(40億年以上かかったが)。

現在23.5°の傾きであるが、これが1〜2°変わるだけでも地球環境にとんでもない影響を与えかねない。

地球温暖化のシミュレーションを思い出してみるとよい。気温が6℃も上がってしまえば、その未来は現在とは激変するのである。

それが、気候の大元である地軸の変化となったら……。



また大ゲサになった。

宇宙の尺度は「億年」単位である。

つまり、こうした変化も「億年」単位。



人間の一生はどんなに頑張っても「100年」単位。

この儚(はかな)さは、宇宙のどんな些細なものよりも儚(はかな)い。



出典:地球ドラマチック
「月と太陽の神秘(1)地球が月と離れる日」


posted by 四代目 at 08:03| Comment(1) | 宇宙 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする