2013年05月09日

コンコルドの見果てぬ夢。超音速旅客機とソニックブーム



太平洋をはるかに隔てた東京とニューヨーク。

その遠大なる距離を一気に縮めたのが、航空機による直行便。およそ40年前、東京とニューヨークは一本の線で結ばれたのだった。



「たとえ2時間でも早く着きたいとという人には、これはもってこいの飛行機ですねぇ」

当時の飛行時間はおよそ14時間。

東京-ニューヨークの直行便は、大いに歓迎された。



あれから40年、航空機の技術は目覚ましく進化した。

より大きく、より安全で、より快適な飛行機が、次々と生み出された。



ところが、40年来、一貫して変わらぬものがある。それは14時間という飛行時間の長さ。これほど技術が進歩したはずなのに、なぜかそればかりは一向に縮まる気配がなかった。

それもそのはず。技術者たちは「音速のカベ」に阻まれていたのである。






◎ソニックブーム



飛行機が音速(マッハ1)を超えることは簡単だった。

しかし、音速を超えた時に発生する「ソニックブーム」と呼ばれる爆音ばかりは、どうしようもなかった。



ドン! ドーン!!

心臓にドスンと響くその音というか、ボディーブローのような衝撃波。

音速(およそ時速1,225km)を超えた飛行機が上空を通過する時、それは地上の人々を直撃するのであった。



花火の打ち上げを間近で感じると、その音の振動の凄まじさに驚く。改めて、音とは衝撃であることに気付かされるわけが、ソニックブームによる衝撃波は、空気が極度に圧縮されることによって生ずるものである。

音速(マッハ1)までは問題ない。飛行機が進むことによって押しのけられた空気は、上下左右にその逃げ道がある。しかし、空気は音速よりも速く動けない(逃げられない)。ゆえに音速を超えた飛行機は、その先端部分もしくは横に広がった翼の部分で、グングンと空気を押し縮める。



その極端に圧縮された空気の塊が、津波のように地上まで到達する。それがソニックブームである。

ドン! ドーン!! と2回衝撃波が来るのは、まずは圧縮された空気、次に引き潮のように、薄くなりすぎた飛行機後方にむかって、空気が猛烈に逆流するためである。



余談ではあるが、今年(2013)2月、ロシアに落下した巨大隕石は、ソニックブームの特大版であった。

音速のおよそ50倍で落下したという巨大隕石。その衝撃波は半径100kmにも及び、周辺家屋の窓ガラスは「音の衝撃波(ソニックブーム)」でことごとく砕け飛んだ。外傷者のほとんどが、衝撃波によるガラス傷。人間ごと吹き飛ばされたケースさえあった。






◎超音速旅客機「コンコルド」



ソニックブームの衝撃波は、距離を経れば経るほど、その力は弱まる(減衰)。

ならば、よっぽど空高くを飛べば、地上にまで届く衝撃波は大したことがなくなるのではないか。1960年代の技術者たちは、そう楽観的に考えた。

ところが、通常高度の2倍にあたる上空2万メートルを飛行しても、ソニックブームによる衝撃波には依然として凄まじいものがあった。要は、期待されたほどに減衰しなかったのである。



では、飛行機それ自体の「空気抵抗」を減らしてはどうか。

空気を真っ先に受ける機首をできるだけ細長くして、最も面積の広い翼の部分を、後ろに寝かすように鋭利にすれば良いのではないか。

そんな発想のもとに造られたのが、超音速旅客機「コンコルド」。イギリスとフランスによる、国家の威信をかけた「ソニックブームへの挑戦」であった。



1969年、コンコルドはプロトタイプ機の初飛行に成功。

超音速飛行を追求したというそのデザインは、じつにスリムで美しい。ツンと伸びた細長い鼻面は、空港では少し下を向くようにできていた。



1976年に運用開始。その未来的な勇姿は、否が応にも人々の期待を高めたものだった。

「コンコルドの誕生によって、世界の距離は一気に縮まる」

世界初の超音速旅客機の誕生に、誰もがそう信じていた。










◎ソニックブームの壁



高度5万5,000〜6万フィート(1万6,000〜1万8,000m)

飛行速度は、マッハ2(音速の2倍)

コンコルドの高度・速度は、ともに従来機の2倍であった。しかし悲しいかな、計算され尽くされていたはずのソニックブーム対策は、奏功していなかった。



「あそこだ!」

はるか上空を飛行するコンコルド、そのまっすぐな航跡が、飛行機雲となって地上から見える。

「すごい速さだ…」

「音速を突破した! 来るぞ!」

ドン! ドーン!!

凄まじい爆音、そして衝撃波。コンコルドが上空を通過するたびに、地上の人々はとんでもない迷惑を被った。







音速は超えたコンコルドであったが、ソニックブームの解消には失敗していた。猛烈な抗議、クレームを受け、いずれコンコルドは「陸上飛行」を禁止されてしまう。

となると、飛行航路は限られてしまう。コンコルドに与えられる航路は大西洋上くらいしかなかった。そして最終的には、エールフランスとブリティッシュ・エアウェイズの2社のみの運行に留まった。






◎コンコルドの誤謬



「250機で採算ライン」

そう言われていたにも関わらず、コンコルドのキャンセルは相次いだ。

当初は100機ちかいオーダーがあったというコンコルド。しかし、ソニックブームをはじめとする様々な問題が折り重なり、ついに製造されたのは、わずか16機のみ。試験機を合わせても20機にしかならなかった。



わが日本航空(JAL)も3機の導入を計画していたが、尾翼に「鶴丸マーク」のついたコンコルドは夢と消えた。

そもそも、速いけれども燃費の悪いコンコルドは、途中給油なしに太平洋を一跨ぎにすることができなかった。さらに、オイルショックによる燃料費の高騰は、泣きっ面にハチとなる。

また、極限まで空気抵抗を減らしたコンコルドは、その機体内部が不快なほどに狭く、高いところで180cmほどしかない。100人乗るのがせいぜいであった。



経済学などでよく登場する「コンコルドの誤謬」という専門用語は、このコンコルドの失敗を揶揄する言葉でもある。

大金を投じたにも関わらず、運行を開始しても損失ばかりが膨らんでいく。だが、それまでの投資を惜しむあまり、やめるに辞められない。



コンコルドに終止符を打つのは2003年。

その3年前(2000)にエールフランス機が起こした炎上・墜落事故は、象徴的な出来事であった。炎を引きずるように離陸したコンコルド。その原因は、滑走路に落ちていた落下物がタイヤをバーストさせ、燃料タンクを破損させたことであった(死亡113人)。

こうして世界初の超音速旅客機は、世界唯一のそれとして、その幕を閉じた…。










◎囚われ



ついに見果てぬ夢と消えた超音速機。

時代は速さよりも、大型化、快適性、高燃費のほうに動いていった。



それでも、夢を見たい。ソニックブームを解消して、超音速で飛ぶ夢を。

英仏がコンコルドを作っていた時、アメリカもまた超音速機にチャレンジしていた。翼の空気抵抗によるソニックブームを軽減しようと、飛行中に翼を後方に下げる「可変翼タイプ」をアメリカは模索した。

艦上戦闘機にF-14(トムキャット)というのがあるが、当時のアメリカが作った超音速機はそれと似ていた。しかし無念。音速は超えられるが、ソニックブームの衝撃波ばかりは抑え切れず、実用化されぬままに中止となってしまった。







イギリス、フランス、アメリカ。

第二次世界大戦の戦勝国組は、実用可能な超音速機に届かない(戦闘機はいくつか作ったが)。

そもそも、形は異なれど、その発想は五十歩百歩。「空気抵抗を減らす」ということばかりに囚われていた。






◎日本における研究



現在、世界中でソニックブームを解決するための研究が継続している。その中で、ひとつ頭抜けているのが、わが日本だという。

日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)による「D-SEND(ディセンド)プロジェクト」というのは、ソニックブームを半減させることを目的とした超音速機の研究開発。



そのスペシャリスト、牧野好和さんは、最新のコンピューター・シミュレーションを用いて、コンコルドから出ていた衝撃波を詳しく解析した。つまり、コンコルドの失敗をその叩き台としたのである。

すると、コンコルドの尖った機首部分の衝撃波は、さほどではないことが判った。この点、空気抵抗を減らす努力は功を奏していた。しかし、問題は別の部分、翼付近にあった。

ここから発生するソニックブームは、機首よりもずっと大きいものだったのである。この点、アメリカの超音速機が翼を後ろにたたむのは、じつに理に適ったことであった。



飛行機が浮かび上がるためには、翼の空気抵抗によって生まれる揚力が必要とされるが、その抵抗が大きいほどにソニックブームが大きくなってしまう。ここには二者択一のトレードオフの関係があるようだった。

そのために、かつては空気抵抗を減らすことに躍起になっていたのだった。



だが、JAXAの牧野さんが注目したのは、空気抵抗そのものではなく、機首と翼のソニックブームが「合わさって」減衰しにくくなっているという点だった。

個々のソニックブームだけであれば確かに、上空から地上に伝わる間で十分に減衰していく。だが、その2つが途中で合わさることによって、ソニックブームの勢いは衰えずに地上に響くのであった。






◎分散



ならば、発想を逆にしよう。

あえて、空気抵抗をつくるのだ。



そんな考えから、JAXAの開発する「D-SEND(ディセンド)」という超音速機の機首は、あえて丸みを帯びている。

「先端で、あえて強い衝撃波を発生させればいいんです」と牧野さんは言う。



機首と翼、それぞれのソニックブームは、翼によるそれの方が大きいために、後から発生するはずの翼のソニックブームが機首のそれに追いついてしまう。そうして両者が合体してしまうことに問題があった。

そこで、機首の空気抵抗を大きくした。そうすれば、後ろからくる翼のソニックブームに追いつかれない。

ソニックブームを弱らせるカギは、空気抵抗の軽減のみならず、その「分散」にあるようだった。



同じ原理で、翼の下の胴体にも丸みを持たせた。

空気抵抗を翼以外にも発生させることによって、やはりソニックブームは分散され、いずれ勢いを失うのであった。






◎「D-SEND#2」と「MISORA」



ソニックブームを極限まで減らすように作られた「D-SEND#2(ディセンド2)」。

それはコンコルドのように鋭利な形のなかに、生きものの鳥のような優雅な丸みを併せ持つ。

カモノハシのような機首はいくぶんシャクれており、翼の下の胴体は、子持ちシシャモのように豊かな膨らみを抱いている。



計算上、D-SEND#2(ディセンド2)のソニックブームは、コンコルドの4分の1にまで軽減されている。

だが、欧米の航空先進国に認めてもらうには、「紙と鉛筆と計算機」だけでは説得力に欠ける。必ず実証実験の結果が求められるのである。

まだエンジンを持たぬD-SEND#2(ディセンド2)ではあるが、気球で上空30kmにまで運び上げ、そこから自然落下させることで、いかなるソニックブームが発生するかが検証できる。その実験は、今年(2013)8月、スウェーデンの上空で行われる予定である。







また、別の研究として、東北大学の流体科学研究所では、「複葉機(翼が上下2枚の飛行機)」の超音速機を開発している。

こちらもまた、あえて翼の空気抵抗を増やすことによって、ソニックブームを低減させようという試みである。上下2枚の翼の間にソニックブームの衝撃をサンドイッチで挟み込み、それぞれの翼で発生するソニックブームを同士討ちさせてしまおうという作戦だ。

先端にいくに従って、細くなっていく翼。上下両翼の隙間も、先端にいくほど狭まっていく。



この「MISORA(みそら)」と名付けられた東北大学の超音速「複葉機」。

その機体はほとんどが幅広の翼であり、乗客も翼の上にちょこんと乗る格好だ。その姿は、小説の中の未来型飛行機のようである。

「ソニックブームの目標は、『ノックの音』くらいです」と、東北大学の大林教授は、その野心をのぞかせる。






◎未来の種



空気抵抗を減らそうという発想をひっくり返し、それを分散させようという思考に切り替えた日本の研究者、そして技術者たち。

いよいよ、次世代の飛行機が誕生する日が近いのかもしれない。もし実現すれば、東京-ニューヨーク間は、14時間の壁を一気に半減させる可能性を秘めている。じつに半世紀ぶりに。

その成功を見越して、すでに世界では「ソニックブームの許容範囲」に関して国際的に基準をつくろうとの議論が始められている。



思えば戦前、日本は飛行機大国であった。日本の開発したゼロ戦は、当時最高峰の戦闘機であり、アメリカ軍を怯えさせていたのである。

ところが戦後、日本の重工業は戦勝国によって禁じられた。その高い技術力を恐れられたのである。



そして今、戦後から大いに遅れをとっていた日本の飛行機は、超音速機の技術でふたたび世界の注目を集め始めている。

返り咲けるか、ニッポン。

未来の種は、こんなところでも芽吹き始めていたようだ…






(了)






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出典:NHKサイエンスZERO
「打倒ソニックブーム! 超音速旅客機の挑戦」

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2012年06月01日

飛行機ができるのは1000万年後と考えられていた100年前。過去の不可能は次々と…。


今から100年以上前、「飛行機」は存在していなかった時代に、ケルヴィン卿はこう断言した。

「空気よりも重い飛行機械は、不可能である(1895)」

そして、同時代の空気力学の専門家たちも、こう考えていた。

「1,000万年後だったら、空飛ぶ機械も作れるかもしれない(1903)」



彼らは知らなかったのだ。飛行機時代の夜明けが、もうそこまで来ていることを…。

そのわずか2ヶ月後である。ライト兄弟が空に浮いたのは…。

飛行時間はたったの12秒、その距離は40mにすぎなかったのだが、100年後に生きる我々は、その小さな一歩がどれほど偉大なものだったのかを十分に理解することができる。

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それでも、その時代の人々は夜明けに気付かなかった。ライト兄弟の小さすぎる一歩は、依然として嘲笑われていたのである。

フランス陸軍のフェルディナント・フォッシュ将軍は、こんなことを言っている。

「飛行機は面白いオモチャだが、軍事的価値はない」

100年後の未来から見れば、その「面白いオモチャ」がどれほど攻撃的になれるのかを簡単に知ることができるのだが…。



こうした「不可能発言」は、過去に幾度となく出されている。

そして、その時代に不可能と思われていたことで、現代の「常識」となっていることも少なくない。上述の飛行機の例のように。



現代に生きる我々は、過去の人々の「先見の明のなさ」を笑うことはできない。

なぜなら、我々だって「現代のライト兄弟」を信じずに、彼らを笑うのであろうから。



たとえば、マッハ20で飛ぶ飛行機を想像できるだろうか?

マッハ20と言われてもピンとこないかもしれないが、その速度はアメリカ大陸の東の端(ニューヨーク)から西の端(ロサンゼルス)まで10分しか要せず、一時間もあれば、地球上のどこへでも行けることなる。



確かにそんな「極超音速」はいまだ実現しておらず、それは「不可能のカベ」の向こう側にある話にすぎない。

それでも重要なのは、その不可能に挑んでいる「現代のライト兄弟」が存在しているということである。



マッハ20という世界において、飛行機の翼は2000℃もの高温に晒される。

その高温は、並みの翼の金属を溶かすには十分な温度であり、太陽に向かって飛んだイカロスのように、翼は溶解する温度である。



マッハ20を夢見る人々たちは、そんな不可能な話にトンと無関心なのかもしれない。

彼らはその飛行機をロケットに乗せて助走をつけて、大気圏に向けてブッ放したのである。

その結果は…、見事に太平洋に落下。それでも、この暴挙を実行に移したことで、机上で30年間考えていたことよりも多くの果実(データ)が得られている。

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夢見る人々は、一般人が言う「失敗」にも関心がなさそうである。

懲りない彼らは2回目も計画し、再びその飛行機を太平洋へと墜落させた。



彼らは同じ轍を踏んだのか?

そうではない。太平洋に落下する前の3分間、機体は完全に制御されていた。

それは言わば、ライト兄弟のたった12秒間の飛行のようなもの。バカにするのは簡単であるが、この小さな一歩が後世にどう評価されるのか?

今はその答えが分からないだけである。



「かつて行われたことのない途轍もないことをするには、実際に飛ばすしかありません。

飛ぶことなしにマッハ20の飛行について学ぶことはできないのです」



極超音速の高みを目指す彼らは、同時に小さな小さなムシの目をも持っている。

「ハチドリ」という鳥は、後ろに飛べる唯一の鳥である。後ろどころか、上下左右、たとえ身体が逆さまになってもハチドリがコントロールを失うことはない。

そんな鳥の世界でも高い運動能力を持つハチドリ。その飛行を模倣した「ハチドリ・飛行ロボット」の試作機が完成している。

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本物のハチドリとの違いは「蜜を吸わないこと」。その重さは単三乾電池よりも軽量である。

この不可能を実現するために、失敗した試作機は数知れず。最初の成功例は2008年、飛行時間はたったの20秒。

それでも懲りない面々はその結果を前向きに受け止めることしか考えていないようである。



「コップに水が『半分しかない』と考えるのか、それとも、『半分もある』と考えるのか。

いや、彼らはコップの底にわずかしかない水を見て、このコップには『空気がいっぱい入っている』と考えるのだ」



空中に静止したり回転することもできる「ハチドリ・ロボット」は、現在10分以上飛び続けることができるまでになっている。

「飛ぶ方法を学ぶには、飛ばす以外にないのです。

失敗を恐れていたら、新しく凄いモノを作るのは不可能です」



かつて、クレマンソーはこう言った。

「人生は失敗したときに、面白くなる。

失敗は『自分を超えたという証し』だからだ」



しかし、常識的な大人たちにとって、失敗を恐れないことはできない。

「不可能のカベ」に行く手を遮られる前に、早々に「不可能宣言」を出しておく。



ここに、こんな問いかけがある。

「絶対失敗しないと分かっていたとしたら、どんなことに挑戦しようと思うだろう?

What would you attempt to do if you knew you could not fail?」



常識的な「先見の明」は、失敗を予見するのみであり、まさか不可能が可能になるとは考えない。この先見の明を「大人心」とも言うのだろう。

ところが、その大人心に対して、「子ども心」ばかりは「絶対に失敗しない」と思い込んでいたりもする。その自信にまったく根拠がないとしても…。

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そんな「子ども心」は、すぐに何かに夢中になって、失敗という可能性は眼中から消え失せるのであろう。

実際、この「夢中になる力」が失敗を恐れないコツでもあるようだが…。



子ども達は、夢中になるのに忙しい。

「空飛ぶマントにアイロンをかける時間くらいしかないからね。すぐに空に戻らなくちゃいけないんだ。

There is only time enough to iron your cape...and back to the skies for you」



彼らの心の中のスーパーヒーローは何でもできる。

不可能のカベも簡単に乗り越え、失敗するかもしれないなどとは考えない。

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本当は大人心でも「不可能が可能になること」くらい知っている。このインターネットで起きている奇跡を、実際に目の当たりにしているのだから。

40年前の一番最初のインターネットで送れた情報は、「たった2文字」だけだった(1969)。「Login」という単語の最初の2文字「LとO」を送信したところで、システムがクラッシュしてしまったのだ。

それが今や、世界を動かす原動力となっている。



失敗を回避する能力に長けた大人心は、こう考える。

「きっと他の誰かがやってくれるだろう。

もっと頭が良くて、もっと能力があり、もっとお金に恵まれた誰かが…」



「他の誰か」とは?

あの日のライト兄弟であろうか。



失敗の先頭に立つことは、たいへんに難しい。

しかし、それをフォローすることくらいは出来るかもしれない。わざわざ先回りして「不可能宣言」を出して、「他の誰か」の行く手を遮る前に…。

もっとも、「夢中になって空を飛んでいる子ども心」には、その宣言すら耳に届かないのかもしれないが…。





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出典:
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2011年12月12日

どこか日本くさい「ボーイング787」。そこかしこに見え隠れする日本の影。


なぜ、ボーイング787は「夢の飛行機」と呼ばれているのか?

その秘密を、今回はその「美しさ」から見ていってみよう。



従来のジェット機に比べて、「787」の雄姿には「柔らかな」美しさがある。

天空を飛ぶ「787」の両翼を見れば、優美に「反り上がって」いる。それは、あたかも日本刀の「反り」のように洗練されている。

そして、翼の突っ先(先端)も、書道の「はらい」のようにスーッと滑らかである(従来機は翼の先端を切り落とされたようにピタリと止められている)。

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「787」の姿には、どこか日本的な美しさを感じるところがある。

それもそのはず。この機体の35%は日本の技術。本国アメリカでも「Made with Japan」と呼ばれているのだとか。



「787」の美しさは「デザイン性」を高めるために成されたわけではない。徹底した「機能性」を追求した結果、上記のごとき「機能美」に至ったのである。

なぜ、翼を「反り上げる」と機能性も上がるのか?

それは、その反りが機体の揺れを「吸収」するからである。



「787」の翼は、止まっている時には、それほど反り上がっていない。

正面からの空気抵抗を受けて初めて、その抵抗を受け流すかのように反り上がるのである。まるで、翼が生きているかのように「しなやかに」動くのだ。

そのため、飛行中に機体が傾いても、そのブレをしんなりと吸収しながら、「反動もなく」機体を元に戻すことができる。その結果、飛行機に乗っている人は「揺れ」をあまり感じずに済む。



それに対して、従来機の翼は、硬直したかのように真っ直ぐにピーンとしたままである。

飛行中に傾けば、戻る時の反動が反対側まで行き過ぎてしまい、今度は反対側に傾いてしまう。そして、それをまた戻して…。

その結果、機体のブレが収まるまでには、右に左にとユラユラと振られてしまう。乗っている人はガタガタと揺れるのを感じざるを得ない。



「787」が柔らかな手足を持っているとすれば、従来機のそれは力み過ぎている。

「787」が手足(翼)の衝撃を体(機体)にまでは伝えないのに対して、従来機の受ける衝撃は、体幹部をも揺さぶるのである。



さらに、「787」の翼の先端はスーッと細く長く伸びているため、翼の乱気流が発生しにくく、翼の受ける空気抵抗も滑らかだ。

ところが、ガチガチの従来機の翼の先端は、先を折られたように止まっており、その突然終わった先端が大きな乱気流を発生させ、平穏な空を飛んでいる時ですら、その翼は余計な力を受け続ける。

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「形が違えば、ここまで違うか」というほどに、「787」の美しさは機能的なのだ。

そして、この美しさを可能にしたのが「日本の技術力」。

具体的には「炭素素材」という画期的な新素材の活用にある。



従来機の飛行機は、機体や翼のほとんどが「アルミ合金」で出来ている。

それに対して、「787」のそれらは90%以上が「炭素繊維」である。



この炭素繊維というのは「軽くて強い」。

「重さは半分で、強度は2倍」という優れものだ。金属と同じ重さで比較すれば、その強度は4倍ということになる。



繊維というだけあって、元々の素材は髪の毛の10分の1ほどに「か細い」。

一本一本はか細く、垂直方向の力には極めて弱い。

しかし、この細い細い繊維が、お互いの弱点を補い合うかのように、縦に横に斜めに、あらゆる方向で何重にも交差することにより、金属にも勝る強度を持つに至る。

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ある実験では、炭素繊維とアルミ合金の「引っ張り強度」を競わせていた。

両者の引っ張りを開始すると、アルミ合金は1トンの力を超えるあたりから、まるで飴のように伸び始めた。そして、1トン半ぐらいの力になると、「バチンッ」と千切れてしまった。

かたや、炭素繊維の方はというと、引っ張る力が3トンを超えても、一向に伸びたりはせず、あたかも何の力も受けていないかのように平静を保っていた。

恐るべし炭素繊維。アッパレ、日本の技術力。



「787」が夢の飛行機と賞賛されるのは、この炭素繊維の恩恵によるところが非常に大きい。

軽くて強い炭素繊維がなかったら、あの美しい翼は作れなかった。



じつは、翼を反らせて、先端を細長く伸ばした方が良いというのは、「紙飛行機」でも飛び方が良くなるほどに、明らかなことである。

しかし、それをジェット機で実現できる「素材」がなかったのである(炭素繊維が翼に応用されるまでは)。



軽い炭素繊維のおかげで、機体は20%も軽くできた。

軽いほどに「燃費」は良い。

そもそも、ジェット機ほどに燃料を食う乗り物も他にはない。通常の大型機に燃料を食わせると、たったの一分間でドラム缶一本(200リットル)をペロリと平らげてしまう。

そうした大食い、早食いのジェット機の中にあって、機体の軽い「787」の燃費は、従来機の20%も向上しているという。



飛行機の歴史は、重くなっていく一方であった。

それは、より多くの人を乗せ、より遠くへと羽を広げてきたからだ。

パワーアップのために、エンジンは巨大化し、機体の強度を高めるために、重い鎧で身をまとった。



従来の常識では、「軽くて速い」という飛行機は「矛盾」している。

ところが、「787」の示す未来は、ひょっとしたら、その矛盾を「常識」に変えてしまうかもしれない。

なぜなら、飛行機のことを何も知らなけば、軽い方がよく飛びそうではないか。素人であるほど、重いほど速いとは考えない。



「787」の鎧は軽い。そして強い。

積む燃料も少なくて済むので、ますます軽い。

その結果、エンジンの出力を下げても、求められるスピードを達成できた。さらに、エンジンの出力を下げることにより、「騒音」も減った。



従来機が飛び立つ時の騒音は「78デシベル」。対する「787」は「69デシベル」。

数字で見ると、たった10デシベル程度の違いであるが、10違えば、「体感的」には半減したと感じるのだそうだ。

どうやら、「速いからうるさい」という常識も怪しくなっていきそうだ。

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騒音低減の秘密は、ジェットのノズルの形状にある。

「787」のノズルはギザギザの山切りカット(シェブロン)。

このギザギザは、ジェットが後方へ吐き出す噴流を、周囲の空気と混ざり易くする効果をもたらす。



ジェットの爆音というのは、周囲の空気との「摩擦」で生じる。

つまり、この摩擦が小さいほどに「静か」になる。



「787」のギザギザカットにより、ジェットの噴流は「渦を巻きながら」周囲の空気とスムーズに混ぜ込まれる。当然、その摩擦は小さく、その結果、騒音が抑えられる。

融通のきく翼と同様に、「787」のジェットは周囲との協調性が高いのである。

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こうして「787」を概観してくると、この飛行機に愛着を感じてくる。

どこか、「日本人くさい」のだ。



しなる翼のもたらすグレーゾーンの広さ、他を押しのけるだけではないジェット噴流。

あまり白黒つけたがらない日本人(Noと言えない?)、和をもって尊しとなす日本人…。

そして、こうした日本的な要素が、日本の技術力(炭素繊維)により可能とされているのであるから、「787」は和魂洋才とも呼べそうな代物である。



炭素繊維の性質まで、日本民族っぽい。

一本一本は弱いのに、それらがあらゆる方向で織り込まれることにより、総体的な強さが金属をも凌ぐまでになる。

その様は、強力なリーダーシップというよりも、積極的なフォロワーシップとも呼べるものである。

さらに炭素繊維は「つなぎ目」が極端に少ない。アルミ合金の100分の1のつなぎ目で済むのだという。炭素繊維は日本民族のように「同質性」も高いことにもなる。



思えば、今までの飛行機は総じて西洋的であった。

全身を重たい鎧で覆い、硬いほどに強いと信じ切り、すべてを固く固定することで安心感を得ていた。

ところが、「787」の鎧は軽くしなやか、それなのに強い。



「787」の進化を見るにつけ、時代が日本の方に転がって来ているような印象を受ける。

しかし残念ながら、我々はそうした日本的な思想を忘れかけてもいる。それは、我々が自国の文化を卑下し過ぎているからなのかもしれない。

遠慮というのは日本の美徳の一つなのかもしれないが、本質的なことまで忘れてしまうほどに遠慮するのは、遠慮のし過ぎであろう。



空を見上げれば、飛ぶ鳥たちの何と美しきことか。

小さな鳥たちはしきりに翼を動かすも、大きな鳥の翼は悠然としている。



一転、我々の飛行機は、まだまだ力み過ぎている。

空行く鳥たちとは似ても似つかず、どちらかというと、いつかは落ちるロケット弾のようなものである。

なんと、先行きの遠く果てしないことであろう。



しかし、たとえ拙(つたな)いとはいえ、その方向性さえ誤らなければ、いずれはその高みにも手が届くのであろう。

そして、「軽さ」という方向性を目指した「787」は、小さな一歩ではあろうが、確実に一歩だけ大空の鳥たちの方向へ歩み出したようにも思える。



どうやら、今までの我々は力み過ぎて遠回りをしてしまっていたようだ。

それでも、遠回りは決して無駄ではない。

それは旅の楽しみでもあるのだから…。




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出典:アインシュタインの眼
「ジェット旅客機 次世代の翼に迫る」


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2011年04月15日

太陽エネルギーだけで昼夜24時間飛び続けた快挙



太陽エネルギーのみでの飛行は可能か?

ライト兄弟の初飛行から、およそ100年、
その夢は現実となった。

最大の課題は、
太陽の光が全くない「夜間」も
飛行を続けることだった。

昼の間に、充分にバッテリーを充電できるのか?
その最大の障害となったのは「風」であった。

高度が上がれば、風は増す。
風が増せば、機体を維持するためにエネルギーを消費する。

あまりに強い向かい風は、
バッテリーの「充電する量」よりも
「消費する量」のほうが多くなってしまう。

昼間にエネルギーを貯められないと、
夜間飛び続けることはできない。

実験では、予想以上の強風にエネルギーを奪われ、
やむなく高度を下げ、風を避けることとなった。

また、パイロットの環境も苛酷であった。
機体の軽量化のために、操縦室は外気とほぼ同じ状況。
昼は30℃を越え、夜はマイナス10℃を下った。

そのため、夜間に飲み水が凍ってしまうというトラブルも。

幾多のトラブルを克服し、
飛行時間26時間、飛行距離1000キロという
大偉業は見事達成された。

プロジェクトリーダーは語る。

「人類にとって、月に立つことも偉大だが、
今後は、化石燃料を使わないことのほうが
より大きな課題になるだろう。」
posted by 四代目 at 10:38| Comment(0) | 飛行機 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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