2012年10月08日

戦火の下のレアアース。掘りたくとも掘れぬアフガニスタン


戦地アフガニスタン、ここでは研究者たちも「命懸け」だ。

ヘルメットをかぶり、重い防弾チョッキを着込んだ「地質学者」たち。戦闘ヘリから降りてくる彼らは、銃を持っていないだけで、護衛の兵士たちとの見分けがほとんどつかない。

「作戦」の行動時間は毎回一時間程度。長居は禁物だ。ここは南部のレッドゾーン(危険地区)の火中である。



◎命を賭ける価値


そこまで命を賭ける価値が、このアフガニスタンの大地にはある。

なぜなら、世界最大級のレアアース鉱床の存在がほぼ確実視されているからだ。すでに発見されている鉱床は、「中国の第一級の鉱床に匹敵する」とまで言われている(言わずもがな、中国といえば世界のレアアースの97%を牛耳る最大供給国である)。

この大鉱床が位置するのは、アフガニスタン南部のヘルマンド州。武装勢力タリバンの勢力下にあるこの地域は「非常に危険」かつ、アヘン(麻薬)の栽培・密売の活発な闇の世界でもある。

幸か不幸か、世界最大級のレアアース鉱床は、そんなところにあったのだ。しかもその量、世界のレアアース需要の10年分とも言われるほどである。もっと調査が進めば、その3倍は出てくるだろうという人もいる。






◎企業誘致と資金調達


鉱床の存在が確認された今、次に成すべきことは「採掘してくれる企業」、およびその「資金」を呼び込むことだ。

そのためには、投資する採算に見合うだけの「埋蔵量」があることを証明しなければならない。そのために、地質学者たちはヘルメットと防弾チョッキに身を固めて、危険の中に身を投じていたのである。

中国の大手鉱業会社はすぐに飛びついてきた。すでに約30億ドル(2,400億円)のツバをつけている。それでも、海外投資家が財布をどれくらい開いてくれるかは、いまだに不透明。やはり、この地に強固に巣食うタリバンの存在は物騒すぎる。



「言ってみれば、100万枚の1セント硬貨に紛れ込んだ、一枚の10セント硬貨を見つけ出すような作業だ」と地質学者は言う。

ただでさえ困難な資源調査。そして、その10セント硬貨は銃弾の飛び交う中で探さなければならないのだ。






◎危険の少ない北部


突破口となりそうなのは、タリバンの蠢(うごめ)く南部地域よりは、治安の安定しつつある北部地区。ここにも「鉄」や「銅」などの世界的な鉱床が確認されている(10兆円規模)。

「北部で銅などの採鉱が始まれば、ゴールドラッシュが生じるだろう」

すでに中国冶金科工集団公司やJPモルガン・キャピタル・マーケッツなどが食らいつき始めている。



しかし、たとえ北部といえども、「まともな鉄道もなければ、地方には電気も通っていない」。そもそも、アフガニスタンには重工業の歴史がほとんどない。

一部の鉱床は100年以上も前に発見されていながら、いまだ手付かずなのである。

1979年によるソ連のアフガン侵攻は、芽生えかけていた開発のビジョンを容赦なく踏み潰し、その後も数十年にわたり、アフガニスタンにおける戦乱の火は消えようとしなかった。






◎アメリカの国益


2001年には、9.11に憤慨したアメリカがアフガニスタンに侵攻することになるのだが、これはむしろ鉱床開発への扉を開いた。

かのアメリカと言えども、レアアースばかりは100%外国からの輸入に頼らざるを得ない状況下に置かれている。そして、その輸入の92%を中国に頼りきっているというのは、安全保障上、まことに好ましいことではない。

レアアースを渇望するアメリカは、アフガニスタンの眠れる資源に目をつけた。そして、米国地質研究所(USGS)がアフガニスタンの研究者たちを積極的に支援するようになったのだ。近年の相次ぐ世界的鉱床の発見はその成果である。



米国地質研究所(USGS)によるレアアース埋蔵量の推定値は、鉱床の厚み「わずか100m」しかないことを前提としている。

それは、調査のための航空機が爆撃される危険性が高すぎるために、十分な調査が行えていないからである(もし、鉱床の上を低空飛行できれば、最大で地下10kmまで岩盤の様子を3次元画像化する技術はあるというのだが…)。



◎恵まれた土地柄


ところで、なぜアフガニスタンに、それほどの資源が眠っているのだろうか?

それは、「プレートテクトニクス」という理論、つまり、ジグソーパズルのように分かれた地球表面の地殻が、移動したり衝突したりしているという理論で説明される。

その理論によると、アフガニスタンは「4つか5つの陸塊」が衝突して形成されたものであり、こうした境界部には、えてして世界有数の鉱床が形成されることが多いのだという。






◎懸念


アフガニスタンで資源の採鉱が本格化すれば、経済の活性化、アヘン依存からの脱却、ひいては国の安定化にも寄与する可能性があると言われている。

しかし、その一方では採鉱が「国民のため」になるかどうかを懸念する声も聞かれる。



大量の石油が50年前に発見されたナイジェリアは、今どうなっているのか?

莫大な利益を手にしたのは政府と石油企業ばかりではなかったか。ナイジェリア国民の多くは、いまだに一日一ドル未満の生活から脱することはできていない。



今まで世界各地で採掘された大規模な露天掘り鉱山は、今どうなっているのか?

数十年にわたる採掘で蓄積された汚染物質の除去に苦心しているのではなかったか。レアアースを抽出する過程では、ウランなどの放射性物質のチリも同時に廃棄されることになる。



◎不確定な未来


現代の社会経済において、資源ほど危険な「両刃の剣」はないだろう。

よほど体制の整った国でなければ、資源のもたらす大金は国を腐らせるだけである。



幸か不幸か、アフガニスタンのアメリカ軍は2年後(2014年末)の完全撤退に向けて、同国からの軍隊の引き揚げにかかっている。今秋には全体の3分の1にあたる3万3000人がアメリカに帰ってしまう。

「アメリカ軍の護衛がなくては、鉱床の現地調査をするのはほぼ不可能」と、アフガニスタンの地質学者たちは考えている。米国地質研究所(USGS)の予算とて無限ではない。

つまり、最悪の場合、鉱床開発が頓挫してしまう恐れもあるのである。こうした将来への不確定要素が、投資家たちの財布のヒモをそう簡単には緩ませない。






◎地中の希望


それでも幸いなのは、「鉱石はいつまでも待ってくれている」ということだ。それは人間などいない時から、そこにあり続けているのだから。

それを掘るも良し、掘らぬも良し。

むしろ、「希望」は地中に埋まっていてくれたほうが良いのかもしれない。それが人の手に渡った時、その「希望」が人々の期待に応えてくれるとは限らないのだから…。



「Ignorance is a bliss」

それは「知らぬが仏」という意味だ。



「そもそも、アフガニスタン人は自分の国の足元に、世界有数の鉱床が眠っていたことなど、知りもしなかった」

しかし、不幸にも世界はアフガニスタンにお宝が眠っていることを「もう知っている」。







関連記事:
携帯電話の小型化に欠かせないコンゴの「紛争鉱物」。有り難がらざる神の恩恵。

原発を支えるイエロー・ケーキとは? ウラン採掘の闇。

「ナイジェリアの血(石油)」、富の源泉でもある諸悪の根源



出典:日経サイエンス
「アフガンに眠るレアアース」

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2012年07月17日

金と魔術の国、タンザニア。


タンザニアという国は、かつてそれほど「金」の採れる国ではなかった。10年以上前の数字を見ると年間10トンにも満たない。

ところが2000年以降、その伸びたるや目覚ましい。倍々ゲームで金が積み上がり、一気に年間40トン、一時は50トンをも超えるほどになった。現在、タンザニアはアフリカ第3位の堂々たる金産出国である(1位・南アフリカ、2位・ガーナ)。



金増産の最大の牽引役は外国企業。カナダ、オーストラリア、南アフリカなどの大手企業の参入とともに、タンザニアは「黄金の国」となったのである。

この金バブルは、タンザニアのGDP(国内総生産)をここ10年で2倍にも急増させ、「アフリカの優等生」の名に恥じぬグローバル化を同国にもたらすこととなった。



◎富の集中と格差


グローバル化という現象は、従来の垣根を取り払いながら進む一方で、新たな垣根を各所に築いていくものでもある。経済の自由化がなされ、外国資本が急激になだれ込むと、タンザニアのような貧しい国では、富は一極に集中し、その格差は大きく広がってしまった。

その結果、タンザニア第一の都市・ダルエスサラームには富が集中し、住民の平均所得は、地方の3倍にまで膨れ上がった。



そしてその一方、国民のおよそ3分の1にあたる1,500万人が1日1ドル以下という極貧の生活にとどまったままである。

どうやら、経済的な富というのは自由化されるほどに、その動きを鈍く偏ったものにしていく傾向があるようだ。



◎残土の金


地方の貧しい村では、1日の生活費が600シリング(30円)以下ということも珍しくない。ところが、金の鉱山で働けば、少年でも4000シリング(200円)はもらえる。そのため、人々は当然のように金鉱山を目指すようになった。

金鉱山に押し寄せた人々に与えられる仕事は、単調かつ重労働、そして危険なものばかりである。おいそれと外国企業で働けるわけではない彼らに与えられるのは、外国企業が金を取り終わった後の「残土」である。



残土とはいえ、その中には微量ながらも金が残されている。外国企業にとってはゴミの山も、地元の住民たちにとっては、文字通り「金の山」なのである。

その岩を一日中ハンマーで砕き続け、それを水で濾過して金を浚えば、1〜2グラム程度の金が得られる。金1グラムの相場は6万3000シリング、日本円にして3000円ちょっと。





◎太刀打ちできない国内企業


タンザニアの金鉱山が外国企業によって次々と押さえられて、残土ばかりが住民たちに残されていく中にあって、「ニャマフナ金鉱山」は珍しくもタンザニア人が経営する金鉱山である。

しかし、その経営は極めて厳しい。外国企業の手がける鉱山に大型機械が入り、巨大なダンプカーがひっきりなしに行き交う中、この鉱山の仕事は、そのほとんどが「手作業」なのであるから。



この鉱山に36ある坑道のすべては、鉱夫たちの手で掘られたものである。小型のドリルも持たぬ彼らは、ツルハシ一本のみで手ずから掘り上げたのだ。

掘り出された岩石は、これまた小さなハンマーだけでひたすら砕かれて、粗い粉状にまでされる。それらを水にさらして濾過した後、水銀を用いて金を取り出す(素手で)。水銀には金と結びつく性質があるため、微量の金の粒子でも水銀に吸着させて集めることができるのである。

ハンドタオル大の漉し布で水銀を漉しとると、その漉し布の中には豆粒ほどの金が残されていた。その豆粒を焚き火の炭の中で熱することにより不純物が取り除かれ、ようやく売り物になる。





その日の成果は20グラム。グラム相場が6万3000シリング(3千数百円)であったため、手取りで7万円ほどの収入だ。

この鉱山で働く人夫はおよそ300人(7万円を頭割りしても、一人200円程度)。とても経営できるような生産量ではない。しかし、ここ最近はこの程度の金しか採れなくなってしまったのだという。

このニャマフナ金鉱山の最盛期には1日200グラム、つまり、現在の10倍は金が採れた。それが、ここ数年めっきり採れなくなってしまったのだ。



◎呪術師の急増


金の産出量が減っているのはニャマフナ金鉱山ばかりではなく、タンザニア全体の傾向でもある。2000年以降にはじまった急激な金の増産は、2005年で頭打ちになっている。

次々と新たな金鉱山を開発していく外国企業は利益を上げ続けることができるが、その土地にとどまらざるをえない地元住民にとって、金脈の尽きは運の尽きでもある。





金の生産が頭打ちになるのと呼応するかのように、タンザニアでは急に「呪術師」を名乗る者たちが大量に現れた。呪術師に祈ってもらえば、枯れた金鉱山からも、ふたたび金が湧くというのである。

その呪術は、現金にも「富を生むための呪術」なのである。



◎呪われた鉱山


金生産の激減した先のニャマフナ金鉱山にも、例によって呪術師が招かれた。

その呪術師は厳かに香を焚き始め、その煙に赤いインクでビッシリと文字のつづられた紙をかざしている。その文字の内容は「金がよく採れますように」というものらしい。

煙に清められたその紙を水に漬けると、ジンワリと赤いインクが水に溶け出す。その赤い水に悪霊のお好むという「海水」、そして悪霊を追い払うという「オイル」が混ぜられる。



その呪術師によれば、金が採れなくなったのは「金の坑道に魔術がかけられ、悪霊が住み着いてしまったから」だというのである。

そこで、先に調合した「薬」を坑道に撒けば、悪霊をおびき寄せ、それを退散させることができるというのだ。

「このクスリが金を引き寄せてくれるからね。必ずご褒美はやってくるから」。そう言い残して、その呪術師は金鉱山をあとにした。



◎にわか呪術師たち


さて、その結果は…。

残念ながら、金の生産量は一向に上向かなかった…。

どうやら、かの呪術師は「にわか呪術師」であったようだ。



近年のタンザニアでは、こうした「にわか呪術師」が後を絶たない。さらに悪いことには、「急に」呪術師となった彼らが、国内各所で社会問題を引き起こしているのである。

数年前の事件では、子供が殺され、その身体の一部が呪術のクスリとして用いられていた。いまだ「魔女狩り」も行われる同国では、人々の信心を悪用することが割りと容易なのである。



こうした状況に、「伝統的な」呪術師たちは苦言を呈する。

「人間の身体でクスリを作ったりすることなど、聞いたことがありません。彼らは呪術を売り物にするばかりで、本当の呪術を知らないのです」と。

彼らはさらに訴える。「呪術は金儲けではありません。呪術は『人を救うため』にあるのです」



◎生け贄


どうやら「にわか」呪術師に騙されたようであるニャマフナ金鉱山。今度は土地の信頼も厚い「伝統的な」呪術師にお払いを依頼することとなった。

新たに招かれたその呪術師は、鉱山に足を踏み入れた途端に眉を曇らせた。そして、鉱山を歩き続けるほどに、その表情は険しいものとなってゆく。

そして一言、「生け贄を捧げたのですか?」

じつはこのニャマフナ金鉱山では、にわか呪術師の助言により、生け贄を鉱山に埋めていた。悪霊退散のための生け贄が、逆にこの金鉱山を窮地に陥れていたのである。



◎身の丈に合わない服


はたして呪術師は「悪魔」なのか、「天使」なのか?

それと同様、外国企業はタンザニアにとって「悪魔」なのか、「天使」なのか?



外国資本の流入はその国のGDP(国内総生産)の数字を押し上げ、見かけ上は豊かになる。しかしその実、外国資本に彩られたその衣装は、身の丈に合わぬブカブカのものであり、結局、大多数の国民は寒い思いをするしかない。

先の呪術師は言う。「今のタンザニア人たちは、自分の身の丈に合った服を捨てて、外国人の服を着ようと競い合っている。そんな服は似合うわけがない。

我々には我々の『服』があるはずなのに、白人のマネばかりして『あるべき姿』を見失ってしまったんだ…」



◎失敗した社会主義


思えばタンザニアの独立は、西側諸国の反発によるものであった。長らく植民地としてイギリスの下に留め置かれたタンザニアには、西側諸国に対する不満が鬱積していたのである。

それゆえ、独立後の政体は西側諸国と対峙する「社会主義」を選択したのである。ソ連よりも中国との友好を選んだタンザニアは、白人支配の弊害を受ける南アフリカ(人種差別)、ローデシア、モザンビークなどと対立を続けることになる。



しかし残念ながら、農業を主体としたタンザニアの社会主義体制は、うまく機能しなかった。ウジャマー村と呼ばれた集団農場は、たびたびの干ばつにあえぎ、日用品や飲料水まで事欠く始末であった。

こうして、タンザニアには社会主義への疑問が醸成され、ついには大統領の交代を機に、自由化へと舵を切ることとなる(1985年、IMFの勧告を受け入れて)。その後の1990年代には多くの国営企業が民営化され、国内経済は急成長。「アフリカの優等生」と西側諸国に褒められるまでになったのである。



◎疑念


そして今、その優等生は再び疑問を感じ始めている。

「結局、得をしたのは誰だったんだ? 外国企業や投資家か? それとも政府か?」

その答えは少なくともタンザニア国民ではなかった。統計数字が上がれば上がるほど、その格差は広がっていったのだ。

一時的に与えられた金鉱山の仕事も、金が尽きればお役ゴメンとなる。その跡に残されるのは、掘り返した残土の山。そのゴミの中から「なけなしの金」を絞り出すよりほかにない。

社会主義の夢に敗れたタンザニアは、自由主義の道を歩まざるをえなかった。しかし、その道の先は細く険しくなるばかり…。一握りの上澄み層以外の人々にとっては、先がないも同然であった。



◎古き良きパートナー、中国


枯れかけたニャマフナ金鉱山が、最後に頼ったのは中国資本であった。未だタンザニアには本格的な中国資本の進出はなく、中国人はタンザニアにとっての新たなパートナーだったのである。

独立以来、長らく中国と友好関係を築いてきたタンザニアにとって、中国との提携は悪い話ではない。しかし、中国企業がタンザニアの鉱山を食い逃げしない保証はどこにもない…。



もともと、タンザニアで社会主義が失敗したのは、その政策が伝統的な社会制度をまったく無視した机上のものにすぎなかったためと言われている。

そして、市場開放のあとは、あまりの急激な成長のために、その伝統的な社会はさらに大きく歪んでしまったようだ。



掘ればいずれなくなる金。

そこに残されるのは、残土の山と歪んだ社会。

キリマンジャロの高峰は、その様をゆったりと静観しているかのようである…。





関連記事:
無知のヴェールの中で想う「富の格差」。

歌うダイヤモンド。その永遠の光に「信頼」のあるべき姿を見る。

肥える先進国、争う途上国。アフリカの大干ばつに想う。

地球で最も暑いのは…、エチオピアのアファール低地。何もないから全てある。



出典・参考:
ドキュメンタリーWAVE
「タンザニア ゆがんだ大地〜金バブルと呪術のはざまで」
posted by 四代目 at 08:08| Comment(2) | 資源 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月10日

携帯電話の小型化に欠かせないコンゴの「紛争鉱物」。有り難がらざる神の恩恵。

「金」「スズ」「タンタル」「タングステン」と言えば…?

これら4種の金属は「コンフリクト・ミネラル(Conflict Minerals)」と呼ばれる鉱物である。

日本語にすれば、あの悪名高き「紛争鉱物」ということになる。



なぜに、「紛争」と「鉱物」が関係するのか?

それは、これら鉱物資源のもたらす「莫大な富」が、武装勢力の「資金源」となっており、それらの武装勢力が不安定なアフリカ諸国を一層不安定にしているからである。



カネのなる鉱山の多くは、政府の手の及ばない武装勢力によって支配されてしまっている。

山賊のような彼らが取り仕切る鉱山では、貧困にあえぐ人々が過酷な労働を強いられ、さらには年貢のような税金までをも支払わせられている。

働けど働けど、年貢(税金)の取り立てが厳しく、労働者たちはいずれその鉱山から抜け出られなくなってしまうのだという。一儲けしようと思って鉱山に足を運んだはずが…。

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アフリカ中央部に、赤道をまたいで位置する「コンゴ民主共和国」は、そうした「紛争鉱物」の宝庫であり、過去15年間で500万人が「犠牲」になっているのだともいう。

この国の紛争は、国名が「ザイール」から「コンゴ民主共和国」へと変わった「第一次コンゴ戦争(1997)」以来、翌年の「第二次コンゴ戦争」を経て、今なお、その長い尾を引きずったままである。



公式には和平がなされたとはされているものの、政府が全土を掌握しているわけではなく、「依然として戦争状態」にあると言われている。

とりわけ、東部は「無法地帯」と化しており、鉱山を根城とする武装勢力たちの跋扈する荒野ともなっている。

こうした無法地帯は、決まって「鉱物資源」の宝庫でもある。




コンゴほど「鉱物資源」に恵まれた国も珍しい。

アフリカ大陸を左右に引き裂こうとした「大地溝帯(Great Rift Valley)」の形成過程において、膨大な量の鉱物資源が地表に露出し、採掘可能となったからである。

金、銀、銅、ダイヤモンド、ウラン、コバルト、カドミウム、亜鉛、マンガン、スズ、ゲルマニウム、ラジウム、ボーキサイト、鉄鉱石、石炭…。

コンゴの輸出の約9割を鉱山資源が占め、コバルトに至っては世界の約65%を埋蔵していると言われている(ちなみに、日本へ投下された原爆の原料もコンゴ産だったのだという)。



莫大な鉱物資源は、コンゴを潤わせるはずであった。

ところが、現実にはそうなっていない。人々はその「奪い合い」に終始するばかりだったのである。

内戦続きのコンゴでは経済が壊滅。今や世界最貧国に転落してしまっている。




「紛争鉱物」の一つである「タンタル(Ta)」の奪い合いを制したのは、反政府武装勢力であった。

コンゴとお隣りのルワンダの産するタンタルを合わせれば、世界市場の「17.2%」をも占める。そして、これらの国々の輸出するタンタルで、武装勢力の手が触れていないモノは「まずない」。



武装勢力には幸運なことに、タンタルの価格高騰は激しさを増すばかり(2000年には、一年間で価格が10倍にまで急騰している)。

それもそのはず、聞き馴染みの薄いタンタルというレアアースは、お馴染みの「携帯電話」にとっては欠くべからざる素材なのである。



なぜ、携帯電話がこれほどまでに「小型化」したかといえば、それはタンタルの功績なのである。

具体的に言えば、タンタルは「コンデンサー」として使われ、タンタル・コンデンサーは、アルミニウム・コンデンサーの約60分の1の小ささでありながら、同程度の性能を有している。

タンタルを使わなければ、携帯電話は今の数倍以上の大きさにまでなってしまうのだという。




電子機器の小型化に欠かせないタンタルは、今後ともに需要が増し続けることは確実であり、その価格も上昇を続けるのであろう。

つまり、携帯電話が世界に普及すればするほど、コンゴの武装勢力の未来は、より一層明るく安泰なものとなるのである。



今では明らかとなりつつある「紛争鉱物」の利益構造であるが、これらの実態を明かすことは大企業にとってはタブーであり、長らく秘されたままであった。

生き馬の目を抜かなければならない携帯電話産業においては、競合他社との価格競争がより重要なのであり、コンゴの山奥で不当に酷使される子供たちにまで目を向けているヒマはなかったのである。

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携帯電話の華やかな急成長の陰となった劣悪な鉱山の暗い穴の中では、その歪(ひず)みに苦しむ人々がうごめいていた。

彼らが懸命に働けば働くほど、武装勢力の武器は近代化してコンゴ政府を苦しめると同時に、罪なき女子供にまでその銃口は向けられることとなった。

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幸いにも、世界には良い目もあれば、良い耳もある。

ヨーロッパの大企業は見て見ぬフリをした「紛争鉱物」も、アメリカの議会は見逃さなかった。

2010年7月にオバマ政権下で成立した金融規制改革法(ドット・フランク法)の1502条では、アメリカ株式市場に上場する大企業に「紛争鉱物」に関与しているか否かを情報公開することが義務付けられた。



それでも、この法律は「紛争鉱物」の使用を禁止するものではないため、その強制力は疑問視されたままである。

ただ、アメリカが紛争鉱物に目を向けたという事実は大きい。今まで長らく秘されていた歪(ひず)みに大国アメリカが光を当ててくれたことで、世界の関心は否が応にも高まった。

民間レベルでも「ケータイforコンゴ」などが行われ、不要携帯電話を回収することで、少しでも紛争鉱物に対する依存を減らそうという動きも活発化している。



先日、新しいiPadが発表されたばかりだが、毎年のように発売される魅力的な電子機器は、我々に必要以上の買い替えを求めてくる。

全力で走り続けなければ大企業とて生き残れない。そして、消費者サイドも全力で追いつこうと必死である。




しかし、無理がたたってか「疲れ」も見え始めている。

「ガジェット疲れ(gedget fatigue)」というがそれであり、メーカーが矢継ぎ早に世に送り出す新製品を買い続けることに「もうクタクタ」なのである(ガジェットとは小型電子機器のこと)。

コンゴの鉱山労働者も「もうクタクタ」であろう。働けども、その旨味は新しい武器となって、同胞を殺すばかりである。



はたして、この世の中は一体誰のために機能しているのだろうか?

皆が懸命に走り続けるばかりで、その恩恵(blessing)はどこに還元されているのだろう。

英語の「mixed blessing(ありがたいような、ありがたくないような…)」という言葉は、そんなジレンマを示す。



そして、コンゴの紛争鉱物の代表格たるタンタルの「語源」もまた、似たようなジレンマを抱えている。

その語源は、「タンタロス」というギリシャ神話に登場する王様である。




神々に愛されていたタンタロスは、普通の人間には決して味わうことのできない神食や新酒を堪能し、「不老不死」という恩恵を手に入れた。

しかしある日、タンタロスは自分の息子を殺して、神々の食卓に供するという暴挙を敢行する。当然、神々は怒り、タンタロスは神々の罰を受けることになる。



首まで水中に沈められたタンタロスは、水を飲むことが許されない。頭上には美味しそうな果実が実るものの、それを食べることも許されない。

不幸にもタンタロスは不老不死。彼は永遠に飢えと渇きに苦しむことになってしまうのである。



神々の仕業たる大地溝帯の生み出したコンゴの鉱物資源は、この国の民を十分に養えるほどの可能性を秘めていた。その鉱物の中には、タンタルという未来に欠くべからざる宝物までが含まれていたのだから。

ところが、なぜか人々は争い合った。タンタロスが自分の息子を殺したように、富を求めた人々は同胞たちを散々に殺してしまった。

そして現在、コンゴに眠る鉱物資源は、コンゴの民がその恩恵を受けることが許されていない。目の前にカネのなる鉱物がありながら、その美味しさを味わうことができないでいるのだ。



不思議にシンクロする神話と現実の世界。

太古の人々が寓話に込めた教訓は、今の世の中にも生かされていないかのようだ。



遠い先進国にあって、コンゴを他人事のように眺める我々も、この寓話と無縁ではいられない。

我々が疲れるほどに買い続けるデジタル製品の中には、彼らが採掘したタンタルがちゃんと入っているのである。




どうやら、スマートフォンという革命は一部の人々に便利さを提供する一方で、一部の人々を不幸にもしてしまっているようである。

携帯電話が明るく鳴るたびに、暗い坑道の中では呻(うめ)き声が響いているのかもしれない…。

これらの事実が、「携帯が人を殺す」と讒訴される由縁である。




出典:BS世界のドキュメンタリー シリーズ
 受賞作品 「血塗られた携帯電話」



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2011年08月04日

韓国は世界3位の電力浪費国(一人あたり)。その格安電力の舞台裏は散々だった。

「節電」に次ぐ「節電」のニッポン。

ところが、お隣の「韓国」では、「エアコンで凍える」ほどに電気を使いまくっているという。

韓国の「一人あたりの電力使用量」は、カナダ、アメリカに次ぐ「世界3位」である。

日本よりも「10%」多い電力を、韓国国民は使用している。



何といっても、「電気代が安い」。

韓国の電気代は、「日本の3分の1」。



なぜ、こんなに安いのか?

韓国は、日本と同様、石油や天然ガスを「全量輸入」している。

すなわち、世界のエネルギー価格の高騰は、韓国の電気代を跳ね上げてもおかしくはないのである。

しかも、自国通貨「ウォン」は、「ウォン安」政策により、海外からの資源は、日本よりも「高い値段」で輸入しているはずである。

これで、「電気代が安い」というのは道理に合わない。



それもそのはず、韓国電力の電気代は、「原価割れ」しているのである。

李明博大統領は、「大企業」を優遇する政策を次々と打ち出した。その一つが、「安い電気代」なのである。

その甲斐あって、韓国の大企業の幾つかは、「安い電力」のおかげで世界のトップに躍り出た。



しかし、その代償は大きかった。

「原価割れ」した電力の販売を続ける「韓国電力」の赤字は、「雪だるま」の如し。

ここ一年で、営業赤字は「3倍以上」に増えた。

ここ3年で、株価は「30%」近く急落。

政府が株式の半分を所有するとはいえ、看過できない「ひどい経営状態」なのである。



今年の春、韓国政府は、全国のゴルフ場に「夜間照明の使用禁止」を指示したという。

じつは、金銭の問題もさることながら、韓国では「電力が不足しつつある」。

電力の「予備率」は、「2010年の6.4%から5.6%に低下する可能性」も出てきているという。



しかし、「浪費グセ」のついた韓国国民の電力消費は止まらない。

政府による「節電」の呼びかけは、焼け石に水である。

逆に、節電を強いられたゴルフ場が裁判を起こし、「勝訴」する始末である。



そんなお隣の話とは対照的に、強制されずともセッセと「節電」に励む日本国民は、健気である。

原発事故による反省もあろうが、国民全体が危機意識を共有していることは確かである。

頼りのない政治家たちにも協力姿勢を見せる日本国民は、まさに縁の下で頑張っている。

「節度」という美徳は、世界に誇れる「日本の美しさ」を象徴している。




「世界の電力事情」関連記事:
日本が原発を選んだ頃、デンマークは風力発電を選んだ。そして、今…。

ちぐなぐな日本の電気事情。節電するためには、もっと効率的なシステムが必要である。




関連記事:
韓国に増えつつある猛烈農家「強小農」。自由貿易ドンと来い!

韓国「李明博」大統領の猛烈人生。首脳会談にキレイごとはいらない。常に実益を。



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2011年08月02日

「火のつく水」は、シェールガス汚染の象徴。アメリカの飲料水を汚染する資源開発。

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アメリカの水道水には、「火」がつく?

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水道水だけではない。火がつく「川」までがある。

炭酸水のようにブクブクと泡が湧き出す川。そこにマッチを近づければ、「ボッ」と炎が立つ。

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これらの怪異な現象は、「シェールガス」開発の「不都合な果実」である。

シェールガスとは、アメリカで盛んに開発されている「新型の天然ガス」のこと。



問題となるのが、その採掘方法。

水圧破砕法(フラッキング)と呼ばれるその手法は、地中深く掘った穴に「大量の液体」を注入し、その強力な水圧によって、シェール(頁岩・けつがん)を破壊。そこから天然ガスを採取する。

地中深くを広範囲に破壊するために、思わぬところから天然ガスが噴き出したり、地下水にガスが溶け込んだりするのである。



もちろん、そうして汚染された水(火がつく水)は飲むことができない。

そうした水は、「ペンキ」のような臭いで、「金属」のような味がするという。見た目も「黄色」、悪ければ「泥水」そのものである。



水だけではなく、周囲の「空気」も汚染される。

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はじめは異臭を感じても、次第に「嗅覚」がやられ、何も臭いがしなくなるという。そして、次に「味覚」がやられ、味を感じなくなるという。

冗談まじりに、「ガス汚染された家のまわりで、バーベキューはできないな。」などと言っていたら、本当に家が吹き飛んでしまった事件も起きた。

健康被害は甚だしい。頭痛・耳鳴りから、末梢神経に障害が現れはじめ、最終的には「回復の見込みのない脳障害」である。



こうした被害が、全米各地で報告されてもなお、開発の火の手はとどまるところを知らない。

なぜなら、「シェールガス革命」は、アメリカの国家戦略である。

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そのため、ブッシュ政権時代に定められた「エネルギー政策法(2005)」において、シェールガスの開発が「水質浄化法(1972)」・「安全飲料水法(1974)」の除外を受けた。

つまり、シェールガス開発で「水」が汚染されたとしても、法律では裁けないことになったのである。



その黒幕は、当時の副大統領「ディック・チェイニー」氏である。

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彼は、元々、開発企業大手の「ハリバートン社」のトップであったため、シェールガス開発業者とのパイプ(癒着)が強い。

彼は、エネルギー増産の名のもとに、開発業者の規制(大気汚染・水質汚染・CO2)を次々に撤廃していった。

彼の方針は徹底した「秘密主義」。情報公開を求める議会や官僚には、徹底して対抗した。彼は「目標のためには手段を選ばない」人間であった。



政府の後ろ盾を得ているシェールガス開発業者は「最強」である。

住民の健康被害やクレームは、すべて「お金」で解決することができる。

「お金」をもらった住民は、不都合なことを一切「公言しない」という契約を結ばされる。

そして、ほとんどの住民は「お金」をもらってしまい、口をつぐんでしまっている。

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アメリカ中の地下が、数十万という穴で虫食いのようになり、全米の水が汚染されたお陰で、アメリカの「天然ガス」生産は急増した。

2009年には、アメリカがロシアを抜いて、天然ガス生産で「世界一」となった。

「将来的には天然ガスの輸入が避けられない」と言われていたアメリカが、瞬(またた)く間に、天然ガスを「輸出」して利益を上げられるようになったのである。



シェールガスが利益を上げられるようになった背景には、「石油価格の高騰」がある。

かつて、シェールガスの採掘は、お金がかかりすぎて「採算が合わなかった」。

しかし、石油をはじめとするエネルギー価格の上昇により、シェールガスも利益が上げられるようになったのである。



石油価格の高騰の背景には、アメリカが増刷した「大量のドル」が、世界的なエネルギー・インフレ(物価上昇)を引き起こしたという批判もある。

そして、そのインフレはアメリカに「シェールガス革命」をもたらした。

世界はアメリカに翻弄され、アメリカ国民も被害を受けながら、この革命はなされたのである。

どこまでがアメリカ政府の目論見かどうかは知る由もない。



シェールガス採掘による「水質汚染」は深刻である。

採掘には「大量の水」が用いられるが、その大量の水には、およそ600種類の有害物質が混入されている。

採掘後に、その大量の水の「有害物質」は適正に処理されない。

そのため、採掘地域の水は、あらゆる有害物質で汚染されることになる。

それを取り締まるべき法律(安全飲料水法)は、先述の通り、骨抜きにされている。

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アメリカは世界で有数の「自由」な国なだけに、必然的に「強いモノ」が勝利することになる。

政治家やシェールガス開発企業は、その「強いモノ」たちである。

「弱いモノ」である地域住民は、「お金」の力でますます弱くされてしまっている。

最後の拠り所である「法律」も無力である。

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シェールガスの問題は、アメリカにとどまらない。

ヨーロッパ、中国、オーストラリア、南アメリカ、アフリカ……、世界中に未開発のシェールガスが埋蔵されている。

世界のエネルギー・メジャーは、虎視眈々と次のターゲットを狙っている。

幸か不幸か、日本にはシェールガスはないようである。




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出典:BS世界のドキュメンタリー
第3回「ガスランド〜アメリカ 水汚染の実態」


posted by 四代目 at 05:55| Comment(0) | 資源 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする