35億年前の岩石から、「メタン」の気泡と、最古とされる「生物の化石」が発見されたのである。
現在は陸上にあるというこれらの岩石は、35億年前には深い深い深海にあったのだという。
生命が誕生した場所は、母なる海であるとされる。
というのも、大昔の地球には、現在のような「大気」が存在しなかった。「大気」が存在しなければ、太陽の「紫外線」が直接地表に降り注ぐことになる。
生命にとって、「紫外線」は有害であり、その光線によってDNAが壊されてしまう。とてもではないが、そうした環境のもと、地表で生物が生存することはできなかった。
海が地球に存在するようになって、ようやく生物が有害な光を避けられる場所を確保することが出来るようになったのである。それが、光の届かない「深海」であった。
有害光線の「紫外線」を、遮断してくれる「大気」の形成は、「酸素」の登場を待たなければならない。
今では、我々の生存に欠かせない「酸素」は、かつて地球上にサッパリなかったのである。
何があったかというと、「二酸化炭素」や「水素」である。
二酸化炭素と水素だけでは、生命が誕生することはない。ここにもう一人の役者が必要である。その重要人物が、「鉱物」であると考えられている。
海底の「鉱物」の仲立ちがあって初めて、二酸化炭素と酸素が結合。その結果、ピルビン酸などの「有機物」が形成される。それらは次第に複雑さを増していき、アミノ酸などのタンパク質にまでつながっていく。
生命の誕生に必要だったものは、「二酸化炭素」と「水素」、そして「鉱物」だったことになる。
アメリカのカーネギー研究所では、このシンプルな素材をもとに有機物を生成する実験を成功させており、20年あれば、生物を誕生させる自信があると公言している。
生物の発生は、光の届かない真っ暗な「海の底」で始まった。
先述のとおり、光の届くところには、生命を死滅させる「紫外線」が降り注いでいるために、間違っても明るいところへは出られなかったのである。
「二酸化炭素」と「水素」は、有機物の他に、「メタン」や「硫化水素」の生成も促した。
「メタン」や「硫化水素」というのは、人間にとって「猛毒」であり、一呼吸しただけで死んでしまうほどである。
ところが、原始的な微生物たちは、これらの猛毒をエサとした。
現在の深海に住む生物たちも、「メタン」や「硫化水素」をエサとする微生物をたよりに生きている。それらの微生物を体内に取り込んだり、直接エサとして食べたりするのである。
深海に住むエビやザリガニがそうである。
「酸素」が登場するのは、微生物たちが「光合成」をするようになってからである。
暗闇の世界から、じょじょに明るい世界に適応していき、ついにはお馴染みの「光合成」が始まるのである。そして、光合成の副産物として生まれたのが「酸素」である。
このころの「酸素」は、誰も利用するものがなく、ゴミとして海中に溶け込んでいくのみ。
海中が「酸素」を溶かしきれなくなると、ようやく「酸素」は空気中へと放出され始める。空気中に出た「酸素」は、有害な「紫外線」と反応して、「オゾン」をつくる。
そして、この「オゾン」が有害な「紫外線」を地表から守ることになる。
ここまできて、ようやく「酸素」を利用する生物が登場する「下地」が完成するのである。
「酸素」を利用する生物たちの躍進は凄まじかった。
それもそのはず。酸素の生み出すエネルギーは、無酸素の18倍。
酸素を利用するようになって以来、単純計算で、進化のスピードが18倍になったのである。
しかし、「酸素」はその強力さゆえに、「諸刃の剣」でもあった。
人間を「老化」させたり、「病気」にさせたりするのも、「酸素」である。
大気中の酸素は、およそ20%であるが、それ以上の酸素は人間を害することとなる。逆にそれ以下でも、生存が危ぶまれる(高山病など)。
我々は絶妙な酸素濃度の上を、「綱渡り」しているようなものである。
現代文明は、この毒ともなる「酸素」を過剰化させる危険を増大させている。
酸素の変種に、「活性酸素」というのがあるが、このパワーは通常の酸素の何倍も強い。
その強さを利用して、人間の身体は外部侵入者(細菌・病原菌)から守られているのだが、「活性酸素」が多くなりすぎると、その矛先は人間を向き、身体を壊す原因となる。
体内の酸素に対する「活性酸素」の割合は、2%。この割合が、絶妙な割合なのであるが、現代文明は、このバランスを崩す危険に満ちているのである。
タバコ・アルコールがそうであり、農薬・化学物質もそうである。
さらには、食品に添加される物質、パソコンの電磁波なども、活性酸素を過剰に発生させる。
福島原発事故による放射線もそうである。
現代文明の産物である便利なものの数々は、「活性酸素」の大好物ばかりなのである。
進化を爆発的に進めた「酸素」も強烈な存在であったが、「活性酸素」は、それに輪をかけた強烈さのために、人類の生存を脅かしかねない存在となっている。
「活性酸素」に対抗する術は、現代文明から少し距離を置くことかもしれない。
また、「抗酸化物質(ビタミン・フラボノイド・ポリフェノール)」などを体内に取り込むのも効果的である。
個人的な対処法は、種々ある。
しかし、地球規模の問題となると、なかなか厄介である。
その一つが「紫外線」である。太古の生命の大敵であった「紫外線」は、依然生命の脅威であることに変わりがない。
「紫外線」は「活性酸素」を増大させる。
さらに悪いことには、「紫外線」は、「活性酸素」の中でも、一番凶悪な「ヒドロキシラジカル」を作り出すのである。
気球規模の環境破壊、温暖化、オゾン層破壊……。地球には、今までよりもたくさんの「紫外線」が降り注ぐ環境になりつつある。
かつては、酸素が「オゾン」となり、紫外線を防ぎ、陸上生物が謳歌する環境を整えてくれたのだが、今は再びバランスが崩れようとしている。
酸素により繁栄した生物たちは、その酸素により、繁栄の道を閉ざされることになるかもしれない。
言ってみれば、現代文明、それ自体が活性酸素のようなもので、「急速な発展」と「危険の増大」が背中合わせになっていた。
酸素を利用する生物の歴史は、長く見ても10億年。かたや、酸素を使わない生物の歴史は、40億年。
太古の生物にとっては、酸素生物はまだまだ若輩である。
地球には、深海などに代表される「酸素」のない世界は、陸上の何倍も広がっている。太古の生物は、40億年の長きにわたり生命をつなぎ、今に至っていると考えられる。
近年の「深海」探査は、こうした原初の生物の探索をも行っている。
まだ、生きた状態での捕獲には成功していないが、DNAの痕跡などは見つかっている。
「生命=光=酸素」と考えるのは、あまりに限定的である。
じつは、「生命=闇=猛毒(硫化水素)」という図式のほうが、メジャーである可能性もある。
知れば知るほどに、謙虚にならざるをえない。万物の霊長という呼び名は、改めたほうが良いかもしれない。
出典:NHKスペシャル
「深海大探査 生命誕生の謎に迫る」

