まず、ギリシャから、アイルランド、ポルトガルへと、問題は拡大していったわけだが、これら三国のGDPは、ユーロ圏諸国においては、それほど大きなものではない。
借金、借金と言っても、同じユーロ圏のドイツやフランスがその気になりさえすれば、救済することは可能なレベルであった。
ところが、残念ながら、ギリシャに対する「時間稼ぎのための中途半端な救済策」は功を奏さなかった。
そして、時間稼ぎをしている間に、状況は改善するどころか、ユーロ圏はジワジワと蝕まれていった。
その思わぬ結果が、イタリア国債の利回り急上昇である。
国債の金利が上がるということは、その国の「信用が落ちた」という結果である。
イタリア国債の利回りは、6%を突破し、ユーロ導入以来の「最悪の水準」にまで上昇した。
イタリアはユーロ圏では第3位の経済大国。
経済も大きければ、「借金」も大きい。
ギリシャ・ポルトガル・アイルランドの借金を合計した額の「3倍の借金」を、イタリアは抱えている。その大きさは、世界でも「第3位」の債務規模、1兆9000億ユーロ(220兆円)である。
もし、イタリアに何かあれば……、今までのユーロ危機の比ではない。
イタリア国債の急変は、一時的なものかもしれないが、悪しき徴候であることに変わりはない。
ギリシャ・アイルランド・ポルトガルは、言ってみればユーロの「外堀」に過ぎない。
ところが、イタリアは違う。ユーロ圏第3位、いわば「三の丸」を守る有力大名だ。
ここは何としても死守せねばならぬ場所である。
そうこうしているうちに、今度はユーロ圏第2位、「二の丸」を守る「フランス」にも、火矢が射かけられた。
やはり、こちらも国債の金利に変化が表れた。ただ、その変化はさして深刻なものではない。ドイツとの差が広がったということである。
しかし、それでも市場には、それなりの緊張感が走った。
まさかのイタリアに次いで、まさかまさかのフランスまで…、という一抹の不安は、皆どこかで抱えているのだ。
フランスの懸念はといえば、イタリアに大金を貸していることである。
その額は、ドイツがイタリアに貸している額の2.5倍、3,890億ユーロ(約45兆円)。つまり、イタリアに何かがあれば、まずフランスがその打撃を直撃することになる。
イタリア不安は、フランス不安に連鎖するのである。
残るは、ユーロ圏最大の「ドイツ」。
今のところ、ドイツの守る「本丸」が揺るぐ気配は微塵もない。
むしろ、他国の不安から、ドイツの信用は上昇する傾向にすらある。
しかし、ドイツは、外堀で苦戦する「ギリシャ」に援軍を送ることを躊躇(ためら)っている。
ギリシャの苦境は、「ギリシャ国民がちゃんとしていなかったためだ」と、ドイツ国民が信じて疑わないためである。
本丸の大将が躊躇(ためら)っている間に、二の丸・三の丸にも、敵の軍勢は姿を現しはじめている。
ドイツは分かっている。ドイツが本丸にいられるのは、他のユーロ圏諸国の恩恵あってのことだということを。
歴史上、主権国家同士の連合は、なかなかうまく行かない。
船頭が多すぎると、船は真っ直ぐに進めないのだ。
シェフ(料理長)が多すぎたら、スープ一杯もまともに作れない。
多国間でユーロを共有するという構想は、画期的にして斬新なものである。
その道は、平坦であることはありえない。
この危機は、最後の危機ではないだろう。幾多の危機を乗り越え、乗り越え進んでいくはずである。
ユーロは誕生から、まだ10年あまり。ここで座礁するわけにも行かないだろう。

