自動車メーカー「フィアット・クライスラー(Fiat Chrysler)」の経営者、セルジオ・マルキオーネ(Sergio Marchionne)氏は言った。
「600万台というのが、自動車メーカーが利益を出すことを期待できる最低限の販売台数だ(6m is the minimum required for car-makers to have a hope of turning a profit)」
この言葉の示すところは、「大きくなるか死ぬか(get-big-or-die)」という自動車業界の大原則(imperative)である。
ところが日本には、そうした「規模の原理」に抗(あらが)うメーカーが5社ある。
スズキ
マツダ
スバル
ダイハツ
三菱
The Economist「自動車業界のナゾの一つは、比較的小さな日本企業5社が繁栄し続けていることだ(One of the conundrums of the car business is that five smaller Japanese firms continue to prosper)」
それはなぜか?
○反抗
一般的に、下位企業にとっての「最も明白な解決策」は、「大手3社(トヨタ、日産、ホンダ)との合併(mergers with the biggest three)」であるはずだ。
しかし、この例に当てはまるのは「ダイハツ」のみ(同社の株式の51%は世界最大の自動車メーカーであるトヨタが保有している)。
スズキとマツダはこともあろうか、その全く逆の道へと歩を進めている。
The Economist「スズキはしばらく前、同社が海外の先進国市場で安価な小型車を売るのを助けられたかもしれない独VW(フォルクスワーゲン)との提携を解消した。スズキ以上に規模の小さいマツダは、米フォード・モーターと喜んで決別した」
スバルも然り。
The Economist「スバルは、トヨタが保有している同社の株式(16.5%)に苛立っているという」
そうした彼らにとって、大手との合併は「非現実な展望(a distant prospect)」のようだ。
The Economist「準大手企業(second-tier firms)はこれまでにない決意で、”世界的な規模とボリュームが欠かせない(global scale and huge volumes are indispensable)”という概念を覆そうとしているようだ」
○伝統的な技術
マツダは数年前、ハイブリッドや電気に背を向ける決断を下した。
従来エネルギーであるガソリンやディーゼルの効率を大幅に向上させたのである(「スカイアクティブ」技術)。
その決断は、自動車業界に賞賛された。
ウォーバートン氏(前出)は言う。「マツダの技術は、日本人による実用主義エンジニアリング(pragmatic engineering)の典型で、まさに現在の市場が望んでいたもの(just what the market wants now)だった」
ハイブリッドや電気自動車の開発には莫大なコストがかかる。マツダの選んだ道は、準大手として真っ当な決断だった。
○通貨安
「通貨安は事実上、各社が紙幣を刷っていることを意味する(A weaker currency means they are well-nigh printing money)」と、マックス・ウォーバートン氏(株式調査会社サンフォード・C・バーンスタイン)は言う。
というのは、各社ともに赤字が数年続いた後で、大きな利益を上げているからだ。それは世界的な円安トレンドの波上にある。
The Economist「5社の中で最も輸出台数が多いスバルとマツダは、北米で記録的な販売台数を謳歌している。スバルは現在、北米での販売台数が独VW(フォルクスワーゲン)を上回っている」
さらに良いことに、「日本の2流メーカー(small-fry)は、自動車業界の大手の企業よりも収益性が高い(more profitable)」
○軽自動車
小規模メーカーの恐るべき持久力(endurance)は、軽自動車(”Kei” cars)にも支えられている。
The Economist「女性や高齢者に人気の高い軽自動車(the tiny cars)は、日本の新車販売台数(new vehicle sales)のほぼ4割を占めている」
大手である日産もホンダも軽自動車は生産しているが、小規模メーカーの方が俄然、軽自動車に対する依存度が高い。
軽自動車には、日本政府による「暗黙の支援(the tacit support)」もあった。税制優遇(tax breaks)という措置が長年とれられてきたからだ。
しかし残念ながら今年初め、政府は軽自動車の税率引き上げを決めてしまった。これは新たな困難(fresh difficulties)である。おおむね自動車各社にとって、日本市場は「縮小傾向にあり採算も悪い(diclinig and unprofitable)」。
それでも日本の自動車メーカーは、一社も欠けてはいない。
The Economist「小規模メーカーはまだ一社も道路脇へ転落していない(none of the small car-makers has yet run off the road)。これは意外なことではない(unsurprising)。彼らにはまだ、たくさんの魅力(lots of oomph)がある」
「大きくないから死ぬ」とは言い切れいない。
(了)
出典:
『The Economist』 October 25th 2014 「Japanese carmakers: Lots of oomph」
JBpress「規模の原理に抗う日本の自動車メーカー」
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