福島第一原発により、東京の飲料水が汚染された。
人々は極度に恐れ、日本国内からミネラルウォーターが消え去り、
日本コカ・コーラ社は急遽、
お隣韓国からミネラルウォーターを輸入する事態に。
しかし、その汚染の度合いは軽微で、
一週間もたたずして、汚染物質は検出されなくなった。
「水」こそは生命の源であり、
その安全性が脅かされることに、
人間は本能的な恐怖を感じる。
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大自然のイメージが色濃いカナダ。
そこに流れる大河こそ、万物を育む生命の宝庫であろう。
ところが、そのカナダの大河の水を飲み、
異常な確率で「ガン」が発生している地域がある。
カナダ・アルバータ州だ。
なぜ?放射能?
いや、全然違う。
もっともっと古典的な汚染だ。
石油採掘からでた汚染水に、
ヒ素、鉛などの有害物質が
たんまりと含まれていたのだ。
その汚染水は、貯蔵庫と呼ばれる池に蓄えられているが、
その池の底からは、悠々と有害物質が大河に注ぎ込んでいるという。
何と、その汚染廃液の池は宇宙から見えるほど巨大だというのだ。
こんな状態が10年以上続いている。
そして、この状態のまま石油採掘は続いている。
その開発規模はケタ違いに巨大で、
ギリシャ一国ほどの大きさだという。
それでもまだ2〜3%しか開発していないのだそうだ。
この開発がこのまま続けば、
汚染の被害は単純に30〜50倍規模になる。

これはアフリカの途上国の話ではないのである。
G7と呼ばれる、先進国カナダの話なのである。
ここの石油採掘は、
従来のものとは全く異なり、
油分を多量に含んだ土壌から、石油を取り出す。
「タールサンド」と呼ばれるものだ。
20世紀は石油の時代であった。
しかし、21世紀がそうなるとは限らない。
石油の限界が見えてきたからだ。
石油の需要は年々2%づつ上昇しているにもかかわらず、
その埋蔵量は年々7%づつ低下している。
つまり、石油の取り崩しが始まっているのだ。
地球上探しても、なかなか石油は見つからない。
3ヶ月しか氷が溶けない北極圏や、
海底1,500mの深海など、危険を冒して石油を掘っている状態だ。
そうして、英BPはメキシコ湾で痛恨のミスを犯した。
そんな危険を冒すなら、
住民にガンが発生しようが、それは力で押さえつけて、
カナダの「タールサンド」から石油をとろう。
そんな酷い話なのである。
10年以上前から、カナダの原住民は、
「タールサンド」に抗議の声をあげ続けていた。
しかし、その声を聞いてくれる人はいなかった。
「タールサンド」の開発業者は、
「有害物質は自然から流れ出たものだ」と言い張った。
民間の研究者のデータなど、鼻から相手にしない。
カナダ政府の調査機関を篭絡済みだからだ。
カナダの原住民たちは、国内での抗議活動に限界を感じ、
環境会議が開催されるコペンハーゲンへと向かう。
ところが、ここでも全く相手にされない。
会議場には入れてもらえず、
扉の向こうでは、各国で無意味な合意がなされるだけだった。
それもそのはず、
カナダの「タールサンド」のお得意先は、
世界最大のアメリカ合衆国だからだ。

「タールサンド」に完全に依存するアメリカにとって、
この開発は、経済の生命線なのである。
アメリカが態度を変えない限り、カナダは俄然強気なのだ。
途方にくれるカナダの原住民たち。
しかし、小さいながらも火種を絶やさなかったことが功を奏す。
この火種が、思わぬ著名人に飛び火したのだ。
映画監督、ジェームズ・キャメロンの登場である。
「アバター」の物語は、タールサンドに着想を得たとさえ言われる。

ジェームズ・キャメロンが味方につき、
この問題は、燎原の火の如く世界に広がった。
そうなると政治家は弱い。
もともと政治家は大勢につく習性があるからだ。
カナダ政府は「タールサンド」の調査は
今まで不十分だったことを認めた。
カナダの原住民たちの活動が、
一歩踏み出すことに成功した瞬間だった。
「石器時代が終わったのは
石がなくなったからではない」
石油の時代は、
石油を使い切るから終わるわけではない。
出典:NHKBS世界のドキュメンタリー
シリーズ 未来をあきらめない
「
岐路に立つタールサンド開発〜カナダ 広がる環境汚染」(後編)