世界には風変わりな人々が多い。
イタリア人とスイス人の夫婦「レプレ夫妻」もその例にもれない。
世界42ヶ国を8年間かけて、「自転車」で旅したのだという。
一日の走行時間は4〜6時間とのこと。
この夫妻は貧しくて自転車で世界一周をしたわけではない。
すでにいろいろな国を観光で訪れ、「普通の旅」に退屈していたのだ。
そこで、「行き当たりばったり」の自転車旅行ということになった。
この夫妻、「日本」を訪れた際、すっかり日本の虜(とりこ)になってしまった。
夫妻が日本を訪れたのは初めてのことではない。2度ほど訪れたことがあったそうだが、2度とも良い印象は抱かなかったのだという。
「寿司は嫌いだったし、温泉に入ろうとも思わなかった」。さらには「何でも値段が高い」。そんなこんなで、数日間しか滞在しなかったのだとか。
ところが、観光目線とは違う自転車目線で日本を眺めてみると、実に興味深い国であることに気づかされる。
「生魚なんて絶対に嫌だ」と言っていたのが、大の刺身好きになり、「日本人の味覚は繊細だ。食べ物で日本人を騙(だま)すことはできないだろう」とまで賞賛してくれている。
自転車旅行で疲労の溜まりやすい身体に、「温泉」は最高だった。今では、「温泉が恋しくて仕方がない」とまで語っている。
また、一般庶民の家庭に泊まるという体験もしている。
「『日本人は人を家に招かない』と外国人は言うが、日本人の『もてなす精神』は素晴らしい」
庶民の目線で日本を見ると、表面的には見えない「日本人の価値観」「日本人の職業観」「日本の教育」などなど、興味は深まるばかりだったという。
ハイテクな国だと思っていたら、意外と伝統的な生活スタイルであったり、物質主義な国民かと思っていたら、意外と精神性を重んじる国民であったり、騒々しい観光地ばかりかと思っていたら、日本には美しい静寂もあった。
知れば知るほど、日本に引きこまれてゆくレプレ夫妻であった。
約半年の滞在の末、夫妻は日本を離れる。
ところが、日本を離れるや、日本を想う気持ちがムクムクと大きくなる。
結局、オーストラリアから引き返し、再び日本に戻ってきてしまったそうだ。
世界42ヶ国を旅して感じたのは、「日本は一番おもしろい」ということだったという。
世界の人々はもっと日本を知ったほうが良いと夫妻は考えた。写真集「JAPAN」を出版し、「ジャパン・ショー」と名付けたスライドショーをスイス各地で開催。
この「ジャパン・ショー」はスイスのメディアに大きく取り上げられたため、今後、他国での開催も計画中だという。
他国の人に日本を評価して頂けてることは、とても嬉しいことである。
この夫妻が感じた通り、日本の魅力というのは「観光地」にはないのかもしれない。
我々日本人にとっても、観光地が「浮いた存在」であることは否定のしようもない。
「何もない」ことを売りにして一乗谷(福井)に観光客を呼び寄せたという話があったが、かえって「素のまま」の日本が一番おもしろいのかもしれない。
レプレ夫妻の例を見てもわかる通り、外国人の「はまるツボ」がどこにあるかは、よく分からない。
世界には多種多様な価値観が混在し、同じ体験をしても、「最高」という人もいれば、「最悪」という人もいるのだろう。
言語、民族、宗教などなど、日本のような国が世界の他の場所にあるとは思えない。
日本人であるということは、嬉しい宿命なのかもしれない。