「朝ラーメン」
これはラーメンの街「喜多方(福島)」では珍しいことではない。
この街では、「田んぼに出前」までしてくれる店もあるのだとか。
喜多方という街は、じつに小さな街である(人口5万人)。
ラーメン好きならば、その名を知らぬ者はないほどに知名度が高い街ではあるが、実際に訪れてみると、その名前の大きさとのギャップに驚く。
しかし、ラーメン店だけは異様に多い。
その数、120を超えるのだとか(一人当たりのラーメン店数、日本一)。
街は小さくとも、ラーメンへの期待には予想以上に応えてくれる。毎食毎食ラーメンを食べ続けたとしても、ゆうに一ヶ月以上は楽しめる計算だ。
ときには日本三大ラーメンの一つとも称せられる「喜多方ラーメン」。
豚骨や煮干しベースのスープに、太めの平打ち縮れ麺。具材はチャーシュー、ねぎ、メンマなど。どちらかというとアッサリした感じの伝統的なスタイルである。

昭和初期の一台の屋台から、喜多方のラーメンは始まったと言われている(現・源来軒)。
そして、1980年代の「ご当地ラーメン・ブーム」の波とともに、現在のラーメンの街へと発展を遂げた。
ラーメンで名を上げる前の喜多方は、福島の北の端の小さな町に過ぎず、唯一注目されるものと言えば、2,000は現存しているという「古くからの蔵」のみであった。
「蔵」の観光というのは、じつにアッサリしすぎている。
観光客たちは、フラフラと蔵を眺め終わると、風のように去ってゆく。
どうしたら、観光客を長く引き留められるのか?
そこで、観光課の「富山昭次」氏は思い立った。
「ラーメンだ!」
ところが、周囲は大反対。
「一杯数百円のラーメンで町興しなどできるものか」
そう言ってバカにされたという。
それでも、富山氏はしぶとかった。
「るるぶ」の紹介記事に、こっそりと「ラーメンの記事」を忍ばせておいた。
「蔵の街・喜多方の蔵は、味噌・醤油を貯蔵するためのもの。
喜多方のラーメンは、その蔵で醸造された上質の醤油でつくられる。
こうして、おいしい醤油ラーメンが産まれるわけだ…。」
その結果、現在まで、喜多方のラーメン店で行列が絶えることがなくなったという次第である。
喜多方のラーメン発展の歴史は、ほとんど日本全国の歴史と軌を一にしている。
「流し」と呼ばれた屋台が日本で多く見られるようになったのは、大正から昭和にかけて。
屋台スタイルというのは、江戸時代の「夜鳴き蕎麦屋(屋台)」のラーメン版だったのだとか。
戦後、インスタント・ラーメンの発売なども相まって、日本のラーメン文化は国民食へ。
そして、1980年代には「ご当地ラーメン・ブーム」が巻き起こり、ラーメン文化は一気に花開く。
バブル崩壊とともに、日本経済が沈静化していくのを横目に、ラーメン文化ばかりは、発展に継ぐ発展。
経済学者の方々が言う「失われた10年、20年」の間、ラーメンばかりはまことに実り多き時を過ごしたのであった。
ある日本人へのアンケートによれば、100人に「ラーメンは好きか?」と訊ねれば、少なくとも90人以上が「Yes!」と答えるのだという。
これほど国民から圧倒的な支持を受ける国民食というのも、世界に例がない。
独裁とも思えるラーメン政権には、外国人たちも驚くばかりである。
しかも、その日本のラーメンは、あっという間に外国人たちをも虜(とりこ)にしてしまう。
日本観光局の調べでは、外国人の「日本に来て満足した食事ランキング」の第2位が「ラーメン」である。
堂々の第一位は「お寿司」。ラーメンは寿司に次ぐ地位を獲得し、強豪他者である「刺身」「天ぷら」を見事に押さえきっているのだ。

外国人がラーメンを好きになる理由の一つは、ラーメンの「コッテリ感」だという。
日本の伝統的な料理は、一様に「アッサリ」している。つまり、何か物足りないところがあるのだ。
ところが、ラーメンの濃厚さは肉好きの欧米人の口をも満たしてくれるものなのである。
その外国人たちにとっての「カベ」は、ズズーっと「すすること」。
欧米はもちろん、中国・東南アジアにおいても、食のタブーは「音をたてて食べること」なのである。
しかし、このカベをブチ破れた外国人は、もうラーメンの世界から引き返せなくなってしまう。
見事にブレークスルーを果たしたあるイギリス人は力説する。
「口の隙間から空気を入れて、麺と一緒に吸い込むんだ(ズズーッ)。
すると、空気が麺の周りで回転して香りが広がり、一層美味しくなるんだよ!」
彼は仲間内から「ラーメン・マスター」の名で尊敬されているという。

「ラーメンは食の域を超えている。もはや趣味だ。」
そう感じる外国人もいる。
ラーメンの評論家があまた存在し、専門の雑誌も人気を集め、個人レベルでもラーメンの写真をとってブログで感想を述べる。
あっちこっちと食べ歩き、日本全国へと足を伸ばす猛者も少なくはない。
本家・中国では日本ほどにラーメンが多様ではないのだとか。
インドネシアでは、ラーメンを好きだと言うと「悪い冗談」だと思われるらしい。
なぜなら、ラーメンは安っぽい料理の代表であり、それをわざわざ好きだという人はいないのだという。
外国人たちの種々の反応をうかがっていると、いかに日本のラーメン事情が、世界的に特殊であるかが分かってくる。
日本のラーメンの特徴の一つは、「何でもアリ」ということ。
最近では、つけ麺スタイルが人気を博したり、パスタとも思われるようなトマトソースのラーメンまでもある。
そのトマトソース・ラーメンを見て、イタリア人女性は眉をしかめる。
「これは、ラーメンじゃない」

しかし、それでもラーメンなのだ。
ラーメンは「食のるつぼ」なのである。
「人種のるつぼ」として、あらゆる人種を受け入れて大きく発展したアメリカ合衆国のように、ラーメン合衆国はあらゆる食を受け入れて、稀有の発展を遂げ続けているのである。
日本人の心は「簡素さ」を好むかと思えば、ラーメンのような「多様性」をも好むようである。
何だかんだと文句を言う外国人たちも、「ラーメンを好きか?」と問えば、意外と多くの人が素直に手を挙げる。
「なんだ、結局みんな好きなんじゃないか!」

ラーメンの生み出した宇宙は、まだまだ膨張を続けていきそうである。
新しい星が生まれ、そして消えてゆく…。
次に生まれる星(ラーメン)は、どんな星なのだろうか?
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出典:COOL JAPAN
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