2016年11月17日

現実か? 妄想か?




「自分の能力が、下から25%にはいっていると思う人?」

そう聞かれても、誰も手をあげない。

「じゃあ、平均以上だと思う人は?」

8割がたの人が手をあげる。



これは少し可笑しな話だ。

「8割以上の人が平均以上」ということは統計学上ありえない。



「人はもともと楽観的なんです」

と専門家は言う。

そして、こう付け加える。

「自分のことには楽観的で、自分以外のことには悲観的なんです」



タバコを吸うと肺ガンで死ぬ確率が高くなる、というデータが明示されたとしても、喫煙者の多くは、なぜか「自分だけは死なない」と思い込んでいる。

バイクの死亡事故は自動車の30倍だと聞かされても、なぜか「自分だけは大丈夫」と多くのバイク乗りは思っている。

専門家は言う。

「そう考えるほうが、生存に有利だったのでしょう」







生存のためなら、脳は平気で現実を無視する。

都合が良ければ、無いものでも有ると思い込み、都合が悪ければ、有るものでも無いと思い込む。

たとえば、木に隠れたネコの、尻尾だけが見えているとしよう。すると人間の脳は勝手に、見えないはずの「ネコ」を作りあげてしまう。これは「アモーダル補完」と呼ばれる脳の働きのひとつであり、過去のデータから連想して、自動的に現実をつくりだしてしまうのである。

もちろん、ネコの尻尾が見えたら、おそらくそれはネコだろう。だが、この働きがエスカレートすると、脳の現実は幻想的になっていく。つまり「楽観的」になるのである。







テレビに映る像は、現実ではない。

それは「たくさんの点の集まり」にすぎない。

動いて見えたとしても、それは動いているわけではない。

1秒間に30回くらい、点の色が変化しているだけだ。



言葉も本来は意味をもたない。

ただの音だ。

実際、自分の知らない言語を聞けば、その意味はチンプンカンプンであり、それらが有意に連続しているなどとは到底思えない。きっと、ランダムな音の羅列にしか聞こえないはずである。



ありのままを見れば、あるいは、ありのままを聞けば、そういうことになる。

意味や連続性は、言ってみれば、脳があとから味つけした情報にすぎない。そして、その情報というのも、電気伝達の結果でしかない。

初期仏教の長老がたは、その辺りをよくよく心得ている。







サイエンスでいえば量子力学になる。

量子という存在は「不確定」とされている。空間的な位置を定めれば、時間的な速度に逃げられる。また逆に、時間的にとらえれば、こんどは空間の中に逃げられる。

物理学者たちが好むネコ、「シュレディンガーの猫」は箱を開けるまでそこに存在するとは限らない。たとえ、さっき箱の中に入れたとしても。もし、シッポが見えていたとしてもだ。



じゃあ、現実とは何か?

この問いには、根本的に可笑しなところがある。

とらえられる現実が存在すると、前提しているところである。量子力学者なら、そうは言わないだろう。







かつてギリシャのプラトンは、現実を「洞窟の壁にうつる影」と表現した。洞窟のなかで焚き火をしていると、洞窟の壁には人々の影が写しだされる。現実とは、そんな影のような存在だ、と。これを現代人は「ホログラフィック原理」という。

そういえば夏目漱石『夢十夜』の第8夜に、床屋の椅子にすわる男がでてくる。彼に見える世界は、床屋の鏡のみ。鏡という2次元空間に写る、豆腐屋や芸者しか見えない。

男は言う。

「ちょっと様子が見たい。けれども粟餅屋はけっして鏡の中に出てこない。ただ餅をつく音だけする」







3次元だと思っている世界が、じつは影や鏡のような2次元だったとしたら。これは面白い。多次元のようにどんどん次元を増やしていくよりも、いっそ減らしていこうというのだから。

しかし、階段の塵は竹の影が掃いても動じない。どんな激流も水に映った月を押し流すことはできない。二元論は禅の強く戒めるところだ。



ならば禅僧なら、なんと言う?

両忘(りょうぼう)? 光と影、大と小、中と外などなど、なんでもかんでも2つに分けて考えなさるな、両方とも忘れろ、と。

二元論はどこまで行っても、平面たる二次元からは抜けられない。所詮、同一平面上、お釈迦さまの掌上を出ることはない。



莫妄想(まくもうそう)

そろそろ妄想はおわりにしよう。


















(了)






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posted by 四代目 at 08:36| Comment(0) | サイエンス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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