2015年02月02日

アメリカの新しい貴族たち [The Economist]



トーマス・ジェファーソン(Thomas Jefferson)は言った、特権階級(aristocracy)には2種類ある、と。

一つは、自らの才能に恵まれた人々(a natural aristocrasy)。もう一つは、裕福な家に生まれただけの人々(an artificial aristocrasy)。

ジェファーソンはこう続けた、「国家に恩恵をもたらすのは前者であり、後者は国家を窒息させる」と。



ジェファーソン自身は、両者のハイブリッドであった。

彼は義理の父から1万1000エーカーの土地と奴隷135人を受け継いだ裕福な生まれでありながら、有能な法律家でもあった。







もともとアメリカという国家は、特権階級(貴族)という地位が代々相続されることを拒んできた。それが建国の理念であり、歴史上、この国は王や領主を頂くことがかつてなかった。

しかし今、アメリカは世襲(dynasty)に寛容になりつつある。

たとえば共和党の大統領候補者には、その「父親が大統領選に立候補した経験をもつ者」が3人もいる。対する民主党は「元大統領の妻」が出てくるかもしれない。






■ 知的資本



いかに莫大な富も、子息の浪費によって数晩で消えてしまうかもしれない。もしくは、アメリカ連邦政府の反トラスト法や相続税によって損なわれてしまうかもしれない。

しかしそれでも、世代を超えて確かに受け継がれていくものもある。

The Economist誌は言う、"It is brains(知力)."



知識経済の原動力である「知的資本(intellectual capital)」。

現代社会でそれを持つ者は「a fat slice of the pie(大きな取り分)」を得ることができる。

現在、アメリカでは「賢くも成功を収めた男性(clever, successful men)」が、同じように「賢くて成功している女性」と結婚するケースが、これまでの世代よりもずっと多くなっているという。



そうした「同類婚(assortative mating)」によって、アメリカの格差(inequality)が25%も拡大しているとの推計がある。なにせ彼らには大きな収入源が2つもあるのだから。

そんな「パワーカップル(power cuples)」は、自らの子どもに与える影響も絶大だ。

”知的職業を親にもつ子供が4歳までに耳にする言葉の数は、生活保護で暮らす両親の子供に比べて3万2000語も多い(The Economist誌)”






■ 大学



たとえ家が貧しくとも、優秀な子供であればアイビーリーグの学費を全額免除されるかもしれない。

しかし現実のところ、アメリカの大学の学費は1980年以降、平均収入よりも17倍も速いペースで上昇してしまっている。そのため、中流クラスの学生たちは大学に通うために膨大な借金を抱えこまざるを得ない。

すなわち、親の収入と子供の学業成績との関連性(the link between parental income and a childs' academic success)は、いよいよ強くならざるを得ない。



高級住宅地に暮すアメリカのエリート層は、フルートのレッスンや中国語の家庭教師に大を投じ、コネを駆使して一流大学へと進んでいく。

”多くの大学は、入試にあたって自校の卒業生の子息(the children of alumni)を優遇する「レガシー制度」を導入している(The Economist誌)”

そしてそのまま、最高の大学から最高の職へと道はつづいていく。大卒の若者が手にする収入は、高卒者の63%も多いという。



そもそも高卒では職に就くことすら困難であり、女性の場合、未婚の母親になってしまう割合が61%にも上る(一方、大卒の母親が未婚のまま出産する割合は、年間わずか9%)。

先進国のなかでアメリカは貧富の格差(the gap between rich and poor)が最大の国家であり、なおかつ、貧困地区の学校よりも富裕地区の学校に多くの公的費用が投じられている、先進国に3つしかない国の一つである。






■ 教育



The Economist誌はいう、

”アメリカは国際基準でみても、幼児保育で後れをとっている。アメリカの最貧困地区で幼児教育を向上させれば、投資額の10倍、あるいはそれ以上のリターンがあるはずだ”



The Economisit誌に言わせれば、アメリカには「ひときわ強硬に能力主義に反対する勢力(anti-meritocratic forces)」があるという。

”すなわち教職員組合(the teachers' unions)に支配されている。優れた教育に報酬を与えるべきだとか、悪い教師を解雇すべきだなどと少しでもほのめかせば、教職員組合が抵抗する”



アメリカでは能力主義(meritocracy)が浸透していない、とThe Economist誌はつづける。

”学業成績のみ(solely on academic merit)で入試の合否を決めている大学は、カリフォルニア工科大学などごく一部に限られる。今のアメリカは、活用されていない才能があまりにも多すぎる。生まれと成功との結びつき(the link between birth and success)を弱めれば、アメリカはもっと豊かになるだろう”



これからのアメリカに必要とされるのは、

”もう一人のクリントン(another Clinton)か、はたまたもう一人のブッシュ(another Bush)か”



人為的な特権階級(an artificial aristocracy)が雲の上に居座りつづければ、その国家は徐々に窒息してしまう。

アメリカ建国の父、トーマス・ジェファーソンはそう言った。

”彼が提唱したことは、時代を超えて有効である(The Economist誌)”













(了)






出典:
The Economist: Education and Class, America's new aristocracy
JBpress「教育と階級:アメリカの新たな貴族」



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posted by 四代目 at 12:03| Comment(0) | 教育 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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