2014年11月25日

砂漠のシロアリ、そして象 [ナミブ砂漠]




ここは別の星なのか?

なんだ、この謎めいた模様は?



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奇妙なサークルが、地表のかなたまで埋め尽くす。

人はそれを「フェアリー・サークル」、妖精の輪とよぶ。



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いったい何者が、このような奇妙な模様を描いたのか?

動物たちのイタズラか?

いや、植物が出す有害物質かもしれない。

まさか、その名の通り妖精が…?






■オアシス



諸説百出するなか、ノルベルト・ユルゲンス博士(ドイツ・ハンブルグ大学)は、「シロアリの仕業だ」と言う。ユルゲンス博士の根気強い調査によると、ほぼすべてのサークルで見つかった生き物は、この「スナ(砂)シロアリ」という虫しかいないという。



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円形の模様の下(地中)には、スナシロアリの巣が存在しており、サークル内に植物が生えないのは、その根をスナシロアリが食べてしまうからだという。

妖精の正体見たり、スナシロアリ。



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ここで重要なのは、このサークル内に多量の水分が保持されているということだ。

ユルゲンス博士は言う。「水はとても長いあいだ砂の中にとどまります。ご覧の通り、とても湿っていることがわかります」



なぜ、サークル直下に水がとどまるのか?

植物が生えていないことがその理由だという。もし植物が生えていたら、地中の水分は植物の根による吸収によって瞬く間にカラカラの空気中へと放散されてしまう。ところが幸いにも、フェアリーサークル内には植物が生えていない。そのおかげで、水分の散逸から免れている。

すなわち、フェアリーサークルは乾燥した大地の「オアシス」。砂漠の貴重な水をゆっくりと循環させる役割を担っているのである。



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■ナミブ砂漠



フェアリーサークルがあるのは、アフリカ大陸の「ナミブ砂漠」。

世界最古の砂漠といわれ、その歴史は500万年とも5,000万年とも。年間降水量は50mmにも満たず、世界で最も乾燥した地域の一つである。



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「あれは海ですか?」

福山雅治氏は、砂丘の上から遠くを指差す。

それは確かに海。このナミブ砂漠は珍しくも海岸沿いに発達した砂漠なのである。



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ナミブ砂漠の近海には「ベンゲラ海流」という、南極からやって来る冷たい海流が流れている。海流によって冷やされた空気は重く沈み、上昇気流を起こさない。そのため、大西洋から吹いてくる湿った空気は雨雲になることがない。冷たい海流の影響で、ナミブ砂漠には雨が降らない。

それでも明け方、冷たい海に冷やされた空気が「霧」になることがある。極度に乾燥した大地に暮らす生き物たちは、この絶好の霧を逃すものかと、あの手この手で自らの体内に取り込もうとする。



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それまで地中に隠れていたヤモリの仲間、ミズカキヤモリは霧が出るや地上に姿をあらわす。霧を顔に当てて、水滴として飲むためだ。



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ゴミムシダマシが逆立ちしているのは、体じゅうに付着した水滴を口元へと流し込むためだ。



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このナミブ砂漠にあっては、水分がそれほどにも貴重である。

朝方の霧とて実にはかない。数時間もすると太陽が昇り、霧はまさに雲散霧消。一気に灼熱地獄と化してしまう。

灼熱の太陽に焼かれる砂の表面温度は70℃にも達する。トカゲの仲間、アンチエタ・ヒラタカナヘビが足を交互にあげるのは、熱砂になるべく触れないようにするためだ。



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■水の連鎖



この水無き世界にあって、スナシロアリの生み出すフェアリーサークルは、奇跡のオアシス。

そのサークルの縁には、地中の水分を求めた植物たちが茂みをつくる。そして、その水分の含んだ植物を、より大きな動物たちが食する。



シロアリ自体も、動物たちの餌となる。

オオミミ(大耳)ギツネは世界で唯一、シロアリを主食とする珍しいキツネ。その大きな耳でシロアリが動くときの微かな音を聞き分け、自らが生きるのに必要な栄養と水分をこのシロアリから得る。また、ハイエナの仲間、アードウルフは一晩に30万匹のシロアリを平らげる。

シロアリを食べる動物のなかで、とりわけ風変わりな者がツチブタだ。ウサギのように大きな耳に、豚のように細長い鼻。抜群の嗅覚でもってシロアリを探り当てる。だがツチブタは極端に臆病。大きな耳で何らかの異変をキャッチするや、脱兎のごとく逃走。一日中でも巣穴から出てこなくなるという。ゆえに幻の珍獣ともいわれている。



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シロアリは世界に3,000種ほどが生息しているというが、その多くが著しく生命力に優れ、砂漠のような厳しい環境をもたくましく生き抜く。

シロアリが食べるのは、主に植物の葉や根。たとえばナミブ砂漠のように極端に乾燥した地域では、ミミズなどの土壌生物が存在しないため、シロアリが植物を分解する主な担い手となっている。もしシロアリがいなかったならば、砂漠に朽ちた植物は半永久的に残り続けてしまうことになるだろう。

だがシロアリの中には、自分で植物を消化できない種もある。たとえばキノコシロアリという種は、キノコを栽培する”農耕シロアリ”。枯れ草などを唾液で固め、そこにキノコの菌を植え付けて”菌園”をつくる。このシロアリが食料とするのは、菌園に成長する白い菌糸のかたまりだ。



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なるほど。こうした様々なシロアリたちは、ナミブ砂漠において食物連鎖の輪を回す重要な役割をになっているようだ。

水も然り、食も然り。極限まで乾燥した大地にあってそれらの連鎖は、か細くも小さな命によって紡がれているのであった。






■砂漠ゾウ



食の乏しい大砂漠。

その真っ只中で、ゾウのような巨体が維持されていることは信じ難い。



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それでも彼らは生きている。

アフリカゾウの一種、砂漠ゾウはわずかな水分を求めて山を登る。そんなゾウは、世界でも稀だ。登山する砂漠ゾウの目的は、コミフォラという枯れ木のような植物。枯れ木にように見えても、その幹にはたっぷりと樹液(水分)が含まれている。



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また、砂漠ゾウたちは地面に鼻をつけて、しきりに何かの匂いを探る。それは水の匂い。砂漠の下にたまった地下水の匂いを丁寧にかぎとる。そうして見つけた地下水の場所は、代々群れの仲間で受け継がれていくことになる。知恵ある彼らは、そうして命をつなぐ術を心得ている。



ゾウという大型動物は、食物連鎖のピラミッドではだいぶ上のほうに位置している。それはすなわち、その下のより大きな底辺に支えられてしか生きられないことを意味する。

ゾウという巨体を生態系が維持するためには、シロアリのような小さな生物がどれほど必要とされるのだろうか。何千万か、何億匹か。必要とされる水はどうだろう。

ナミブ砂漠にゾウが暮らすという事実は、その生態系の確かさを物語る。一見貧弱に見える砂漠の生態系も、じつは広大な、見えない底辺によって支えられているのである。






■別天地



一年に一度、ナミブ砂漠は別天地に姿をかえる。

わずか数週間だけ、雨が降るのだ。



水を得た砂漠は、劇的に変化する。

百花繚乱。



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じっと乾燥に耐えていた植物の種が一斉に芽吹き、色とりどりの花々が咲き乱れる。あのフェアリーサークルも緑に覆われ、楽園のような様を呈する。



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干上がっていた川にも、1年ぶりの水が音をたてて流れる。

砂漠ゾウは数年に一度の出産を終えたらしく、小さな子どものゾウを伴っている。



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キノコを栽培するシロアリの塚にも、変化が起こる。

塚を突き破って、大きなキノコが生えてくる。降雨が起爆剤となって、菌園の菌が一気に成長したのである。ここぞとばかりに傘を開いたキノコは、モワモワと胞子を撒き散らす。



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じつはこのキノコ、シロアリに育ててもらわなくては砂漠で生きていけない。キノコシロアリもまた然り。このキノコなしでは食を得ることはかなわない。まさに一心同体。この両者不離の関係がはじまったのは、なんと3千万年も前のこと。悠久の時間が、両者を不可分の関係に織り上げたのである。



シロアリの塚にキノコが生えているのを見て、チャクマヒヒが駆け寄ってくる。このヒヒにとって、キノコは時ならぬご馳走。キノコを引き抜くと、もしゃもしゃと頬張りはじめる。

砂漠の過酷さの中で、連鎖の無駄は許されない。命を燃やすあらゆるものが、何ものかのために消えざるを得ない。



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■日常



ナミブ砂漠に、ふたたび乾いた風が吹きはじめる。

楽園の終わりを知らせる風だ。



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砂漠の饗宴は、あまりにもはかない。

もとの灼熱の世界が、容赦なく押し寄せる。



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シロアリも砂漠ゾウも、またいつもの生活に戻っていく。

乾きと飢えは、いつものことだ。

ずっとずっと彼らは、そうやって生きてきた。



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そして、これからも

その営みが続いていくに違いない。



そう願う。



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(了)






出典:NHKスペシャル
ホットスポット 最後の楽園
シーズン2 第2回 アフリカ・ナミブ砂漠



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posted by 四代目 at 06:08| Comment(0) | 自然 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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