2014年11月11日

洗脳する寄生虫たち [エド・ヨン]



Why do these groups form?
なぜ、動物たちは群れるのだろう?



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seeking safety in numbers?
hunting in packs?
gathering to mate or breed?

身を守るため?
獲物を狩るため?
繁殖のため?



これらの答えは、いずれも正しい。

だが、ある仮定を必要としている。

それは「動物が自分の意志で動いている(the animals are in control of their own actions)」という大前提。



ところが自然界では、その「意志」ほどあやふやなものはない。

たとえば、自ら水に飛び込んで自殺をはかるコオロギ。それは彼の意志なのか? また、自らハチの巣へと食べられに行くゴキブリ。それも彼の意志なのか?



エド・ヨン(Ed Yong)は言う。

「寄生虫に乗っ取られたら終わりです。自分の意志では何もできません(Once the parasites gets in, the hosts don’t get a say)」






○シーモンキーが群れる理由



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シーモンキー(sea monkey)と呼ばれる、小さな小さなエビ(甲殻類)がいる。普段は単独で行動するのだが、寄生虫に取り憑かれると真っ赤になって、大きな群れをなす。



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そして群れをなしたが最後、それらはフラミンゴの格好の餌食となってしまう。シーモンキーに取り憑く寄生虫は「サナダムシ(a tapeworm)」である。サナダムシはフラミンゴの体内でしか繁殖できない。

「だから、シーモンキーに目立つ色の群れをつくらせ、フラミンゴに見つけてもらい、食べてもらうというわけ」とエドは言う。



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なんということか。シーモンキーが群れをつくるのは、天敵に食べてもらうためとは。そしてそれは彼らの意志ではない。サナダムシという寄生虫のなせる術(わざ)なのだ。

エドは言う、「サナダムシは、シーモンキーの脳と体をハイジャックして、フラミンゴの体内へとたどり着くための乗り物に変えてしまうんだ」






○ゾンビ化するゴキブリ



エメラルドゴキブリバチ(the emerald cockroach wasp)は、ゴキブリに卵を産みつける。そのためにまず、ゴキブリの頭に針を刺して、その脳に毒を注入する。

エドは言う。「イスラエルの科学者によると、この毒は特殊な化学兵器。ゴキブリは死なない。鎮静状態にもならない。逃げたければ逃げられる。けど逃げたくならない。毒が、動こうという気を削ぐのです。つまり頭の中の危機感がオフにされてしまうのです」



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すっかり洗脳されてしまったゴキブリは、易々とハチの巣へと連行されていく。

エドは続ける。「まるで犬を散歩させるみたいに、ゴキブリは蜂の巣へと連れて行かれます。そしてそこで卵を産みつけられ、生まれたハチはゴキブリの体を食べて飛び出してくるのです。だから、いったん刺されてしまったゴキブリは、もはやゴキブリというよりはハチの一部です。自分の意志では何もできないんですから」



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○自殺するコオロギ



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コオロギは泳げない。

それなのに水に飛び込むコオロギがいる。まるで自殺だ。溺れ死ぬか、魚に食べられるかしか道はない。



そうした狂えるコオロギもまた、寄生虫に操られている(a parasitic manipulation)。

その証拠に、水没したコオロギの尻からは、その黒幕たる「ハリガネムシ(a Gardian worm)」が長い長い姿を現す。

エドは言う、「ハリガネムシはゴキブリの体内で育ちます。しかし、交尾するには水中に入る必要がある。そこでタンパク質を出して、コオロギの脳を操ります。操られたコオロギは溺れ死に、その死骸からハリガネムシが脱出するのです」



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神戸大学の佐藤拓也准教授が、川の魚が食べた物を調べてみると、驚くほど大量のカマドウマ(便所コオロギ)が魚から出てきた。それらカマドウマは皆、ハリガネムシが寄生した成れの果てだった。

「秋になると、サケ科の魚がやたらカマドウマを食べていて、お腹の中からは一緒にヒモみたいな奴が出てきました。それがハリガネムシっていう寄生虫でした」

佐藤准教授は続ける。「カマキリに寄生するハリガネムシの仲間は昔から知られています。水辺に住んでいる子供たちだと、カマキリを捕まえて水につけ、お尻から何か黒い長いものが出てきて、ハリガネムシと戯れてるというのは、よく聞く話なんです」



カリフォルニアで科学者たちが調査を行ったところ、3ヶ所の河口から大量の寄生虫を発見した。

エドは言う、「とくに多かったのが吸虫(trematode)。宿主を生殖不能にする寄生虫です。河口にいた吸虫の総重量を計算すると、そこに棲む魚の総重量に匹敵するほどでした。また、佐藤拓也という科学者の調査では、ある川のマスが餌とするものの60%が、操られて水に溺れた虫でした」





○乗っ取り



「これらって珍しい現象なんでしょ(These things are oddities of the natural world)? と思う方もいるでしょう。でも、寄生虫による乗っ取りは、自然界では普通のことなんです(Manipulation is not an oddity. It is a critical and common part of the world around us)」とエド。

しかし、これまでの例はみな昆虫の話。まさか高等な人間までは…、と思いたいところであろう。だが、同じ哺乳類であるネズミの例もある。



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エドは言う。「そんなわけでこちら、トキソプラズマ(Toxoplasma)。略してトキソ。トキソはネズミを乗っ取って、猫を探すんです。トキソの出すドーパミンの合成酵素によってネズミの脳は操られ、猫の尿の匂いに誘われて近寄り、それで猫に食べられてしまう。まんまと猫の体内に入ったトキソは、そこでめでたく愛の営み。これぞ『食べて、祈って、恋をして(Eat, Prey, Love)』」

ネズミは我々人間と同じ、高等な哺乳類。一方のトキソは、下等な単細胞生物。神経系もなければ意識もない。体すらない。

「それなのに哺乳類を操作してしまう! 僕ら人間だって哺乳類。つまり、脳の基本構造や構成要素、そして寄生虫もネズミと共通なんです。諸説はありますが、人間も3人に一人はトキソに寄生されている、という説も…」



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トキソの人体への影響については、専門家の間でも見解が割れているという。

エドは言う。「交通事故率が高いとか、性格診断で違いがでる、なんていう話はある。人間だけが寄生虫の影響を受けないなんてことは、あり得ないはずです。人間だって脳を操作されることはありますよね、たとえばドラッグとか。議論や宣伝なんかも人の考えを変える手段ですよね」






○日本の「虫」



日本語にも「虫」は馴染み深い。

虫がいい
虫が好かない
虫の知らせ




江戸時代に盛んに行われた庚申講というのは、そうした「虫」を恐れた信仰だった(以下引用、安彦好重「庚申とは何か」)。

中国の庚申信仰というのは、人間の体内に「三尸(さんし)の虫」というものがいて、それが庚申の夜、人が眠っている時に人体を脱け出して天に昇り、天帝にその人の日頃の悪事を告げ、その人を死に追いやったり、寿命を縮めたりするという迷信である。三尸というのは三鬼ともいい、人の体内にいる上・中・下の三匹の虫で、頭にいるのは上尸、彭倨という黒色の虫で、腹にいるのは中尸、彭質という青色の虫で、足にいるのは下尸、彭矯という白色の虫である。

これらの虫は庚申の日(60日ごと)に鬼となって人に害を与える。この三尸の虫が人間の体内で日夜その人の行動を監視していて、庚申の夜を待って天に昇り、天帝にその人の悪事を残らず報告すると、天帝はその悪業により命をとったり寿命を縮めたり、その他の罰を与えたりするので、人は三尸の虫が体内から脱け出さないように、眠らずに徹夜をする。三尸の虫は人間が眠らないと脱け出せないし、夜が明けると昇天できない。





ちなみに「見猿・言わ猿・聞か猿」の三猿は庚申信仰の象徴であるが、こうした信仰の裏に、寄生虫の世界もオーバーラップしていると想像するのは勝手であろう。






○エド・ヨン



イギリス出身のエド・ヨン(Ed Yong)は、ケンブリッジ大学とロンドン大学で生物学を学んだサイエンス・ライター。寄生虫の魅力に関して、エドは「予想外のことがたくさん起きる(Their world is one of plot twists and unexpected explanations)」と言う。

そして、こう続ける。「寄生虫というのは、僕らの世界の見方を変えてくれるスゴイ存在なんです。自然界の見方が一変します。もしかしたら、生物のあんな行動こんな行動が『じつなその生物の意志によるものではないかもしれない(the behaviors are not the results of individuals acting through their own accord)』ってね」



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彼が世に知られるきっかけとなったのは、卒業後にはじめたブログ「Not Exactly Rocket Science(先端科学のこぼれ話)」。鏡で身だしなみをチェックする象や、アリに幼虫の世話をさせる蝶など、生物に関する驚きのエピソードを軽快なユーモアとともに綴ったものだった。その人気が瞬く間に急上昇。いまや世界のメディアに引っ張りダコの人気ライターとなった。







エドは言う。「僕は20年ほど前、テレビ『Trials of Life(生き物たちの挑戦)』で寄生虫を知り、後に『Parasite Rex(パラサイト・レックス)』を読んだりした。で、僕も寄生生物について執筆してきた。まるで洗脳されたみたいにね(笑)」




















(了)






出典:
NHKスーパープレゼンテーション「寄生虫の世界へようこそ」
TED「自殺するコオロギ、ゾンビ化するゴキブリ、その他の寄生生物にまつわる話」エド・ヨン



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posted by 四代目 at 08:39| Comment(0) | 昆虫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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