2014年10月22日

太古より「星の航海術」を受け継ぐ民 [ミクロネシア]



はじまりは「一枚の写真」だった。

40年前の1975年、エンジンのない一艘のカヌーが、ミクロネシアから沖縄までの約3,000kmもの大航海を成し遂げた。コンパスも使わない古代の航海術で。



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その技を脈々と受け継いできた「伝説の船乗り」たち。

地球では唯一、彼らだけが知る太古の航海術。

その子孫は、いまも太平洋上に暮らしているという。



しかし…

いったい、どこに?






■旅人、アリッサ



向ったのは、南太平洋のカロリン諸島。

かつて日本の統治下にあり、旧日本軍の基地があったところだ。

この美しきサンゴの海のどこかに、伝説の船乗りたちがいるという。



探しに出た旅人は、モデルでプロサーファー、ハワイ育ちの日米ハーフ。

アリッサ・ウーテン(23)



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彼女は、ハワイの祖先たちが3,000年前、どうやってハワイの島にたどり着いたのかに興味をもっていた。

「ハワイの島がそこにあるって分かっていない状態で行ったわけだから、本当に神様からもらったラック(幸運)だよ。もしかして迷子になって、ずっと何もなくなったら、死んじゃうわけだよね」

彼らに会えば、太古の民がどうやって太平洋を渡ったのか、その答えがわかるかもしれない。



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飛行機が着いたのはトラック島。

ここから先、飛行機では近づけない。

漁船に乗り換えて、島を探す。






■ポンナップ島



港を出てから、丸一日がたった。

すでに300km近くを航行していた。



アリッサはといえば、ひどい船酔いに苦しんでいた。

「はやく船から降りたい…」



ようやく見えてきた島影。

「あそこ? すごいフラット(平ら)。山とか何もない。本当に何もない」



その島は、ポンナップ島という名らしい。

絶海の孤島。歩いて一周40分もかからない小さな島。

電気もない、水道もない、携帯電話も通じない。300人ほどが暮すという。



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「ウェルカム・ダンス?」

島の浜辺では、大勢の島民たちが踊っている。

「子供たち、めっちゃカワイイ」

よそ者が近づくことは滅多にないが、遠方からの訪問者は、島にないものをもたらす貴重な存在と考えられている。



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小型ボートで近づいたアリッサは、通訳の指示で、子供たちにリンゴを投げた。

アリッサ日記より「リンゴを投げるなんてマジ? それって失礼じゃない? でも、みんなすごい楽しそう。きっと、こういう風習なんだわ」






■ポ



あの写真で見たカヌーがあった。

島の宝だという。

島の木でつくられたこの船は、魚釣りや、他の島との交易につかわれているそうだ。



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このカヌーを扱うことが許されているのは「ポ(Pwo)」と呼ばれる男たちのみ。島に伝わる航海術をマスターした者だけが「ポ(偉大な航海士)」として認められる。島には13人の「ポ」がいた。



その頂点に立つのが「シネス・モリプト(65)」。

シネスは言う。「ポは、自らの意思でどこにでも行ける。ポは、島にいろんな幸をもたらす。外洋の魚、ウミガメ、タバコのように、島にないものを運んでくる」



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シネスは早速、3,000年受け継がれてきた航海術を見せてくれるという。

「風向きはいい具合だ。波も荒れないだろう。沖に出るにはいい」






■自然の声



アリッサが船に乗ろうとすると、シネスはからかう。

「船酔いするらしいじゃないか(笑)」

アリッサ「大丈夫よ!」



動力源は風。

アリッサ「わぁ、こんな大きなもの(帆)が出てくるなんて思わなかった」

このカヌーは「ワーセレス」と呼ばれている。「風の舟」という意味だ。



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アリッサ「わぁ、走ってる走ってる。すごい速いよ」

最高時速はおよそ20km。エンジンや羅針盤などはない。機械には一切たよらない。ポは、このカヌーで数百kmの航海を平気でするという。



間もなく、水平線以外は何も見えなくなった。

アリッサ「どこに行ってるのか、なんでわかるのかな?」

シネスは言う。「方角は波を見て判断する。東の波、北東の波、南東の波、そして南から来る波。4種類の波があるんだ。たとえばこの波、この波は東から来ている」

この海域では、貿易風によっておきる「東からの波」が一番大きい。そして横に長いという。



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シネスは続ける。「鳥でも、島の方向がわかる」

鳥?

「鳥は島をねぐらにして、海に食べ物をさがしにいく。朝、島から海へ向かい、夕方は海から島に帰っていく」



360°が水平線でも、「自然の声」に耳をかたむければ大海原に道が見えてくる、とシネスは言う。

地図がなくとも、機械がなくとも、彼らは3,000年の大昔から、自然の力を借りて大海原を駆けてきたのである。






■一斉漁



カンカンカン、カンカンカンカン

早朝から、けたたましい鐘の音が島に鳴りひびく。

ひと月に一度、島の男全員で行う「一斉漁」の日だという。



50人の精悍な男たちが集まった。

仕切るのは「ポ」の「ジェシー・カイウス(44)」。

シネスの後継者として期待されている男である。



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ポは、海底のサンゴ礁の特徴をすべて把握している。

「この辺りだ」

ジェシーは、魚が集まりやすい場所を見極めると、網を張るように指示をだした。



海の男たちは、魚のように潜って、巧みに網を広げていく。ヤシの葉で網の入口を広げると、だんだん狭くなるように網を張っていく。

ここからが「ポ」の腕の見せどころ。魚を追い込むタイミングは一瞬。群れが網の正面にくる、その時だけだ。陣形をととのえた50人の男たちは、息をのんでジェシーの合図を待つ。



「よし! 追い込め!」

全員が一斉に海に潜ると、一気に魚の群れを網へと追い込んでいく。

「はいった! はいった! 大漁だ!」



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この日の成果は、900匹。

300人の島には充分すぎるほどの大漁だった。



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■シェア



島に戻ると、子供たちが駆寄ってきた。

みんな待ちきれないのだ。



「家族は何人だ?」

「5人です」

家族の人数に応じて、全員平等に魚が配られていく。



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「Thank you so much! ジェシーさん。すごい重い」

部外者であるアリッサの元にも、魚が届けられた。

アリッサ「この島の人たちのSharing(分け合う)気持ち。それが、すごく優しいと思う。もし私だったら『なんで、この人たちにお魚あげなきゃいけないの?』って思う。私たちはスペース(場所)をとってるだけで、漁を手伝ったわけじゃないから」



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■小さな船乗りたち



漁が休みの日、

ジェシーの家では、子供たちが出航の準備をしていた。



ジェシー「あれは息子が昨日つくったんだ。小さなカヌー用だよ」

6人兄弟の四男、シーサール(14)。

自分のつくった帆を、父がつくったカヌーに取り付ける。



いざ海へ。

ジェシー「プッチェも行け!」

五男・プッチェ(11)。

憧れの「ポ」にならんと、小さな弟も負けじと続く。



おっと、シーサールの舟の舳先が浮いた。

父ジェシー「後ろに座るな! 真ん中に座るんだ!」



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今度は、帆が外れるアクシデント。

シーサールは、弟に指示をだす。「プッチェ! 帆を直すための布を探してこい! あの家にあるはずだ」

父の作業を思い出しながら、シーサールは見よう見まねで帆を結び直していく。



父ジェシーは言う。

「オレも小さい頃、あんな感じだったよ。アウトリガーが軽いから、上がっちゃうんだ。練習してると、大きなカヌーでもできるようになる。子どもが学んでいく姿を見るのは、言葉にできないくらい嬉しいよ」



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ジェシーはかつて、このポンナップ島を離れたことがあった。

機械のモーターボートに興味をもち、パラオの大学で機械工学を学んだ。学費が免除されるほど成績は優秀だった。そして卒業後、グアムの船舶会社に勤めた。だが、たった一年で島に戻った。

ジェシーは言う。「自動で動く大型船には、船にのる楽しさが欠けてる気がしたんだ。エンジン付きの船は便利だが、ガソリンが尽きればただのガラクタだ。いざというとき信頼できるのはワーセレス(風の舟)だ。風が吹くと、カヌーに乗りたくなる」



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ここポンナップ島には高校がない。

だから、14歳で中学を卒業した子供たちは、一度は島を離れることになる。

ジェシーの長男も現在、隣りの島(オノウン島)に出ていた。






■SOS



5月末、臨時の全島集会が開かれた。

隣りのオノウン島から深刻な連絡が入ったのだという。



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村長は言う。「オノウン島の子供たちが、食べ物がなくて困っている」

台風が直撃して、食べ物が不足しているとのこと。

「食糧を持っていってあげようと思う。みんな協力して食べ物を用意してくれ」



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隣島のSOSに、急遽、航海メンバーが編成された。

「キャプテンはジェシーだ」



出航まで3日。島をあげての準備がはじまった。

子供たちはヤシの実を集め、男たちは漁でとれた魚を干物にし、女たちは島唯一の作物であるタロイモで餅をつくった。

キャプテンに任命されたジェシーは、口数が少なくなった。悪天候が予想され、航海の安全がおびやかされていた。



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ジェシーの妻アントニアは言う。「嵐が来るかもしれません。夫のことは信じていますが、みんなを連れて行くので心配な面もあります」

息子シーサールは言う。「父さんは強いよ。父さんなら絶対、無事に帰ってくる。大切な航海のキャプテンに選ばれて、すごくうれしい」



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■秘伝



出航の前日、ポの長老たるシネスは、13人のポ全員を集めた。夜を徹しての航海となる今回、古代航海術の真髄、秘伝の技を確認するためだった。

筵(むしろ)の上に円形に並べられた32個の石。それらは各々の星座に対応していた。星はいつも同じところから昇る。だから、目的地の方角から昇る星座を覚えておけば、暗闇でも迷うことがないという。



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「マイラップ、パイル、エリエル、ハルプル、トゥム、マハル、ダヌ、ナツメヤ」

ポの男たちは、それぞれの星座の名前を、皆んなで繰り返し唱える。

長老シネスは言う。「星を理解すれば、どこへでも自由に行くことができる。オノウン島に行くには、真北より一つ東を目指す。ポンナップに帰るには、マッチョムルトという星座を目指す」



出航の朝は雨だった。

アリッサは心配そうに空を見上げる。「これで行くのは怖いよ」

雨雲が空をおおっている。しかし今日を逃せば、天候はより悪化する恐れもある。



午前11時、キャプテン・ジェシーは決めた。

「雲が高い。こういう風なら大丈夫だ」

目指すはオノウン島。北方160kmの彼方である。



「帆を上げるぞ!」

コイノニア号は帆に大きく風をはらむと、ポンナップ島を後にした。



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■暴風



ジェシーが乗組員に選んだのは、屈強の6人。

舳先(へさき)には身軽な若者2人を、中央のマストには怪力ボブを配置した。

今回は、新人のサンタリーノも乗っていた。オノウン島出身の彼は、ポンナップ島に婿入りして以来、一度も故郷に帰っていなかった。「オノウン島には母がいるんだ。もう12〜13年も会っていない」



ジェシーは言う。

「風がよければ一晩で着くよ。悪かったら2日だ」

アリッサは不安を隠せない。「ものすごい雨。暗くて怖い雨…」



海原には、暴風が吹き荒れている。

波は、ひとつ一つが山のように高い。



キャプテン・ジェシーは全身で風波を読む。

嵐を避けながら、最も早くたどり着ける進路を見極める。



ジェシーは方向転換の指示を出した。180°向きを変えるために、帆を付け替えなければならない。事故が起きるのは、この時が最も多い。

「あっ!」

舳先の若者が手を滑らせ、帆が舞い上げられた。暴風に帆をもって行かれてしまえば、たちまち漂流の危機に陥ってしまう。



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「つかまえろ! つかまえろ!」

と、その時、力自慢のボブが怪力で帆を押さえ込んだ。

「あぶなかった…」

なんとか事なきを得て、方向転換は完了した。



「安心したら、腹が減ってきた」

ヤシの葉でつくったルアーで魚を釣ると、晩ご飯の準備がはじまった。火はヤシの実の皮をつかって熾(おこ)す。

アリッサはびっくり。「すごいね。船の上でクッキングしてるって。げほ。煙がすごいけど。いただきまーす。すごい美味しい」



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■星と風



夜の闇がせまっても、波がおさまらない。

午後6時30分、日が落ちた。

オノウン島があるはずの北の空は、雲が厚い。頼りの星がまったく見えない。



「あの星が見えるか?」

ジェシーが指差したのは、わずかな雲の切れ間。

「ハルプルという星座だ。まっすぐオノウン島に向っている」

辛うじて見えた星座から、ジェシーは進路を割り出した。



しかし状況は悪化の一途。

ますます厚い雲が、すべての星座を閉ざしてしまっている。

ジェシーは言う。「いまは身体に当たる風の角度を頼りに、オノウン島を目指している」

この進路が正しければ、明け方には島影が見えてくるはずだった。



じっと風を感じたまま、ジェシーは一睡もせずに朝を迎えた。



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ようやく日が昇る。

そして午前9時、待望のオノウン島が見えてきた。ジェシーの目論見通り、島は真っ正面にあらわれた。



「やっと見えた。うれしいよ」

ジェシーはようやく一息ついた。

「ポになる前は、何も考えていなかった。言われたことをやるだけだった。でも、ポになってからは、ポンナップ全体のことを考えはじめた。ポンナップの人が幸せになるよう、いつも考えてるよ」



嵐の夜、160km、22時間におよぶ航海。

波と星と風を味方に、走りきった。



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■オノウン島



オノウン島では、みんながコイノニア号の到着を待ちわびていた。

「干物が来たぞ!」



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「これはタロイモだ!」

タロイモ餅を真っ先に手にしたのは、ジェシーの長男「ジェイク」だった。母がつくってくれたものだと、すぐに気がついた。

「ほんとに旨いよ。母さんが作ってくれて嬉しい」

タロイモ餅は、ジェイクの大好物だった。オノウン島の高校に来て以来、久しぶりの母の味だった。



父ジェシーとの再会も久しぶりだった。

だが男同士、どこかぎこちない。

父「ここを卒業したら、どうするつもりだ?」

長男「大学にいきたい」

父「どこの大学だ?」

長男「ヤップ島」

父「卒業したら、一度は島に寄れ。それから、どっか行け」

海に生きる男同士。交わした言葉は少なかった。



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新人乗組員、サンタリーノも母との面会を果たした。

母マリアーノ「本当に長い間、会っていなかったのよ!」

息子サンタリーノ「会いに来たかったけど、船便はないし、ひとりでカヌーで来ることもできないし。会った瞬間、年取ったなと思った。でも今日はとっても嬉しい」

母マリアーノ「私たちの住むところは、島と島がとても離れている。一度別れると、死ぬまで会えないこともあるんです」



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■絆



到着から一晩、たった1泊で、コイノニア号は帰路についた。

さらなる大嵐が予想されていたのだ。



アリッサは見送る人々の笑顔に、心あたたまる。

「本当のファミリーじゃなくても、みんなファミリーみたい。それがポの力、ポじゃなければ出来ないこと」



2つの島をつないだ船の名前、

コイノニアとは「絆(きずな)」という意味。

今回も、その役割を見事に果たした。



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この船があるのなら、ポの男たちは世界中のどこにでも自由に行ける。

「日本はいかがですか?」との問いに、ジェシーは笑って答える。

「Japan is too close.(日本は近すぎるよ)。Same pacific, we are neighbors.(同じ太平洋なんだから、僕らはお隣さんじゃないか!)」



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(了)






出典:NHK地球イチバン
中央カロリン諸島「地球最後の航海民族」



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posted by 四代目 at 19:48| Comment(0) | 自然 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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