アメリカ・ニューメキシコ州
「ロズウェル(Roswell)」
ここは世界で最も有名な「UFO事件」の現場である。
1947年7月8日
ロズウェル陸軍飛行場は「ロズウェル付近の牧場から、潰れた『空飛ぶ円盤(flying disc)』を回収した」と発表。
付された写真には、銀色に輝く不思議な物体が写っており、軍はそれらを「空飛ぶ円盤の破片」だとした。
だが、その数時間後、その発表は即座に訂正される。
「職員が回収したものは空飛ぶ円盤ではなく、『気象観測用気球』であった」と。
ここで一旦、事件は終わる。そして人々はこの事件をあっさり忘れてしまう。
ところが30年後、この話はふたたび蒸し返される。
「宇宙人の死体」とともに。
「当時、ここには『軍の病院』が建っていました。そして、あの赤い水道メーターのあたりに『手術室』がありました。そこで『宇宙人の遺体』が解剖されたというのです」と、ロズウェル事件の研究者、E.J.ウィルソンさんは言う。
彼の話によれば、軍はUFOに乗ってきた宇宙人の遺体を回収し、解剖したのだという。そして、その宇宙人の身体には毛がなく、頭と目が大きかったとも…。
◎ロズウェル・リポート
「軍は真相を隠しているに違いない!」
UFO熱が沸騰寸前にいたった市民運動は、アメリカ政府に「情報公開」を迫る。
そして、政府による再調査が決定した。それは事件から50年近くも経った1994年のことだった(アメリカ空軍ロズウェル事件調査)。
その再調査によると、「UFOの残骸」とされたものは、やはり気球の残骸。だが当初発表されていた「気象観測用」ではなく、ソ連の核実験と弾道ミサイルを検知するためのものだった。その気球に取り付けられていた「レーダー反射板」が、あたかもUFOの金属片と勘違いされたのだという。
当時のアメリカはソ連と「冷戦」の開始段階にあり、多数の軍事行動が秘密裏に行われていたが、その気球もまたモーグル計画と呼ばれる極秘計画の一つであった。
「(UFOの残骸と言われた)ゴムひも、凧棒、その上に貼られたシンボルが印刷されたテープ、アルミフォイル…、これらはモーグル計画のデバイスの正確な構成要素である!」
UFO墜落事件があったとされる1947年7月には、アラモゴードから上空に送られた気球隊列のいくつかが失われており、同時期、UFOの目撃情報は突出して多く、その報道も激増していたという。
では、「宇宙人の死体」は?
市民たちの話では、「8人の死体が2ヶ所の墜落現場から発見され、(UFOの残骸のあった)フォスター牧場からは1人が『生きたまま』回収されたというが…」
これには2つの事件が重なり合っていた。一つは、1956年に発生したKC97航空機の墜落事故の記憶。そしてもう一つは「ダミー人形」。それは「パラシュートの開発」のために使われた人形であった。
地上に落下したそのダミー人形の回収が、宇宙人の遺体の回収と錯覚されたのだろう、そう軍は結論づけた。
これらがアメリカ空軍により示されたロズウェル事件の真相、「ロズウェル・リポート」と題された報告である。
◎ヘスダーレンの怪光
こうしてロズウェル事件を彩っていた「尾ひれ羽ひれ」は、政府の手によってバッサリと切り捨てられた。
それでも、政府の報告を否定するUFO信奉者たちも依然として数多く、その夢はいまだに続いている。むしろ無下に否定されたことで、その熱が逆に沸騰した人々もいるくらいだ。
誰しも心のどこかでは、「UFOにいて欲しい」と願っているのかもしれない。
だが、空に輝く「不思議な光」のすべてがUFOというわけでもない。
たとえば、ノルウェーの山岳地帯で古くから知られていた「ヘスダーレンの怪光」というのは長らくの謎であり、それは鬼火ともUFOとも村人たちの間でささやかれていた。
「大きさはだいたい20〜40cm。ふわふわと生き物のように水平に動く。音もたてずに…。ときには1時間も2時間もうろつき回る。グルグルと上空を回ることもある」
ヘスダーレン渓谷に現れるというこの「怪しい光」は、1980年代より頻繁に目撃されるようになり、数千人の目撃者が存在するという。写真も大量に撮影されており、大きなニュースとして取り上げられることもあった。
「雪に触れても、雪を溶かさず、重さがないかのように複雑で素早い動き」
未知のエネルギーではないのか、と世界中の注目を集めている。
その「ヘスダーレンの怪光」を、科学者らは「プラズマ現象」ではないかと説明する。
たとえば、金属の筒の中で電磁波を発生させ、それを空気にあててみると「不思議な光」が発光する。それは「プラズマ発光」と呼ばれる現象で、電磁波が筒の中で反射して強まることで、空気中の分子が「イオンと電子」に分解されプラズマという状態になる。その時に光が放出される。
極北のオーロラ、入道雲に光る稲妻などが、自然現象としてのプラズマ発光であるという。
ヘスダーレンという山岳地帯は、むかし鉱山だった場所であり、その地下には「石英」という鉱物が眠っている。そして、その石英に圧力がかかることで「電磁波」が発生する。
また、ヘスダーレンという渓谷は「霧」で覆われやすく、その内部に電磁波を閉じ込め反射させやすくする(まるで金属の筒の中のように)。すると空気中の分子は「プラズマ化」し、「光」を放出しやすくなる。
そのプラズマ発光が、「ヘスダーレンの怪光」の正体ではないか、と科学者らは言う。しかし、これまたロズウェル事件と同様、それを信じない人々も数多い。
◎科学とUFO
「科学者」と「UFO信奉者」
彼らは水と油のように、お互い相容れない領域に暮らしている。科学者が「既知」の世界に住むとすれば、UFO信奉者たちは「未知」の世界に居を構えている。
現代社会の風潮としては「科学者」のほうに分があるようだが、それでも人智で解明できない現象はこの地球上に数多い。科学的な調査によれば、UFO信奉者にも「2割」ほどの分があることになる。
たとえば、フランスにはUFOを専門に調査する政府機関が存在する。
それはCNES(フランス国立宇宙研究センター)の一組織である「ジェイパン(GEIPAN、未確認飛行物体研究所)」。
1954年に設立されて以来、この組織はOVNI(オヴニ、フランス語でUFO)を科学的に追いかけ続けている。
このジェイパン(GEIPAN)に寄せられたUFO情報は、なんと1,600件を超える。それを調査員たちは、現場に赴いて一つ一つ科学的に調べて回っているという。
フランス全土からもたらされるUFO情報には、確実に解明できるものもある(約10%)。
たとえば、結婚式のときに「灯籠のような小さな気球」を夜空に飛ばすことがフランスで流行っているというが、結婚式の多い土曜の夜には、それをUFOと見間違えた情報が数多く寄せられる。
だが、UFO情報のすべてが科学的に立証できるわけではない。
現在259件の事例が「正体不明」としか言いようがないと、ジェイパン(GEIPAN)によって結論付けられている。それは全体の「22%」を占める。
つまり、この22%の中には「本物のUFO」もいるかもしれない、ということだ。
同様の結果は、アメリカのUFO調査でも得られている。1950年代に目撃情報が相次いだことから、やはり政府が科学的な調査を行うようになっている。
航空機や気球、惑星や流れ星などの見間違いも多いが、ここでもやはり「正体不明」がおよそ2割(19.7%)を占めている。
◎宇宙人
「謎の2割」
それはUFOかもしれないし、科学が進めば解明されることかもしれない。
だが、現時点では完全に「グレーゾン」。科学者がUFOでも捕まえない限り、いつまでもグレーのまま。地球から空を見上げているばかりではラチがあかない。
ならば、その目を「宇宙」に向けてみよう。
そもそも、この広い宇宙に「宇宙人」はいるのだろうか?
「宇宙人はね、この宇宙にあふれてるんじゃないか、と思うわけです」
そう話すのは、日本の宇宙物理学の大御所「佐藤勝彦」さん(自然科学研究機構)。
物理学の世界では、ノーベル物理学賞をとった「エンリコ・フェルミ」が「宇宙人ははたして、地球に来ているのだろうか」と大真面目に問いを投げかけて以来、60年以上さかんに議論されてきたという。
近年、太陽系の外には「ものすごい数の惑星」が見つかってきている。
少なくとも3,000個は存在し、そのうちの50個くらいには「水」があるのではないかと考えられている(宇宙における水の存在は、知的生命体の可能性を飛躍的に高めるものである)。
たとえば、「グリーゼ581」という星がある。それは天秤座の近くにある。そしてその周りを回る惑星に「第2の地球があるのではないか」と考えられている。
生命体が存在する条件として、「水が液体のまま存在できるかどうか」というものがある。まさに地球がそうであるが、少しでも太陽に近いとその水はすべて蒸発してしまう。また、太陽から遠すぎると水は凍りついてしまう。
「液体の水」が存在するゾーンを「ハビタブル・ゾーン(生命が居住可能な領域)」というが、そのストライク・ゾーンは極めて狭い。地球の一つ内側の軌道を周る金星はアウトだし、一つ外側の火星でもアウト。
「グリーゼ581」という恒星(太陽に相当)の周りには、金星や地球のように、いくつかの惑星が周っているわけだが、そのうちの「グリーゼ581g」か「グリーゼ581d」が、ハビタブル・ゾーンに入っていると考えられている。恒星からの距離から考えて、水を液体のまま保持できるのではないか、と。
もちろん、「水」のみが生命の絶対条件ではないかもしれない。ただ我々の絶対条件であるだけで。
たとえば木星の近くにある「タイタン」という星には、生命の存在の可能性がたかい。だがそこに水はない。あるのは「メタンの海」。水がなくともメタンに住める「単細胞生物」は確認されている。
だが、それはあくまでも単細胞生物。そこから知的生命体と呼ばれるような複雑な形態をとっていくためには「多様性を許す環境」が必要と考えられる。この点、「水という環境」は生命進化の多様性を促すのに好ましいものである。
◎宇宙旅行と相対性理論
「グリーゼ581g(もしくはd)」にいるかもしれない知的生命体、すなわち宇宙人。
もしいるのなら、電波でも発しているかもしれない。そう考えて、その方向に向けて科学者らは「聞き耳」を立てたこともある。アンテナをグリーゼ581へ向けたのだ(残念ながら期待した信号は拾えなかったらしい)。
では、もし彼らが宇宙船に乗って地球に行こうと思い立ったとしたら、その宇宙の旅はどれくらいの時間がかかるのだろう?
地球からの距離は、およそ20光年。つまり光の速さで20年かかることになる。帰りの旅程まで考えたら、往復で40年。
だが幸いなことに、アインシュタインの相対性理論によれば、光速のUFOに搭乗している人たちの時間間隔は20年よりもずっと短い。
たとえば、光の99.98%の速さで飛ぶUFOだとしたら、乗っている人の時間は「5ヶ月くらい」しかかからない。往復で一年足らず。相対性理論によれば、光速近くで動けば時間はグッと遅く進むようになるのである。
だが、グリーゼ581の母星で待っている人たちの時間は遅くならない。UFOが20光年の旅を往復している間、ちゃんと40年が経過する。
すなわち、UFOの乗組員が地球旅行から故郷に帰った時、周りのみんなはオジイちゃん・オバアちゃんになっている。まるで浦島太郎のなるわけだ。相対性理論には、そんな「時の玉手箱」が隠されているのである。
◎放射線
だが、UFOによる宇宙旅行にはもっと大きな問題がある。それは「放射線」である。
「光の速さで宇宙を飛ぶっていうことは、ほんとはものすごく危険なことなんです」と物理学者の佐藤勝彦さんは言う。
「なぜかというと、宇宙空間にはいろんなガスがあります。たとえば水素ガス。それに向かってほとんど光の速さでぶつかると、水素原子とかそういうものが『放射線』になってしまうんです」
もし、グリーゼの宇宙人がわれわれ人類と同等のDNAを持っているとしたら、それは宇宙旅行で食らう放射線によって、たちどころに破壊されてしまう。すなわち、光速で飛ぶUFOの中でコロッと死んでしまう。
たとえ光速で飛ばなくとも、宇宙には放射線があふれている。
NASAの無人火星探査機「マーズ・サイエンス・ラボラトリー」が火星までの旅で累積される放射線を実際に測定したところ、その道中のだけで「人間の生涯被曝の上限」に達する可能性が示唆されている。
ちなみにNASAの試算によると、火星への往路飛行にかかる日数は180日前後である。
いずれにせよ、宇宙の旅はなんとかして「放射線」の問題をクリアーしなければ成し遂げられない。
グリーゼ581から来る知的生命体は、どうやってその問題を克服するのであろうか。もしかしたら、全部機械のロボットを送ってくるのか?
それじゃ、まるでターミネーターだ。
◎ワームホール
「ワームホールというものを使えば、すぐに行けるんじゃないかという話もあります」と、物理学者の佐藤勝彦さんは言う。
それはいわばドラえもんの「どこでもドア」のようなもので、その空間を通り抜ければ、時空を超えることができるという便利なものである。
ワームホールの宇宙構造は、ブラックホールとブラックホールをくっつけてトンネルのようにしたものであり、それは相対性理論の論理では可能なことである。
だが、それは理論の中だけの話であり、人類はまだ実際には宇宙に見つけていない。それでも、ブラックホールのいくつかは発見している。
しかし、ワームホールとブラックホールは表面的には同じように見えるため、はたしてそのブラックホールが向こう側へ抜けられるかどうかは判別ができない。
すなわち「入ってみないと分からない」
だが、そのブラックホールにもし出口がなかったら…。
じゃあ、やっぱりロボットに行ってもらうか?
◎未知の道
UFOおよび宇宙人への空想は、すぐにファンタジーかSFの世界へと飛んでいってしまう。
たとえ相対性理論や宇宙物理学が「論理の階段」を積み上げていっても、それがどこにつながっているのかは分からない。
だが、UFOという未知の存在が仮定されるだけでも、そこには道ができ、宇宙への意欲を掻き立ててくれる。
「UFOを完全に否定することは、ほんとはできないことですよね」と物理学者の佐藤勝彦さんは言う。
「可能性が残っているUFOをこれだけ考えることによって、宇宙における生命のことも考えるわけですし、光速とかも考えるわけです。UFOはそういうことにつながる良いテーマじゃないかと思いますね」
UFOの示す道しるべが、いったいどこにつながっているかは誰も分からない。
だからこそ、誰もがそこに惹きつけられていくのかもしれない。
「いま、パッと動いたぞ!」
「来て! 来て! 見てよ!」
「見ろ! 光の輪だ!」
今も地球上のどこかで、UFOに興奮している人がいるのだろう。
(了)
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出典:NHKサイエンスZERO
「UFO! 科学的に”あり”? ”ナシ”?」