2013年05月28日

アメリカを襲った「ムーア竜巻」。強度、最大級



年間、1,000を超える「竜巻」が発生するというアメリカ

「竜巻発生数は、陸地面積あたり世界で最も多い(AFP通信)」

その大半は5〜6月の午後4〜9時の間に発生するというデータがある。



アメリカ・オクラホマ州を襲った、今回の竜巻

「ムーア竜巻」

その発生地域・時間ともに、過去の経験則通りだった。いや、むしろ今年は竜巻の到来が遅いくらいだったという(気温が例年よりも低かったため)。



2013年5月20日 午後14時45分

「まるでゾウの鼻が伸びてくるようだった」

異様に発達した上空の積乱雲から降りてきた、一筋の竜巻。その後に奮った猛威に比べれば、じつに慎ましやかに降臨したといえる。



だが、その竜巻が相当に発達するであろうことは、レーダー画像を見ていた気象予報官リック・スミス氏の目には明らかだった。

ただちに出した緊急竜巻警報。

「Go to shelter NOW! (シェルターに逃げろ! 今すぐだ!)」



その警報は竜巻発生の5分前(14時40分)。

5万人都市「ムーア(オクラホマ州)」を直撃する36分前。

「これは、予測の平均が『14分前』ということを考えると異例の早い予測であった(Wikipedia)」



「私がこれまで見てきた中では、最大級の竜巻でした。それが今にも、人口密集地に直撃しようとしていたのです」

気象予報官スミス氏の背筋には、異常発達した積乱雲に戦慄が走っていた。

そして、14年前(1999)の同じ月、やはり同じようにオクラホマ州を襲った巨大竜巻の悪夢が、まざまざと思い起こされていた(まったく不幸にも、今回も前回とほぼ同じ経路を竜巻はたどることになる)。






◎襲来



ムーアの街に鳴り響くサイレンの音。

託児所で子どもたちを預っていたブリトニー・ロジャースさんは、即座に15人の子どもたちをトイレに避難させた。

怖がる子どもたち、「これはいつもの訓練なの?」と聞いてくる。



竜巻常襲地帯であるこの一帯では、定期的に訓練を行うのが常であり、そして逃げ場所を確保しておくのもそうであった。

「頑丈なコンクリートで覆われた、窓のない避難部屋」

その中でロジャースさんは、震える子どもたちを落ち着かせようと「訓練よ、大丈夫よ」と言い聞かせていた。



「あれっ、今回のはあまり動かないぞ…」

オクラホマ大学の屋上で竜巻を観察していた佐々木嘉和さんは、不思議に思った。普通の竜巻よりも動きがずっと遅い。半分くらいのスピードしかない(およそ時速30km)。

どうやら、天空から鼻を伸ばした巨像は、よほどに巨大であるようだった。



発生から30分後

ロジャースさんら子どもたちが身を隠していた託児所に、その巨大竜巻は到来した。

「みんな、しゃがんで! 枕で頭を守って!」

予想だにしなかったほど強烈な衝撃が、コンクリートの小部屋をブルブルと震わす。

割れた天井から、雨が降り込んでくる。

子どもらは泣き叫ぶ。



「あっ! 危ない!!」

一人の女の子が、暴風にひっぺがされて窓の外に吸い出されそうになった。

職員たちは、その女の子の足に必死で取り付く。

何とか引き戻した。






◎惨状



竜巻一過

終わってみると、託児所の建物は全壊。その屋根はいったいどこへ行ったのか。

「列車が通るような轟音に言葉を失いましたが、みんなが助かって本当に良かったと思います」

ロジャースさんは、ようやく一息つけた。避難していたトイレは、建物の中央部にあり壁が頑丈だったおかげで、全員が無事だった。



発生から消滅まで、およそ50分間にわたって猛威を奮った巨大竜巻(15時35分・消滅)。

最大風速94m。竜巻の強度を示すEFスケール(改良藤田スケール)は、その上限の「EF5(強固な建造物も基礎から吹っ飛ばされ、自動車はミサイルのように上空に飛んでいく)」。

その最大級の竜巻が「市街地(ムーア)」を直撃したのは、まったくの不幸だった。



竜巻の通った跡は明瞭で、それはナメクジが這った跡のようにハッキリと市街地に残されていた。

「月面のような世界だった…」

地上部にあった何もかも、家も車もが紙細工のように軽くどこかへ吹き散らされてしまい、瓦礫ばかりが無秩序に積み重ねられていた。



巨大竜巻に市街地を横断されたのも不運なら、その経路に2つも小学校があったことも災いを一層大きなものとした(ブライアウッド小学校とプラザタワーズ小学校)。

「身体が宙に浮いたんだ! 天井が僕の上に落ちてきた! 本当に死ぬかと思った」

当時は生徒と教職員が合計75人いたという。そして不幸にも9人の死者が小学校から発見されている(竜巻被害の全体の死者数は24人)。



プラザ・タワーズ小学校では、低学年は事前に協会に避難していた無事だったものの、高学年は直前まで授業をしていた。

助かった子どもは「トイレに隠れるように言われたけど、言うことを聞かない子もいた。そこへブロックが落ちてきたんだ…」と青ざめて話す。

竜巻が直撃したそれぞれの小学校には、適切な避難施設が用意されておらず、取り残された生徒・教師らはトイレなどに身を伏せるしかなかったという。

窓が多い部分の変形は著しく、やはり窓の少ない部分は原型を留める傾向にあった。外部から吹き込み、そして吸い出す風はそれほどに強力であった。






◎竜巻街道



竜巻という自然現象は、極寒地域を除くほとんどの陸地で発生するという。

それでもなぜ、アメリカで多発するのか?

より具体的には、アメリカ国内でも「トルネード・アリー(竜巻・街道)」と呼ばれる一帯がとくに狙い撃ちされる地域である。それはメキシコ側(南側)の下から順に、テキサス州・オクラホマ州・カンザス州の3州を中心としたアメリカのほぼ中央部である。



その陸と海の地形上、南東方向から「メキシコ湾の暖かく湿った風」、北西方向からは「ロッキー山脈の乾燥した風」が、この3州の真上で激突する。

この2つの風は、真逆の性質(寒暖・乾湿)を持つものであるから、その融合には両者ともに恐ろしいほど猛烈に抵抗する。それが「世界で最も強力な竜巻」を発生させることにつながるのだという。



「暖かく軽い空気」が「冷たく重い空気」の上に乗り上げると、その境目には急激な上昇気流が生み出される。いわゆる「積乱雲(入道雲)」の発生である。

その発生する風は、下層と中層では動きが異なってくるために「ねじれ」が生じる。風がねじれると、積乱雲がねじれる。そして回転が生まれる。

「われわれ、この回転を伴う雲のことを『スーパーセル(特別な積乱雲)』と言っているわけですけど、こうした巨大なスーパーセルから、今回の竜巻は生まれたのだと思います(防衛大学校教授・小林文明氏)」










◎多重渦



さらに、今回のムーア竜巻には「多重渦(たじゅう・うず)」という特徴も指摘されている。

一つの大きな「親・竜巻」の中には、数本の「子・竜巻」が含まれていたというのである。つまり、子・竜巻が数本束ねられて、一本の巨大竜巻を形成していたというのだ。

竜巻の上昇気流が異常に強いとき、竜巻内部を下降する気流もまた強烈になる。その流れが竜巻内部で新たな竜巻を生み出すねじれを生み出し、そして回転に力を与えるのだという。



内部の小さな渦は、外側の大きな渦と回転を共にすることで、その回転速度を相乗的に増大させていく。

「大きな渦(主渦)が回転している中で、小さい渦も回転するので、竜巻の中で両方の速度が合わさってしまうのです。過去の実験結果でいうと、『最大で2倍近い風速』になる可能性があります(高知大学・佐々木浩司教授)」

大型の竜巻でもその渦が「単一」であれば、被害は局所的になるという。だが、渦が「多重」となると、小さな渦が何度も何度も波状攻撃を仕掛けてくる。その結果、その被害範囲は増大してしまう。



今回のムーア竜巻の幅は、最大2kmにも及んでいる。

たとえば昨年日本(茨城県つくば市)を襲った竜巻は、国内最大級と言われているが、その幅は500mほど。

つくば市を襲った竜巻の中にも「複数の渦」が確認されているが、ムーア竜巻の多重渦のスケールはその4倍以上ということになる。






◎予報と避難



アメリカは年間1,000件超、竜巻シーズンは5〜6月。

一方、日本は年間20件ほど、そのシーズンは9〜11月。日本では海岸線で発生するケースが多く知られている(約6割)。

だが、季節を問わず起こっている事例もあることから、日本でも「一年中どこでも起こりうる」。近年、その発生頻度は増加傾向にあるという(2倍前後)。



現在の予報技術は、ドップラー・レーダーを用いることにより、上空の積乱雲の中の「親の渦」は分かるようになってきているという。だが、そこからどうやって「子どもである竜巻」が地上にタッチダウンするかは、よく分かっていない。

それでも、ムーア竜巻のように、事前に予報できる確率は高くなっている。







しかし今回のムーア竜巻、残念ながら14年前の悪夢の教訓が活かされているとは、言い難い部分もあった。

「今回の竜巻は、41人の死者を出した1999年とほぼ同じ経路をたどったが、竜巻対策シェルターを備えた住宅や学校は極めて少なかった。オクラホマでは土質が硬いため、竜巻発生時に避難できる地下室を備えている家は少ない(AFP通信)」



窓の多い部屋と、少ない部屋があったら、窓の少ない部屋が逃げ場所になる。

「いざという時には、たとえば廊下の、階段の、あるいは風の通さない所に逃げることが必要になります。開口部の多い場所では、ガラスなども飛散します(防衛大学校教授・小林文明氏)」

「住宅でいえば、やはり1階ですよね。屋根が吹き飛ばされても、まだ下がある。今回のムーア竜巻でも、1階のバスタブにうずくまっていて助かったという人が何人もいます(同氏)」






◎やり直すだけ



オクラホマ州の被災地を訪れたオバマ大統領

多くの子どもたちが命を落とした、小学校校舎の残躯の前に立った。巨大竜巻の引っ掻き回した傷跡は、各所に生々しく痛々しい。



「警報を発した予報官。最初に瓦礫を掘り起こした救助隊員。自らの身体を盾に、子どもたちを守った教師たち」

オバマ大統領は、最初にそうした人々を称えた。

「ここには強靭な意志がある。必ずや立ち直るだろう。だが助けは必要だ。われわれはあなた方を支援する。その約束は必ず果たす」

大統領は力強く、被災した住民たちにそう宣言した。



自宅を失った住民も多い。

「帰宅して気づいたのは、家が何も残っていなかった、ということだった…」

それでも、その光景を見た人は、生き延びたことができた人だ。



ムーアの市長は、新規の住宅建設に「避難施設設置の義務化」を検討しているという(条例)。

適切な避難施設を持たなかった小学校への批判の声も高く、そのためオクラホマ州政府は地下シェルターなど避難施設設置のため、基金の設置を決定した。



「また、元通りにするさ。やり直すだけだ」

スティーブ・ウィルカーソンさんも自宅を失った一人だが、ただ家族が無事だったことにだけ感謝しているという。

「強い気持ちで前進しないと。でも本当は、泣き崩れそうだけどね…」













(了)






関連記事:

日本にも竜巻は発生する。竜巻の発生メカニズム。

巨大竜巻から住民を守った「英雄」クリストファー・ルーカス。

「炎の津波」が迫るその時。大地震と地震火災



出典:NHKクローズアップ現代
「緊急報告 アメリカ巨大竜巻 多重渦の脅威」



posted by 四代目 at 07:50| Comment(0) | 災害 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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