2013年04月27日

「魔法の箱」か「パンドラの箱」か? 3Dプリンターの見せる未来


「3Dプリンターが、あらゆるモノ作りに革命を起こす」

アメリカのオバマ大統領が、そう力を込める「3Dプリンター」とは?



スイッチポンで、どんな立体でも「印刷」してしまう3Dプリンター。ノズルが樹脂を吹き付けながら、立体を一層一層積み重ねていくことで、みるみる形が現れてくる。

「これまで大量生産っていうのが主流でしたけれども、これだったら『多品種・少量生産』することができるんです」



かつては1億円ほどした高値の花が、今では10万円ちょっとから手に入る。

チェスの駒を一個だけ無くしたら、その一つだけを印刷して作ればいい。掃除機のノズルの、もう少し細いモノが欲しかったら、印刷して作ればいい。iPhoneのオリジナル・ケースを名入れで作るのも造作ない。










◎魔法の箱



3Dプリンターが世に出たのは、今から25年ほど前のこと。企業などで新しい製品を開発する際、その最初の試作品を作る技術として開発されたのだそうだ(最初にアイディアを出した人の一人が、日本人技術者「小玉秀男」氏)。

「だんだん欲が出てきましてね、車のボディーなんかを作ってると、もしかして、このまま走れるんじゃないの? と考える人も出始めたんです。で、F1だとか、レースの世界で実際に3Dプリンターで作ったモノが使われるようになったんです」

そう話す新野俊樹(東京大学・生産技術研究所)さんは、学生時代に3Dプリンターの虜になったのだという。



今や、印刷して生み出せる立体はプラスチック素材のものだけとは限らない。

たとえば金属の一つ、チタンの粉末にレーザー光線を当てて1,200℃以上に加熱すると、黒く焼き固まる。その上にまたチタンの粉末を乗せてレーザー光線を当てる。この繰り返しで、金属製品の造形も可能となる(その精度はなんと0.1ミリ)。

また、摩訶不思議な金属も生み出せる。たとえば、水をドンドン吸い込んでいく金属。その金属の内部には目に見えない細かな穴が無数に空いている。これは、今までの技術ではとうてい作り出せなかったモノである。



さらには、パソコンやテレビも印刷して作り出せる可能性がある。

現在、世界で最も細かい印刷ができる3Dプリンターの精度は、なんと驚きの2,000分の1ミリ。そのプリンターを用いれば、細さ500分の1ミリという極小の「電極」を作ることができる。これは普通の電極よりも遥かに微小であるため、従来よりもずっと大量の電極を並べることが可能となる(電極が多いほど電気は流れ易くなり、その分コンピューターなどはぐっと高性能になる)。

液体にした金属をスプレーのように吹き付けながら、極小の部品を「印刷」して成形し、さらにパーツごとに層を分けて吹き付ければ(1層・配線、2層・電極、3層・半導体)、電子部品を丸ごと印刷で作ることも可能なのだという。



「従来、電子部品を作る工場っていうと、ものすごく巨大な工場が必要でした。とくに半導体なんかだと凄く大きなものになるんですが、この装置(3Dプリンター)を使えば、机の上でいろんなモノが作れるようになるんです」

そう話す村田和広さんは、3Dプリンターのベンチャー企業を立ち上げ、この魔法の箱の可能性に賭けている。






◎夢の形



数学や物理学など学問の世界の中では「理想的な形」というものが知られている。それは計算によって生み出される、いわば架空の形である。

今までのモノ作りであれば、その実現は不可能だった。というのも、従来のモノ作りは主に2つの方法、一つは大きな塊から不要な部分を削り去っていく加工法(切削)、もしくは、金属の型に樹脂などを流し込んで、型を転写する方法(成形)しかなかった。

これら2つの加工法にはそれぞれ問題点がある。切削という技術では、刃物が中に入っていかない部分を削ることはできない(たとえば、曲がりくねった細かい穴などは難しい)。型成形という技術では、型から抜き出せない形は作れない。



つまり現代のモノ作りというのは、「作りたいモノ」を形にしていたわけではなく、技術的に「作れるモノ」だけを形にしていたというわけだ。

そこに登場した3Dプリンター。これまでの「作れるモノ」の範疇を超え、計算上の「理想的な形」に人類を迫らせることとなった。



たとえば、製品の強度を研究する専門家である石井恵三さんが作った「台座」。素材は強化プラスチック、外見の構造は骨ホネのスカスカ、構造体の内部も空洞である。

そんな頼りない外見でも、30kgもの重さを乗せても平気である。この台座は、従来のものよりも90%も軽量化したにも関わらず、その丈夫さはまったく変わっていないという。



コンピューター上で強度計算のシュミレーションをすれば、「無駄のない形」が割り出せる。たとえば、一枚の板の両端に力を加えてひねってみると、力が大きくかかっている部分と、ほとんど力のかかっていない部分があることが分かる。

「力のかかっていない部分は、もう材料を配置する必要がない。つまり、削っちゃっていいですよ、というところです」と石井さんは説明する。

そうして不要な部分を取り去った結果、材料が90%も節約できてしまったのだという。ただ、この理想的な形を実現するためには、3Dプリンターの登場を待たなければならなかった。従来の切削・型成形の加工方法では、とうてい実現は不可能だったのだから。






◎神様の図面



ここに、3Dプリンターで作られた「人間の骨」がある。それは頭部の骨で、その内部には血管が通るための立体的な穴が空いている。

こうした構造もまた、従来の技術では実現不可能、3Dプリンターが初めて形にしてみせたものの一つである。



「動物の骨の形っていうのは、進化の中で何万年もかけて形作られてきた、いわば『神様の図面』なんですね」と新野さん(東京大学)はしみじみ語る。

そうした神様の図面を、我々人間は長い間、形にすることができなかった。

「神様は人間が作りやすいとか、作りにくいとか、そんなことは全然気にせず、一番良いモノを作るんです。それが実現できるのが3Dプリンターなんです」






◎頂と裾野



3Dプリンターが個人にまで普及し始めた現在、その技術は雪ダルマ式に向上していくことが期待されている。

いつの時代も、人間の想像力は、その技術力を上回ってきた。幸いにも、3Dプリンターという技術は、荒唐無稽な想像をも創造できる可能性を秘めている。



たとえば、イタリアでは3Dプリンターで「家」を作ってしまった。材料は砂や土。それを家より巨大な3Dプリンターで「印刷」してしまうのだ(エンリコ・ディーニさん)。

その発想は、地球を超えて、月面にまで及ぼうとしている。

欧州宇宙機関は、月面に3Dプリンターを設置して、月の砂を使って月面基地を作ろうと計画している。いちいち月面基地の材料をロケットで地球から打ち上げていたのでは、時間も労力もとんでもないものになってしまう(1kg当たり数百万円)。ならば、3Dプリンターだけ打ち上げて、あちらの材料で作ればいい、というわけだ。



一方、個人ユーザーもその可能性の裾野を広げている。

アメリカで3Dプリンターのユーザーたちが作ったコミュニティ・サイト「Shapeways」。このサイトにアクセスすれば、世界中の誰でもが3Dデータをダウンロードできる。つまり、手元に3Dプリンターさえあれば、モノを手に入れられるということだ。



shapeways.jpg



「たとえば、このメガネが作りたいと思ったら、それをクリックするだけで、造形用のファイルがダウンロードされます」と個人ユーザーの毛利さんは説明する。

今や何百人ものユーザーが自分の作った作品をネット上に公開している(もし3Dデータを作れる人であれば、それを世界中の人々に販売することも可能)。作品はスマートフォンのケースから腕輪などのアクセサリー、ランプ・シェイドなどの家具まで多岐に及ぶ。

「3Dプリンターさえあれば、クリック一つでいつでも欲しいモノが手に入ります。今、アメリカなどではこうしたサイトがいくつも登場しているんです。服や靴だって、ダウンロードして作れちゃうんです」










◎パンドラの箱



もし、3Dプリンターを通して、世界のモノが行き交うこととなれば、それは従来の「製造して流通させて販売する」という社会のシステムを一蹴してしまうかもしれない。

飛び交うのはデジタル・データのみ。それは一瞬で世界中を飛んでいける。

社会が変われば、生活も変わる。そして人の生き方をも変えてしまうかもしれない。







ところが、アメリカなどではすでに「事件」も起きている。

実際に発射できる銃のデータがネット上に流れ、それをダウンロードできることが問題になったのだ。銃の規制はあるものの、それを自分の家の3Dプリンターで「印刷」して悪いという法はなかった。

また、海賊版などの問題もある。有名デザイナーの作品のデータが、その権利を無視して世界中に流布される恐れがあるかもしれない。



強い光が生み出す、ひときわ暗い陰。

光のもとでは「魔法の箱」に見える3Dプリンターも、陰の中では「パンドラの箱」にも見えてくる。



「ただ僕は、やっぱり『魔法の箱』であって欲しいと思っています」

新野さん(東京大学)は、そう願う。

「それを『パンドラの箱』にするか、『魔法の箱』にするかは、私たち人間の叡智なんじゃないでしょうか?」



確かにモノ作りは進化した。

そして今度は、私たち人類が進化する番なのかもしれない…。







(了)






関連記事:

ネット世界のデフォルト「共有・協創」。新世紀の産業革命へ

未来とは戦わない。アマゾンCEO「ジェフ・ベゾス」

世界を虜にした「穴のあいたカバン」。ドン底からの奇跡。



出典:NHKサイエンスZERO
「3Dプリンター 魔法の箱の真骨頂」



posted by 四代目 at 06:44| Comment(0) | サイエンス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: