2012年12月14日

「自分の国は自分で護る」。大震災と自衛隊「火箱芳文」


「これは戦(いくさ)だ…」

比類なき巨大地震、そして大津波警報…。

陸上自衛隊の幕僚長「火箱芳文(ひばこ・よしふみ)」氏の全身には一気に緊張が走った。東日本大震災である。



即座に被災地・東北に電話を入れる火箱氏。

電話を受けた東北方面の総監は開口一番、「やられました…」。



火箱氏は「東北方面隊だけでは無理だ」と判断するや、全国の部隊に東北地方へと向かうよう指示。

その行動規模は前代未聞であり、本来であれば、閣議決定による大臣命令が必要なほどの大胆な行動であった。幕僚長といえども火箱氏にその権限はない。

それでも彼は「独断」で部隊を動かした。「閣議決定を待っていては、到底間に合わない…。あとでどんなお咎めや処分を受けようが、覚悟の上だ…!」



地震発生から、わずか30分。

全国の動ける部隊は、火箱幕僚長の命令により、ダッと一斉に動き出した。

各方面の総監たちも「出動すべきかどうか」、上からの指示を今か今かと待っていたのだった。



もう一つ、初動の段階で火箱氏が行ったことは、「即応予備・予備自衛官」の招集。普段は会社勤めなどをしている、いわゆる自衛官OBに集合をかけたのだった。

「ありがたいことに、全国から延べ2,648人が集まってくれました。とくに東北の方は非常にモチベーションが高かったですね」

即応予備・予備自衛官の招集は制度設立以来、初めてのことであった。



震災直後、食べ物や飲み水などの生活物資が著しく欠乏していた被災地。物資の流れは完全に停まってしまっていた。

「自衛隊の機能を使う以外にない…。事は一刻を争う」

そう思い極めた火箱氏は、震災から3日後の14日夜に「民生支援物資輸送システム」をつくり、大臣に報告。全国にある陸上自衛隊の駐屯地などに物資を集め、航空自衛隊が被災地の空港まで輸送。被災地に空路届けられたそれらの物資は、自衛隊のトラックが避難所等に運ぶこととなった。

そうして運び込まれた物資は2,200トン超。被災地の物流が麻痺する中、貴重なライフラインとなった。



被災地に身を投じた自衛隊員は、およそ7万人。

隊員たちは「何でも言って下さい! 何でもやります!」と言ってくれるものの、明らかに「過労状態」。不眠不休では3日が限界であり、長期戦においては、適切な休息も必要だった。

かねてより火箱氏は「持久力」というものを重視していた。「二夜三日の連続状況の演習は意味がない。少なくとも10日は必要だ」と言って、持続力を重視する教育訓練を常日頃から隊員たちに課していた。



「即動必遂(そくどう・ひっすい)」

これは火箱氏の造語である。「即座に動いて、持続力をもって必ず成し遂げよ」との意味が込められている。

「不眠不休だと、体力と気力には必ず限界がきます。どういう形にしろ休まないといけない。かといって、勢いを緩めることは許されません」

東日本大震災では、被災地近県に「戦力回復センター」という施設が設けられ、被災地の隊員たちに「一週間に一度は休める体制」が整えられた。



それでも、隊員たちの心労は想像を絶する。

御遺体は毎日毎日、何百体と運び込まれてくる。最終的には、陸上自衛隊だけでも8,416体もの御遺体を収容することとなる。

「これだけの御遺体を収容するなど、誰も経験がないわけです」

水の中で腐敗した御遺体を手で抱えようとすると、ズルズルと皮膚が剥げてしまう。網で丁寧に抱え上げて、微弱なシャワーで慎重に慎重に泥を洗い落としてあげなければならない。





さらなる困難は福島の原子力発電所。

隊員たちが冷却水を持って現場に駆けつけた途端に、「三号機の水素爆発」は起こった(14日午前11時ごろ)。

「4人が怪我をしましたが、もし一秒違えば死んでいたと思います」と火箱氏。



「とにかく冷やそう!」

冷却機能を失って超高温に達している原発をなだめるには、それしかなかった。

「仮りに大量の放射線が放出された場合、日本列島が福島県で真っ二つに割れてしまう!」

最悪の場合、高速道路も新幹線も二度と福島以北には立ち入れなくなるという状況までが想定されていた。



「オレがやります! 行かせて下さい!」

使命感に燃える隊員たちが、次々と名乗りを上げる。そんな志士たちがヘリコプターに乗り込み、原発建屋の真上からの注水に取り掛かった。

ヘリの高度は高ければ高いほどそれだけ安全だが、それでは水が届かない。だから彼らは、出来うる限りの低空飛行を行った。

その危険な状況下、じつに30トンもの注水が行われ、日本列島が真っ二つにされるという最悪の事態は、辛うじて回避されるのである。



その原発周辺はあまりに放射線量が高くなってしまっていたために、被災者の捜索はためらわれていた。

しかし、「宮城や岩手でやっているのに、福島だけそのままにしておくわけにはいかない」との想いを持っていた隊員たちは、その一念から高線量地域での行方不明者捜索を敢行。

「ヘドロに埋まった土管にまで潜り込んで捜索を続けてくれた隊員たちには、本当に頭が下がる思いでした(火箱芳文・陸上幕僚長)」



「自分の国は自分で護る」

その気概が、アメリカ軍をも動かした。

アメリカは原子力など特殊技術を発揮できる「虎の子部隊」を日本に派遣していたものの、彼らが最初から前面に出ることは決してなかった。

「日本が自ら『やるぞ』と動かない限り、アメリカは絶対に最初からは守ってくれないのです」と火箱氏は語る。

アメリカのスタンスは常に、「後ろにいて補完する」というものに徹していたという。





吉田茂元首相はかつて、自衛隊員たちにこう言っていた。

「君たちは在職中、決して国民から感謝されたり歓迎されたりすることなく、自衛隊を終わるかもしれない」

40年前の沖縄では、「人殺し、自衛隊帰れ!」とデモ隊が激しい反対運動をやっていた。自衛隊というだけで「白い目」で見られる時代も長かったのである。



吉田茂元首相は続ける。

「自衛隊が国民から歓迎されチヤホヤされる事態とは、外国から攻撃された国家存亡の時とか、災害派遣の時とか、国民が困窮し国家が混乱している時だけなのだ…」

かつて、自衛隊の第一混成団長を務めていた桑江良逢氏は、若き日の火箱氏にこう語っていた。

「オレたちには、任務への確たる信念があれば、それでいいのだ」。桑江団長は泰然自若の風格があり、常に落ち着いた「ぶれない芯」を持っていた。酒の飲みっぷりも美しかったという。



吉田茂元首相は、こう結ぶ。

「…どうか、耐えてくれ…」

自衛隊は自国を護ることが最大の使命。しかしながら、平時においてその仕事は評価されず、国難に遭った時にのみスポットライトが当てられる。



「任務が終わったら風のようにサーッと去って行く。去った後に爽やかな空気が残る。それだけで十分だと思ってやってまいりました」

火箱芳文氏はそう言って、平成23年8月に自衛隊を退官。

「この国を護らずにいられない」

この一途な想いが、彼をして東日本大震災という国難に命を賭けさせたのであった…。



「一切の言挙げをせず、胸に確たる矜持を秘め、黙々と任務を遂行してくれた」

これは、葛西敬之氏(JR東海会長)による東日本大震災における自衛隊への評である。



「爽やかな風」を被災地に残した自衛隊員たち。

国難はいついかなる時に日本を襲うか分からない。

その時、先頭に立って国を護るのは他ならぬ彼らである。アメリカ軍では決してない。



「日本人もまた、自分の国を大切に思う気持ちを忘れてはならないと思います」

火箱氏はそう言葉を閉じた…。








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出典:致知2013年1月号
「護国への変わらぬ思い 火箱芳文」

posted by 四代目 at 05:35| Comment(1) | 災害 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 これも、中国共産党政府の、今日の日本の衆議院選挙を睨んでの、民主党政権への嫌がらせ?私はそんな気がしてしまいます。
 なぜかというと、北朝鮮のロケット?の実験もそうですが、こういったことがあると、右翼的な候補に、国民の支持が集まってしまうと思うので。

 と書くと、「中国共産党政府が、なぜ日本の選挙の右翼的候補に塩を送るのか?」と突っ込まれそうですが、私は、その理由は、色々あるだろうと思います。

 まず第一に、中国共産党政府は、民主主義を嫌っていると思われます。
 第二に、中国共産党政府は、もしかしたら、北朝鮮に何か弱味を握られている恐れがあると思われます。(貢物でもするように援助してますよね。)その場合、日本の小泉元総理も、拉致問題に関して、北朝鮮に尻尾を握られているのでは?と疑われるので、北朝鮮のために、中国が、日本の政権を自民党に戻そうと、協力する恐れがあると思うのです。(中国には、「お互いに北朝鮮に弱みを握られているなら、日本が右翼政権になっても、日中関係はそれほどひどいことにはならない」という読みもあるのかもしれません?)

 私の妄想かもしれませんが、そういう疑いがある以上、私は絶対自民党に政権を戻せません。
 日本の民主主義が失われるだけでなく、世界に対しても、悪影響を与えると思うからです。
 今日の投票率は、まだ低いようですが、これから盛り返せば、自民党に政権を渡すのを阻止できると思います。
 多くの日本のマスコミは、自民党贔屓のスポンサーに札束で横っ面を張られているようで、自民党に都合の良いことばかり言い、「自民党の勝ちは決まった」みたいなことまで言いますが、彼らは、今回の選挙で40%あると言われている、浮動票の存在を、ほとんど無視したような判断で、そういうことを言っています。
 そんなマスコミの言うことが鵜呑みにできないのは、この前の北朝鮮のロケット?の発射の際の報道で、嫌というほど明らかにされたと思います。
 自民党贔屓?のようなマスコミ(NHKも例外ではありません)の言うことを鵜呑みにせず、日本の有権者の方々は、投票所に足を運び、日本の民主主義と、世界の平和を守るための投票をしていただければ、と願っております。
 どうぞよろしくお願い致します。


追伸  ところで、その選挙の投票時間なのですが、今回の選挙では、全投票所の3分の1の投票所が、通常の場合よりも、投票時間の締切時間を繰上げているそうです。
 なので、うっかりすると、
「いつもなら間に合う時間に行ったのに、すでに投票所は締まっていた」
などということに、なってしまう恐れがあります。
 なので、お手元に届いている、投票所入場整理券に書かれている投票時間をしっかりチェックなさって(もし、最近自治体から、選挙関連のお知らせなど来てた場合は、そういうものも、しっかりチェックなさった方が良いと思います)、できるだけ早目に投票所に行かれた方が良いと思います。
 どうぞお気をつけて。

 と書いておりましたら、もう一つ、投票に関して、気掛かりなニュースがあったので、そちらについても、書かせてください。
 千葉県の投票所と、横須賀市の投票所で、小選挙区の投票用紙と、比例代表の投票用紙を、間違って渡した、という事件があったそうです。
 間違った用紙で投票すると、無効になることがあるそうなので、投票の際には、渡された投票用紙が、小選挙区のものなのか?それとも比例代表のものなのか?しっかりチェックして、間違っていた場合、監視員に申し出て取り替えてもらう必要があります。
 どうぞお気をつけて。

 そういったことを色々考えると、チェック事項が多いので、落ち着いて投票するために、やはり、早目早目に投票所に行った方が良さそうに思います。
 日本の有権者の皆様、どうぞお気をつけて。

 それにしても、どうしてこういうことが色々起こるのか?これも、自民党など、組織票を持っている政党を有利にする話ですよね。
 組織票の人達は、期日前投票で、投票を済ませているだろうと思いますので。(そういえば、期日前投票で、同じ人物が複数回投票できるようなミスが起こっていた、という話も聞きました。)
 浮動票の人達は、やはり、選挙当日の投票が多いと思うので、浮動票が増えると不利になる自民党などの党にとっては、投票率が低くなって欲しいとか、無効票が増えて欲しいとか思ったりするのでは?と思います。
 そういう自民党のような政党の思い通りのことがこれだけ起こっているというのは、上に書いた中国共産党の話もそうですが、良からぬ人物達によって、日本の民主主義が危機に晒されている、と私には思えてしまいます。(例えば、日本のマスコミは、「全投票所の3分の1の投票所が、通常の場合よりも、投票時間の締切時間を繰上げている」というニュースを放送しても、「お手持ちの投票所入場整理券などで、時間をお確かめください」とは言ってないと思います。考えてみれば、震災の年の地方選挙で、自民党贔屓の自治体が、数多く誕生したはずなので、そういった自治体も、怪しいかも?とも思います。)

 日本の民主主義を守るために、多くの有権者の方々が、無事に時間内に投票所に足を運び、無事に投票を済ませて、無事にご自分の権利を行使なさってくださいますよう、願って止みません。
 どうぞよろしくお願い致します。


追伸2 今回の選挙、私は思うのですが、「選挙が終われば自民党に引っ付く」というつもりの政党が、結構多くあるのでは?という気がします。
 というか、今でも自民党を牛耳っていると思われる小泉元総理(あるいはその仲間)が、自分達への賛成票も反対票も、全て取り込むために、自民党のサテライトのような政党を、色々作ったのでは?と、私は思っているのです。
 私が自民党のサテライトでは?と疑っているのは、石原前都知事の所(橋下大阪市長の所でもありますね)や、舛添議員の党、それに、みんなの党などです。(他にも小さい所が色々あったと思います。)
 彼らは、色々言ってましたが、選挙が終われば、結局自民党にくっついて、自民党の主張を通すのだろうと、私は思っています。
 「そんなことをしたら、彼らは政党として信頼を失うだろう」とおっしゃる方もいるかもしれませんが、小泉元総理は、郵政選挙の直前、
「サラリーマン増税はやらない」
と言っておきながら、選挙でごそっと議席を稼いだら、すぐに掌を引っくり返して、
「サラリーマン増税やろうか」
と言いだして、任期中に、しっかりサラリーマン増税へのレールを敷いてから、辞めて行きました。
 自民党のサテライトだって、同じ行動を採るのではないでしょうか?(近年、自民党の支部では?と思いたくなる公明党も、同様と思います。)

 民主主義を守る政党に投票したつもりが、そうではない所に投票した、という結果にならないよう、日本の有権者の方々は、どうぞお気をつけて。(と書いていて、思い出したのですが、例のTPP、元々合衆国でも、共和党が積極的に進めていた話らしいので、自民党は、やりたいはずと思います。自民党は、ブッシュ前大統領やその仲間達との繋がりを、日米外交と考えているらしい、ということもあるので。でも、そんな自民党が、あの問題について、積極的な発言をしてなかったのは、選挙前に迂闊なことを言って、票を減らしたくなかった、ただそれだけなのでは?と私は思います。)

 ところで、ちょっと話を変えてすいませんが、もしかしたら、韓国の大統領も、日本の自民党に、何か弱みを握られていないだろうか?と気になっています。というのが、確か最近、韓国の大統領に関連した、汚職疑惑が報道されていたと思うので…。(自民党は、探偵など使うのが、好きそうな気がするのです。)
 私の妄想かもしれませんが、韓国の大統領の、突然のようなジャパンパッシングというか、日本の民主党政権へのパッシングみたいなこともあったので…。
 私は、心配性が過ぎる、妄想癖のある人間ではありますが、気になっております。
 韓国でも、大統領選があるそうですが、韓国の国民の方々が、賢く良い選択をなさることを、祈って止みません。

注:この私のコメント中の、民主党、自民党は、日本の民主党、日本の自民党を指しています。
Posted by 通りすがりです at 2012年12月16日 13:54
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