2012年10月09日

破格の投資家「ウォーレン・バフェット」。並外れた普通のこと


もしもタイムマシーンがあって、1970年代に戻れるとしたら?

投資家たちは「どの株」を買っていたら、今現在、儲かっていただろう。



その答えの一つは、明らかに「バークシャー・ハザウェイ」の株。

かの大富豪、ウォーレン・バフェット氏の会社の株である。



◎異常値


世界最大の投資持株会社であるバークシャー・ハザウェイは、その本拠地がアメリカ・ネブラスカ州の「オマハ」にあることから、バフェット氏のあ「オマハの賢人」とも称せられる。

その賢人がバークシャー・ハザウェイの経営権を握ってから現在までの約45年間、その株価は約82万%超という「ケタ外れの上昇」をみせたのだ(一万円が85億円に?)。この同じ期間、アメリカの主要株価であるダウ平均の上昇率は、「たったの」1400%である。

運用成績としては年間20%以上のリターンを40年以上に渡って出し続けていることになる。これは息の短い投資会社の中にあっては異常な状態である。そのため、学者の中にはバフェット氏のことを「異常値」として考えないことにしている人もいるのだとか。



さて、そのオマハの賢人の異常な戦術とは、いかなるものなのか?

一言で言うと、「低ベータ株を買い、レバレッジを効かせてリターンを高める」ということになる(ニューヨーク大学とARQキャピタルによる新たな論文)。

金融業界用語というのは不親切なもので、この言葉を正確に理解するには、少々「翻訳する必要」がある。





◎低ベータ株


まず、「ベータ」とは何か?

これは「株価の値動きの荒さ」を示すもので、この値が大きい(ベータ値が高い)ほど、その株価は上がったり下がったりを激しく繰り返していることになる。

一般的なモデルでは、あえて変動の大きな(ベータ値の高い)銘柄を買って、大きな儲けを狙っていく。しかし、当たりが大きいということは、外れる時もデカイということでもある。金融砂漠を跋扈する攻撃的なハチュウ類たちが、往々にして討ち死にしてしまうのはこのためだ。



一方、賢人は賢人らしく、もっと賢く銘柄を買う。

あまり欲張らずに、変動の小さな(ベータ値の低い)銘柄を選ぶのである。そして、「長い目で見ると」、より高いパフォーマンスを見せるのは、賢人の選ぶ低ベータ株なのである。



それが分かっているのなら、なぜみんな高ベータ株を買ってしまうのか?

逆に考えれば、みんなが賢人とは違う選択をするからこそ、賢人の戦略は40年以上の長きに渡って通用してきたとも考えられる。

「ほとんどの投資家が、このような戦略を使えない、あるいは使わないからこそ、この変則性(アノマリー)は存在するのかもしれない」



一般的な投資家たちはリスクがあると分かっていても、どうしてもハイテク株のような変動の激しいセクターに惹かれてしまう。

その結果、多くの投資家は「低ベータ株を無視する」傾向が強くなる。それゆえ、賢人・バフェット氏は「残りモノ」となる低ベータ銘柄を、より割安に購入することが可能となるのである。ちなみに、賢人は概してハイテク株を避けてきた。



◎まずまずの価格


「素晴らしい会社の株をまずまずの価格で買う方が、まずまずの会社を素晴らしい価格で買うよりずっといい」

賢人・バフェット氏はかつて、そう語っていた。



素晴らしい会社、たとえばコカ・コーラやGE(ゼネラル・エレクトリック)といった大企業でも、長い年月の間には「一時的にツキに見放される時」がある。

コカ・コーラは「ニューコーク」が大失敗した時(1980年代)、GE(ゼネラル・エレクトリック)はリーマン・ショックの直後(2008)、「ツキ」に見放され、その株価は大きく値を下げた。

その時である。バフェット氏の触手が動いたのは…。その結果、彼はまんまと「まずまずの価格」で素晴らしい会社の株を買うことができたのだ。

「もっともバカげた株の買い方は、値上がりしてから買うというやつです(ウォーレン・バフェット)」



◎テコの原理


さて、「低ベータ株を買い、レバレッジを効かせて、そのリターンを高める」というバフェット氏の戦略の「レバレッジ」とは何か?

直訳すれば、それは「テコ」となる。テコの原理を用いれば、10の力を100にも、1,000にも高めることができる。金融の世界では、10万円しかなくとも、レバレッジを効かせれば、それを100万円にも1,000万円にも「見せかける」ことができるのだ。



もし、10万円しかないのに100万円を持っているフリをして取り引きをした時、そのレバレッジは10倍(10×10)である。さらに欲張って1,000万円に見せかければレバレッジは100倍(10×100)となる。

こうした詐術まがいは、金融業界では日常茶飯事。別に悪いことでもなんでもない。銀行といえども、自己資本比率というのは国際的には8%、日本国内では4%程度で良いとされている。つまり、銀行は100万円の取り引きをするときに、その資金はじつは8万円とか4万円とかしか持っていないのである。「ヘタ」をした金融機関がアッという間にフッ飛ぶのは、このためだ。



100万円の取り引きをする時に4万円しかないのであれば、そのレバレッジは25倍(100÷4)である。この状態で利益を出せば、その利益は25倍になる。勝てば官軍、利益は何倍になっても社会に迷惑がかかることがない。

だが、もし負けたら…。たった4%の負け、4万円の損失を出しただけで「飛んでしまう」。失敗してしまえば、その損失も25倍になってしまうわけだから、大きなテコほど、その失敗の反動もデカい。

大きな利益をあげようとして大きなテコを使った時に、間違って自分が飛んでいってしまうことも珍しくない。星の数ほどの投資家たちが、そうやって銀河のかなたへと消えていったのだ…。



◎信用


どれほど大きなテコを使えるかどうかは、その「信用次第」である。

すぐ負ける人、過去に負けてばかりの人は大きなテコを使わせてもらえない。たとえば、高い金利を請求されることになる。

一方、オマハの賢人・バフェット氏のように勝ち続けている人は、人よりも大きなテコを使うことが許される。つまり、低い金利で借り入れをして、自己資本を増強することができるのだ。

彼のバークシャー・ハザウェイという会社には、1989〜2009年まで「トリプルA」という最高の格付けが与えられており、その信用力は今なお世界最高クラスである。



また、保険事業も営む同社は、保険料という形でより多くの人々から資金を得ることも可能になっている。資金の借り入れと保険料ではまったく異なるようにも感じるが、実は結果的には同じことだ。

被保険者に保険金を支払うのは「のちのち」のことであり、被保険者は「前もって」保険料を保険会社に支払わなければならない。つまり、実質的に保険料というのは前借りであり、これは保険契約者からの「借り入れ」という形なのである。

その保険事業による借り入れコストは平均で2.2%。これはアメリカ政府の短期資金の調達コストの平均よりも、3%以上低い。つまり、バークシャー・ハザウェイの資金調達効率は、その属する国家以上に高いということでもある。





◎シンプルさ


なるほど、バフェット氏の異常な業績を説明するのに、多くの言葉はいらない。

「低ベータ株」と「高いレバレッジ」。これだけだ。

年齢81歳になるバフェット氏は、このシンプルな戦略で資産を増やし続け、今年も世界長者番付(フォーブス社)の第3位にランクインしている(総資産3兆5,000億円)。



賢人・バフェット氏の名言に、こんなものがある。

「You don't need to have extraordinary effort to achieve extraordinary results.

 (並外れた結果を出すのに、並外れた努力はいらない)

 You just need to do the ordinary , everyday things exceptionally.

 (ただ、日々の普通のことを、並外れて行うだけでよい)」



日々の「普通のこと」の積み重ねの大切さを説いたバフェット氏。

普通のことを積み重ねることこそが、「並外れたこと」だと言うのである。



株式市場を「誰かがバカげた値段をつけていないかどうかを確認する場所にすぎない」というバフェット氏は、バカげた値段をつける人々は「簡単なことを難しくするのが好きなようだ」とも言っている。



◎木を植えた誰か


静かな「低ベータ株」を信じてずっと長く持ち続け、コツコツと信用を積み重ねながら、「高いレバレッジ」を利用できるようにしていったバフェット氏。

「人からそれなりの信用を得るには20年かかる。だが、その信用はたった5分で崩れることもある。そのことを頭に入れておけば、今後の生き方が変わるはずだ」と語っている。



「今日、誰かが木陰で休むことができるのは、遠い昔に誰かが木を植えてくれていたからである」と言うバフェット氏の視線は、一般の投資家たちのそれよりも、ずっとずっと遠い未来を見ているかのようである。

「価格とは何かを買うときに『支払うもの』、価値とは何かを買うときに『手に入れるもの』」というバフェット氏は、ずっと何かを手に入れ続けてきたのだろう。

そしてその手に入れてきたものは、決して並外れたもの(extraordinary things)ではなく、きっと普通のもの(ordinary things)でもあったのだろう。何兆円といえども、それはたった一円の積み重ねであるのだから。



バフェット氏は2010年から、Microsoftのビル・ゲイツ氏とともに「財産の半分を寄付する慈善活動(The Giving Pledge)」を行なっている。そして、その賛同者は92人にもなったという。

遠い目をもつバフェット氏は、遠い未来の誰かのために、木陰で休むための木を植えてくれようとしているのである。



◎リスク


一般的に「投資家」という言葉は、あまり美しく響かないかもしれない。それでも、未来に投資してくれている本当の投資家が、この世界には少なからず存在しているという事実もある。

「投資とは、消費を延期すること。今お金を出しても、あとでもっと大きなお金になって戻ってくるわけです(ウォーレン・バフェット)」



金融業界には、危険(リスク)を引き受けれくれる人に、ご褒美(リターン)を与えるという構図がある。

そのリスクについて、バフェット氏はこう語る。「リスクというのは、あなたが『何を行なっているか』知らないことなのです」

一般的に、リスクというのは「不確実な将来」のことを意味するわけだが、バフェット氏は「自分の行いを知らない」ことがリスクだと言っている。逆に言えば、今自分のしていることの意味が分かっているのならば、「不確実な将来」はリスクにはならないということだ。



そもそも、将来が不確実なのは今に始まったことではない。「一寸先」のことすら、みんな知らない。つまり、将来が不確実なのは「確実」なのである。

それよりもリスクが高いのが、人間たちが「今、何をやらかすか分からない」という怖さなのかもしれない。それは他人に対して言えることでもあり、自分に対してもまた然り。そんな人間の歴史は「まさか」の連続である。



◎行住坐臥


もし、自分の今の行いが、将来にどんな結果をもたらすのかを意識するのなら、その将来は多少変わってくるのではなかろうか。

禅の言う「行住坐臥(ぎょうじゅうざが)」というのは、日常生活の一挙手一投足がすべて修行という意味である。その所作というのは何も特別なものではなく、行(ゆく)、住(とどまる)、坐(すわる)、臥(ねる)といった、ごく普通のことばかり。

こうした自分の小さな行いの一切合切、それら一つ一つの積み重ねが、将来の自分をつくり、ひいては将来の社会を形成していくことにもなる。



きっと禅僧たちは、「自分の行い」を知っているのだろう。

そしてまた、ウォーレン・バフェット氏もそれを知っているのであろう。



かつて、マルティン・ルターは「たとえ明日、世界が終わりになろうとも、私はリンゴの木を植える」と言ったという。

「今の自分」の行い、そこから全ては始まっているのかもしれない。



今の自分はいったい、どんな種をまいているのだろう?

すぐに枯れてしまうような種だろうか、それとも82万倍にも殖える種だろうか。

どれほど将来が不確実だとしても、必ず育つ種があるのだろう。そして、きっとその種は、何も特別な種ではなく、何気なくその辺に転がっているような種なのだろう…。







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posted by 四代目 at 06:38| Comment(0) | マネー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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