2012年02月20日

カナリア界のオペラ歌手「ローラーカナリア」。その美声は自然界では全く通用しないというのだが…。


暗い炭鉱に響く美しい小鳥の鳴き声。

かつて、ドイツの炭鉱で働く坑夫たちは、その仕事場に「カナリア」を持ち込んでいたのだという。

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なにも趣味のためではない。炭鉱のカナリアにはもっと実用的な役割が与えられていた。

この繊細な鳥は、とりわけ「毒物」には敏感に反応する。もし、炭鉱内に「メタン」や「一酸化炭素」といった窒素ガスや毒ガスが発生した際には、その美しい鳴き声がピタリと止む。

つまり、カナリアは炭鉱内の「毒ガス検知」に用いられたのである(イギリスでは1987年までこの方法が採用されていた)。



炭鉱内に何の異常もない時には、カナリアの美しい声は陰鬱とした炭鉱で黙々と作業する鉱夫たちの心を大いに癒してくれた。

無機質な音ばかりが響く炭鉱の底にあって、多彩な音色に富むカナリアの鳴き声は、どれほど心地よく心に響いたことであろう。




そんな坑夫の一人であった「ヴィルヘルム・トルーテ」は、不思議な鳴き声をするある一羽のカナリアがいることに気づいた。

普通のカナリアは、「口を開けて『高音』で鳴く」ものだ。ところが、そのカナリアばかりは、「口を閉じたまま『低音』で鳴く」のである。



はじめはどこか物足りなさを感じたその低音の歌声。

ところが、何度も何度も聞くうち、じんわりと心の奥底にまで響き渡り、トルーテはその渋い歌声にすっかり魅了されてしまう。



さらに良い声を求めて、トルーテは交配を繰り返し、やがて一つの完成を見る(1870年頃)。

その低音のカナリアこそが、現在人気の「ローラーカナリア」である。



ある人はその歌声を、こう評す。

「普通のカナリアがポップ・シンガーなら、このローラーカナリアは『オペラ歌手』だね」

またある人は、こうも言う。

「ローラーカナリアの音色は、クラシックや雅楽のようなもの。静かに聴き入るに相応しい」




「耳のごちそう」とも言われるローラーカナリアの低音。

その魅惑の鳴き声を科学的に分析すれば、そこには「何重にも重なり合う倍音」と、「1/fのゆらぎ」が見えてくる。



ローラーカナリアの主に発する「基本波」となる音は、じつは人間の耳ではよく聞き取れない。なぜなら、その基本波が人間の聞き取れる波長(おおよそ2500〜5000Hz)よりも一段低いところにあるためである。

では、我々の耳には何が聞こえているのか?

それが、ローラーカナリアの基本波が生み出す「複数の倍音」なのだという。

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倍音とは?

「幽霊のような音」という人もいるが、倍音とは一番強く聞こえる音の後ろで、かすかに鳴っている音のことである。

メインの音の後ろでどんな倍音が鳴っているかによって、その音の「音色」が決まるとも言われている。

たとえば、ピアノの「ド」とトランペットの「ド」では、同じ音でありながら、全く違う音色を持っているが、その違いを鮮明にするのが「倍音の違い」なのである。



音の印象としては、倍音が豊富であるほど、その音は「輪郭のはっきりした明るくて良く通る声」になる。他方、倍音が少ないと「ぼやけて暗い、こもった声」になる。

人が心地よく感じる音というのは、倍音が全域にわたって豊かに鳴っている音なのだそうだ。

ちなみに、電子音には倍音が少ないため、人間の耳には倍音の豊富なアコースティックな音の方が心地よく感じられる。



ローラーカナリアの鳴き声はじつに低音ながら、その基本波の生み出す倍音は、高い音まで複数の倍音が重なり合っている。

もし、基本波が高くて倍音が少なかったら、その音はキンキンと鳴り、耳に不快さを感じしまうかもしれない。

ところが、幸いにもローラーカナリアの基本波は人間の耳によく聞こえず、心地よさを演出する倍音ばかりが心に響くのである。




また、もう一つの魅力である「1/fゆらぎ」は、美空ひばりの歌声の秘密でもある。

ゆらゆらと揺らぐようなその音は、規則的な音よりも柔らかく響き、快適さと安心感を与えてくれる(自然界の音)。

ローラーカナリアの奏でる「ゆらぎ」は、美空ひばりの歌の一節と酷似しているそうである(鳥つながり?)。




ローラーカナリアに限らず、ふつうのカナリアにも「声帯」が2つあり、そのことで、多彩な音を演出することが可能になっている。

この賢い鳥は、音を教えれば、それを学ぶことができる。

実際、現在のローラーカナリアの鳴き声(主に9種類)は、すべて人間が「教えた音」なのだそうだ。



ローラーカナリアが本来もつ声は「地鳴き」と呼ばれるものであるが、人々の珍重するのはその地鳴きではなく、飼育の歴史とともに教えていった音の方である。

現在は飼育種となっているカナリアも、その元をたどれば、西アフリカ沿岸の「カナリア諸島」の野生種に行き着く。

カナリアの野生種は、スズメのように茶色っぽく(じつはスズメ目)、腹部はカナリアイエローのような黄色が見えるものの、その黄色はどこかくすんだ感じである。



離れ小島のカナリア諸島に遊んでいた野生のカナリアたちは、フラリとその小島を訪れたあるスペイン人によって見初められた(1600年頃)。

当初、修道院で門外不出とされた美しきカナリアは、ある自由なイタリア人の手に渡ったときから、ヨーロッパ全土に広がっていくことになる(日本にも、オランダを通してこの小鳥はやって来た)。

カナリアたちは、炭鉱という実用的な場に用いられることもあれば、貴族たちに愛玩されることもあった。かつてのロシア皇帝は巨大な鳥籠(10m以上!)を持っていたそうだが、そこで飼われていた鳥はすべてがローラーカナリアだった頃もあったそうだ。



イギリスではカナリアを愛しながら、その「色や姿形」を好みのものに変えていった。




一方、ドイツでは、その「歌声」を好みのものに改良していった。ドイツには、ローラーカナリアに音を教えるための訓練用オルガン(当時のもの)が残されている。



現在のローラーカナリアの飼育において、美しい歌声を学ばせることが、愛好家たちの楽しみの一つでもある。

お手本となる良い歌を「教師鳥」と呼ばれるカナリアにさえずらせると、他のカナリアたちもその「正しい歌」を覚えていくのだそうだ。

逆に、歌の下手なカナリアは隔離される。下手な歌を他のカナリアが覚えてしまっては困るからだ(歌声コンテストで優秀な成績を残すには、然るべき「正しい歌声」をマスターさせなければならない)。



当然、人間の教え込んだ歌声は、自然界では何の用もなさない。

ローラーカナリアがいくら人間好みの歌声を森の中で披露しようとも、メスたちは全く反応しないのだ。

幸いにも、飼育されたローラーカナリアは、人間好みの歌を上手に歌えれば、よいメスを「あてがってもらう」ことができる。



鳥にとって、「鳴く」ということは「強さ」のアピールでもあるらしい。

多大なエネルギーを使う「鳴くという行為」は、それがたくさんできるほど「強い個体」であることを主張でき、それがメスへのアピールにもなるのである。



そのアピールには、「いろいろな音が出せる」ということも大事である(カナリアに限らず、鳥には多彩な鳴き声を真似ることができる種が多い)。

そのため、鳥たちには本来の鳴き声に加え、時と場合に応じて、新たな音楽を学んでいく余地が元々残されている。

彼らの遺伝子は、最低限の鳴き声は保障しているものの、環境に応じる「自由度」をふんだんに認めてもいるのである。



ローラーカナリアが人間の教える音を学べるのは、そうした遺伝子の自由度の現れであり、新たな生存方法の試行錯誤でもある。

そんなローラーカナリアが生み出した音色は、実際に人間たちをノックアウトし、彼らをして世界中への生存を可能にしたのでもある。



今の世の中、ローラーカナリアをして炭鉱に閉じ込めておく時代ではない。

殺伐としてギツギツとしてきた社会に、心地良い「倍音」を響かせ、凝り固まりがちな人間たちの心に「ゆらぎ」を与える必要もある。



はたして、カナリア諸島で遊んでいたカナリアたちは自由であったのか?

それとも、小さな鳥籠の中で飼われている現在のほうが自由であるのだろうか?




遺伝子の与える自由は、予想以上に大きいモノがある。

多彩な色合いや鳴き声、そして多彩な生き方をするカナリアたちを見るにつけ、そんなことを想ったりもする。




出典:いのちドラマチック
「ローラーカナリア ヒトのために歌う鳥」



posted by 四代目 at 05:30| Comment(0) | 動物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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