庭にバナナやココナッツが生い茂る「ニウパニ村」。
青いバナナをココナッツ・ミルクで煮込んだ料理が、子供たちの大好きな朝食だ。

ここは南太平洋のソロモン諸島・最南端、レンネル島である。
この島は「サンゴ礁」が隆起してできた世界最大の「サンゴ島」であり、島の2割を占める湖、「テンガノ湖(世界遺産・1998)」は世界最大級の汽水湖である(汽水湖とは、海水と淡水が混じり合った湖のことで、日本ではサロマ湖、浜名湖、宍道湖などがそれにあたる)。
熱帯に属するレンネル島は、年間4,000mm以上もの降水量があり(日本の2.3倍)、その森の樹木は20m以上にまで成長する。
子供たちの朝食は同島の豊かな自然の産物であり、その自然が何千年となくニウパニ村を育んできたのである。
森の恵みは食糧ばかりではない。島民たちを癒す「薬」をも産してくれる。
遊びすぎた子供たちが切り傷を作ってくれば、ツル性の草(モウク・マングー)の葉っぱを揉んで、その汁を傷口に垂らし、年老いた老婆がめまいを感じると言えば、2種類の樹皮(バンガとビィ)を煎じてスプーン一杯飲ませる、といった具合である。
また、レンネル島にしか生息しないというパンダナスという木の根っこは、ココナッツと混ぜることで下痢の薬になるのだという。
我々はスッカリ忘れてしまっているが、薬はドラッグ・ストアから生まれるものではなく、大自然が与えてくれるものなのである。

かつて、リビアにあった「キュレネ」という都市国家(BC7世紀〜)は、シルピオンという「薬草」の交易により大いに栄えたのだという。
「薬物誌(ディオスコリデス)」によれば、このシルピオンという薬草には42種類の薬効(白内障・歯痛・傷・解毒・ポリープ・破傷風・ヘルニア…)があるとされ、万能薬としてたいそう珍重されたのだそうだ。
そして、この万能薬・シルピオンが採れるのは都市国家キュレネのみ。そのために、その価値は極めて高く、同量の「銀」と交換されるほどであったという。しかし、哀しいかな、欲に目が眩んだのか、「乱獲」の末に薬草・シルピオンは姿を消してしまう。その結果、都市国家・キュレネも衰退の道を転がり落ちて行ってしまう…。

近世では、イギリスが世界中の薬草を探し求め、各地に「プラント・ハンター」と呼ばれる植物学者たちを派遣した。
たとえば、「キニーネ」というマラリアの特効薬は、プラント・ハンターがアルゼンチンで発見した「キナノキ」から作られたものである。キナノキはアンデスに自生する植物であり、原住民のインディオが解熱剤として利用していた薬効植物だったのである。

近代のプラント・ハンターたちは、冒頭で紹介したレンネル島(ソロモン諸島)にもやって来た。固有種にあふれたレンネル島は薬草の宝庫でもあり、プラント・ハンターたちは初めて目にする貴重な植物を次々と乱獲してゆく。
ソロモン諸島は19世紀後半にイギリスの植民地となり、以後、現地の自然崇拝はキリスト教に、土地の言葉は英語へと変わっていった歴史がある。
ソロモン諸島が独立を果たすのは1978年。その頃には、島の貴重な植物とともに、昔ながらの薬草の知識もほとんど失われてしまっていた。
現在、薬は外国から輸入されている。しかし、貨物船が島を訪れるのは2〜3ヶ月に一度にすぎないため、島の薬は慢性的な不足状態にあるのだという。
多くの固有種が失われたとはいえ、ソロモン諸島南端のレンネル島には、貴重な薬となりうる植物資源がまだまだ眠っていると、渡邊高志教授(高知工科大学)は考えている。地元の伝承医との協力のもと、渡邊氏は2,000を超える植物サンプルを収集してきたという。
現代薬の不足に悩む島民たちも、島伝統の伝承医療には少なからぬ関心を抱いている。ここに来て、一時は忘れられていた伝承医療に再び光が当たり始めているのである。

現代文明は一貫して自然を遠ざけ、時には破壊してきた。
しかし、多様化・進化する病気との熾烈な争いにおいて、やはり自然の産する「薬」に活路を見出さざるを得なくもなってきている。化学的に合成する薬でさえ、その大本となるサンプルは自然界に求めざるを得ないのが現状である。
とりわけ、固有種と言われる「その土地独自の植物」には大きな可能性が秘められているのだという。かつて、キュレネという都市国家が土地固有の薬草で潤ったように、「そこにしか生えない植物」というのには、千金の価値がある可能性もあるというのだ。

子供の切り傷の薬ともなるツル植物(モウク・マングー)は、レンネル島なら「どこにでも生えている草」だという。
本来、薬とは「どこにでもある」モノなのかもしれない。「人間がその薬効に気づくかどうか?」ということが、より問われることなのだろう。歴史を受け継いできた伝承医療は、科学的な証明以上に、歴史がその薬効を証明しているともいえる。
そうした民間療法は、日本各地にも伝わるものであるが、現代人たちは歴史的証明よりも、科学的証明を圧倒的に信じる傾向にあるため、やはり民間医療は廃れざるを得ない。

ところが、策の尽きかけている科学は今、歴史に助け舟を求め始めているのである。レンネル島の伝承医は貴重な生き証人であり、最新医療の一翼を擁護する存在でもあるのだ。
伝承医の目には、森が薬箱のように見えている。何気ない草木が、人々の苦しみを解放してくれる薬でもあるのだから。
我々が必要とするものは、じつは足元にあるのかもしれない。しかし、要らぬ先入観は自らの足元を見えなくもしてしまう。
我々の依るべきところは、自らが立つ大地に他ならない。大地から離れつつある現代文明ですら、その例外ではありえない。
食べ物はどこから来るのか? そして、薬はどこから来るのか?
元をたどれば、どこに至るのか?
明白そうなその答えも、今の我々にはよく分からなくなってしまい、実感のないものとなってしまっているのではなかろうか?
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出典:世界遺産 時を刻む
「薬〜植物に宿るちからを探して」


中国の医食同源。
マクロビオティックの身土不二。
自然から離れ、自然を壊し、不調和を起こすとまた助けを求めに自然に還る。
きっと人は、自然と不自然を何度も行ったり来たりしながらしか、進化できない生き物なんでしょうね。
ある意味、それが[自然]というコトなのかもしれません。
だけどその紆余曲折も、そろそろ一つバージョンアップすんじゃなぃカナ〜と、期待します。