「鉄」と人類の関わりは、よほどに深い。
鉄を用いるようになった人類は様々な「道具」を考案し、自身の文明を大いに発展させてきた。他面、「武器」としても活用し、大いに争ってもきた。
そして現代に至り、我々人類は鉄を「浄化」に用いようとしている。
「土壌」の浄化に使われるのは、「ゼロ価鉄(ZVI)」という、いわゆる金属状態の鉄である。
ゼロ価鉄には自身が「酸化しやすい(サビやすい)」という性質があり、その反面、ゼロ価鉄に触れた物質を「還元する(無害化する)」という特性を持つ。
ナノ・レベルまで微細に粉砕されたゼロ価鉄は「表面積」が極端に大きくなるために、汚染物質を吸着する面が非常に大きくなり、浄化(還元)作用がアップする。
具体的には「トリクロロエチレン」の浄化にゼロ価鉄が用いられている。トリクロロエチレンには油汚れを落とす性質があり、自動車工場や半導体工場などで盛んに使われた物質である。
ところが、自然界はこのトリクロロエチレンを分解することができない。そのため、土壌に垂れ流されたトリクロロエチレンは、深刻な土壌汚染を引き起こしたのである。トリクロロエチレンは人体の神経系統を損ない、発ガン性があるともされている。
そんな毒性の強く、分解しにくいトリクロロエチレンも、ナノサイズのゼロ価鉄によって「浄化(還元)」できる。汚染された土壌にゼロ価鉄を注入することで、トリクロロエチレンを消し去ることができるのだ。

有害物質を浄化したゼロ価鉄は、自身が酸化し酸化鉄(サビ)となる。
酸化鉄(サビ)となってもなお、鉄は有用である。この酸化鉄(サビ)は「水の浄化」に用いることができる。具体的には「ヒ素」を浄化することができるのだ。
ヒ素に汚染された水は世界中にあり、メキシコ(グアナファト)では標準値の30倍以上もヒ素を含んだ水が飲料水となっている。
ヒ素は無味無臭・無色の「毒」であるため、過去の歴史では暗殺などに用いられ、近代以降は「公害」の原因ともなった。和歌山カレー事件(1998)で混入されたのもヒ素である。
ヒ素というのは元々土壌中に含まれている物質であり、人間が汚染したわけではない。本来、浄化してから飲用すべきであるが、その浄化の費用がケタ違いに高額であるため、ヒ素を毒と知りつつも、やむなく飲用する地域も多いのである。

そこで注目されているのが、酸化鉄(サビ)によるヒ素の無毒化である。
その浄化の仕組みは単純で、ヒ素を含む水をナノ・サイズにした酸化鉄に通すだけで良い(ろ過)。すると、出てきた水からはすっかりヒ素がなくなってしまうのだ。
酸化鉄は磁石により簡単に回収することも可能である。
ゼロ価鉄にしろ、酸化鉄にしろ、「ナノ・サイズ」であることが最大のポイントである。
物質をナノ・サイズにすることで、元々の性質が「強く」現れることがある。ゼロ価鉄と酸化鉄がそうであり、ゼロ価鉄は「還元」、酸化鉄は「酸化」の力がナノ・サイズにおいて、大いに増幅されることとなる。加えて、表面積も拡大することにより、その効果を最大限に活かせることにもなる。
「ナノ」というサイズは、どんなサイズか?
たとえば、「1円玉」を1ナノ・メートルと仮定すると、1メートルというのは「地球」ほどの巨大さ(10億倍)になる。

ここ30年で、ナノのテクノロジーは飛躍的に進化し、我々人類はナノという超微小の世界を操れるまでになったのである。
しかし、この超微細な世界はまだまだ「未知」の世界であり、そこには知られざる危険性も潜んでいるかもしれない。
我々の遺伝子のサイズは数ナノ・メートルであり、ナノの物質は遺伝子に何らかの影響を与えかねない物質でもあるのである。
上述したように、土壌や浄化にナノ粒子が使われようとしているわけだが、果たしてその安全性となると、やはり未知の部分はまだまだ存在するようだ。
実際、ナノ・レベルの汚染というのも、我々人類はすでに体験している。自動車の排気ガスによる汚染などがそうだ。
自動車のエンジンで燃焼された燃料の燃えカスは、ナノ・サイズの炭素となる。これが肺に吸引され、ナノの炭素が血液中に入り込み、それが心臓発作を引き起こすと考えている医師もいる。

かつて、DTTやアスベストなどは未来の物質として持て囃されていながら、徐々に明らかになっていった有害性から、結局は使用を禁止せざるを得なくなっている。
我々の文明に新しい力は必要ではあるが、同時に慎重さも必要とされるのである。
さて、話を「鉄」に戻そう。
鉄というのはとても根源的な金属である。なぜなら、星々の核融合によって最初に作り出される金属は、他ならぬ「鉄」であるからだ。
そして、冒頭にも記したように、この金属は人類の歴史に大きな影響を与えてきた。道具として、武器として…(石器→青銅器→鉄器)。
今まで、何かに形造ることによって「鉄」は有用性を増してきたわけだが、現代ではナノ・サイズにまで小さく砕くことによって、鉄の新たな可能性が見出されている。
そのアプローチの違いもさることながら、その用途も「浄化」という全く新しい分野であることは面白い。
逆に、「形としての鉄」は炭素繊維などの新素材にその役割を譲ろうとしている。新しい時代では、「形のない鉄(ナノ粒子)」が重宝されているのだ。
素材の用途が変わり、時代も変わる。
その本質を変えることがなくとも、新たな活躍の場が生まれてくる。
こうして、古い時代を否定せずとも、新しい時代は始まっていくのだろう。
現代の我々が持つ鉄に対する「常識」は、未来の人類にとって、まったく「奇異なもの」となっているのかもしれない。
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出典:ナノ・レボリューション 「地球の浄化が始まった」

