2012年01月10日

ナノ・サイズを巧みに操る現代医療。未病を癒す新技術の数々。


なぜ、病気と判るのか?

それは、細胞が教えてくれるからだ。



病変した細胞は「バイオ・マーカー」と呼ばれる病気固有の「タンパク質」を放出するのだという。そこで、そのタンパク質の「型」を調べれば、何の病気か判定可能になる。

バイオ・マーカーというのは、病気にかかった細胞が「異常を知らせるサイン」のようなものである。



ただ、タンパク質というのは極めて微小である。一般的な大きさは10ナノ・メートル(
1ミリ・メートルの10万分の1)。いくら細胞が病気を知らせてくれても、そのサイン(バイオ・マーカー)は人間の知覚できるようなものではない。

ところが、現代のナノ・テクノロジーというのは、このバイオ・マーカー(タンパク質)を捕らえることを可能にしている。病気固有のバイオ・マーカーに、それぞれの型に応じた結合部を用意してやれば、そこにバイオ・マーカーがくっついてくれるのだ。



さらに、そのバイオ・マーカーに「色」をつけてやれば、より判別しやすくなる。

その色付けに用いられるのは、ナノサイズに粉砕された「金(Gold)」である。金には、100ナノ・メートル以下になると「赤色」を発色する性質があるのだそうだ。

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こうした微細な技術により、病気の判定を高速化することが可能になるという。

たとえば、新型インフルエンザの場合、従来の手法であればウイルスの分析に2週間を要したというが、上述のナノ・テクノロジーを用いれば、わずか3時間半で特定できてしまったという(フレーダート病院・アメリカ)。

少量の血液から病気の特定が可能となる。



最近では血液だけでなく、「吐く息」からも病気が判るのだという。吐く息の中にも、ある種のバイオ・マーカー(病気のサイン)が存在するのである。

そのバイオ・マーカーを捕らえるのは「カーボン・ナノチューブ(炭素を筒状に織り込んだ素材)」。バイオ・マーカーがカーボン・ナノチューブに接した時、電圧が変化する。その変化を読み解くことにより、病気を特定するのだという。

たとえば、肺ガンや喘息(ぜんそく)、気管支炎などは、この手法により見つけ出すことができる。

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ガンの治療率を上げるには、早期発見が欠かせない。

なぜなら、ガンが進行した状態では「延命」することしかできなくるため、「治癒」を目指すには「初期のガン」を早期発見することが肝要だからである。

しかし、ガンの検診率というのは、たいてい2割以下という現状がある。それは、検診が面倒で煩雑なためでもある。要するに「負担」が大きいのだ。



ところが、上述の血液検査や吐息検査は、従来よりも負担が少ない。吐息検査などは「自宅」ですらできる可能性があるほど手軽である(機器も比較的安価で小型)。

そのため、こうした最新の病気判定技術は、病気の早期治療に力を発揮するものとして大きな期待を集めているという。また、病気判定の時間短縮、重症化の防止により、医療費の低減にも寄与するものと思われる。




ナノの技術は「薬」の形も大きく変えようとしている。フィリップ・カントフ医師(ダナ・ファイバーがん研究所)の目指すのは、「副作用のない薬」である。

「副作用」とは、薬が病気以外の部分にも作用することによって生じる。逆に考えれば、薬が「病気の部分だけ」に作用すれば、副作用は起こらないということでもある。

先にも述べたように、病気の部分には「特定の型」が存在する。そこで、その特定の型にだけ薬をくっつくように調整すれば、病気の部分にだけ薬が効くことになる。つまり、副作用がなくなるということだ。



通常、ガン細胞に到達する薬は「2〜3%」に過ぎないのだという。残りの97〜98%の薬は、健全な細胞を傷つけてしまう。これが副作用であり、そのため薬の濃度を上げることは、ガン細胞よりも30倍〜50倍も自分自身を痛めることになってしまう。

ところが、ガンの薬がガン細胞だけを狙い撃ちにできるのであれば、薬の濃度を今の20倍くらいにまで高めても、副作用は起こらないのだという。



具体的には、薬を「ナノ・サイズのカプセル」に詰め込んで体内に投与する。

カプセル表面には特殊な加工が施されており、ガン細胞にだけ付着できる突起物を無数に備えている。そして、ガン細胞に付着して初めて、薬を放出することになる。

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さらに、このカプセルのサイズは絶妙な大きさに調節されている。そのサイズとは、通常の血管の壁からは漏れ出ないが、ガン細胞の付着した血管の壁だけからは抜け出られるサイズである。

ガン細胞に侵された血管の穴は、通常よりも若干大きくなる。というのは、ガン細胞が血管の穴を広げて、そこから栄養を吸い取ろうとするためである。「ナノ・カプセル」は、そのスキに入り込めるサイズに調整されているのである。なんと巧みなことか!

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また、最近では「ワクチン」も人工的に造られる。

通常のワクチンは、病原体の毒性を薄めて(弱めて)人体に投与される。そして、その病原体から身を守ろうとして、体内には「抗体」がつくられる。この抗体をあらかじめ体内で作っておいて、病気の感染を防ごうというのが、ワクチンの狙いである。

ところが、人体に入れられる病原体は無害なほどに薄められているとはいえ、「本物」である。そのため、抗体が出来る前に、本当に病気にかかってしまうこともあるのだという。



そこで登場するのが、人工ワクチンである。本物ソックリに造られているが、「偽物」である。そのため、本当の病気にかかることはありえない。それでも、人体では病原菌の「抗体」が造られることになる。

「ウソも方便」とは言うものの、本物に偽せた人工ワクチンは実に有用である。人体に対しては詐欺行為であるかもしれないが、騙しててでも保険をかけておけば、イザというときに役に立つということでもあろう。



さて、次は「再生医療」を覗いてみよう。ここで登場するのは「人工コラーゲン」である。

コラーゲンというと「お肌の味方」というイメージもあるが、このコラーゲンには「細胞を増殖・分化」させる機能があるのだという。



コラーゲンというのはタンパク質であり、人体のタンパク質の30%以上がコラーゲンというほどにメジャーな存在である。原初の単細胞生物が細胞同士をくっつける「接着剤」としたのが、このコラーゲンであり、我々の身体もコラーゲンによりシッカリと結びついている(対する植物はセルロースにより結びついている)。

コラーゲンは細い細い糸状になっており、その一本一本の細さは、たったの数ナノ・メートル。これら極細の繊維が絡み合って、身体がバラバラにならないように要所要所を極めて強固に結合させているのである(骨と筋肉を結ぶ「腱」などもコラーゲン)。



今の人類は、このナノサイズのコラーゲン繊維を作ることまでできる。

そして、その人工のコラーゲンは、本物同様、細胞の増殖・分化を促し、失われた細胞を「再生」することもできる。

従来は困難とされた神経細胞(脳や脊髄)の再生も、この人工コラーゲンによって可能となる道が開けつつあるという。

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なんとなんと、技術の進化していることか。

これらの最新技術は、まだ実用段階に至っていないものも多いとはいえ、数年以内には実用化される見込みのあるものも多い。

いずれは、ナノレベルで病気を発見して、ナノレベルで病気を治療することもできるようになるのだろう。病気にかかった本人も、ナノレベルでは病気にかかったことも、治ったことも自覚できないかもしれない。



東洋には「未病」という考え方がある。

未病とは、病気が実際に発症する前の「潜伏した状態」のことであり、「自覚できないが、検査では異常が出る」という半健康・半病気の状態である。

実際に病気が発症した時には、たいていかなり進んだ状態のことが多い。虫歯も痛くなってからでは、かなりヤバい状態である。

2,000年前の中国の医学書(黄帝内経)には「未病」の記述が見られ、日本の江戸時代の「養生訓(貝原益軒)」にも記されている。東洋の卓越した医学は、ナノレベルの変化を読み取っていたということか。



東洋医学と西洋医学は、対極のものとして比較されることも多い。

東洋医学が「全体的」だとすれば、西洋医学は「部分的」であり、東洋が「統合」を目指すとすれば、西洋は「分析」に終始しているといった具合だ。

両者のアプローチは確かに異なるだろう。しかし、ナノという微小なレベルにおいて、両者は邂逅を果たしているようにも思える。



科学的には説明のつかなかった東洋の神秘は、ナノレベルにまで降りてきた西洋の分析により解明されようとしているのである。

この点、表面(上)から堀り進んできた西洋医学が、根っこ(下)にいた東洋医学と「出会った」ともいえるのかもしれない。



東洋と西洋に二分していた世界は、統合へと動いているのであろうか。そろそろ、時代の潮目が変わろうとしているのかもしれない。

そして、満ちた潮がまた引くように、再び分離し、そしてまた統合するのかもしれない。分裂するたびに、分離したそれぞれは成長し、再統合した時にはより大きなものとなる。

それは、分裂を繰り返す細胞そのままの動きでもあり、我々人類の進化の過程でもある。



ナノという不可視の世界は、現実という世界を見事に反映しているのかもしれない。

そのスケールは愕然と異なれども、そこには何かしらかの共通したモノが核として存在するようにも思える。






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出典:ナノ・レボリューション 「病が消える日」



posted by 四代目 at 07:53| Comment(0) | 医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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