2011年11月29日

放射能に汚染された海の調査報告書より。楽観的すぎた当初の予想。


2011年3月11日、ある漁師は福島第一原発の沖合い(25〜30km)の船上にあった。

「津波が原発の建屋に当たったのが見えた」というほどの距離である。

その時、彼が見たのは…。

「真っ黒い煙が出て、『ヒョウ(雹)』が降ってきた。バラバラバラーッと。とにかく、真っ黒い雲が凄かった。」



その黒雲は、その後の福島を予想だにしない運命へと巻き込んでいった。

「海」の汚染。これが予想以上に長引いている。

時とともに汚染が薄まらず、海の魚からは継続的に「放射性物質」が検出され続けているというのだ。



当初、海の放射能汚染は軽視されていたところがあった。

その理由は「潮流に流されて『拡散』していく」、つまり「薄まりやすい」というものであった。

原子力安全保安院からは「魚や海藻に取り込まれるまでには、『相当程度薄まる』」との説明がなされた。



しかし、あれから8ヶ月以上経過した現在(11月末)。

福島の漁業者たちは、いまだに「自粛」を強いられている。

魚をとるのが許されるのは、汚染の状況を見極めるためのサンプル採取のみである。



悲しいことに、それらのサンプルからは放射能物質が消えていかない…。

4月の「コウナゴ」から始まり、5月には「シラス」「ホッキ貝」「ムラサキ貝」「ムラサキ・ウニ」「アラメ」「ヒジキ」「ワカメ」。

6月は「アイナメ」「カレイ」「ドンコ」が加わり、7〜11月には「メバル」「カスベ」「ヒラメ」「クロソイ」「スズキ」なども。



これらのうち、国の基準値を超えたものは「コウナゴ(4月4日)」と「ドンコ(エゾイソアイナメ)9月5日」のみであるものの、魚介類19種類の100サンプル以上から、基準値以下の放射性物質が検出されている。

その汚染傾向を見ていくと、汚染直後(3〜5月)は「浅い海」の海産物の汚染が目立っていたのが、夏を過ぎてくると次第に「深い海」の魚たち(底モノ)に汚染が及んできていることが分かる。

つまり、放射性物質は何らかの原因で、「海深く」へ及んで行っているのである。



その理由の一つには、「生体濃縮」が挙げられている。

生体濃縮とは、食物連鎖(食う食われる)によって、より大きな生物にドンドン汚染が蓄積されていくというものである。

海水の放射性物質は、海藻(アラメなど)に取り込まれることで「約10倍」になり、ウニなどに取り込まれることで「約50倍」にもなるという実験結果も出た。

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通常の放射能検査で調べるのは、魚の「身の部分」のみで、魚の「内臓」までは検査しない。

ところが、放射性物質がより溜まりやすいのは「内臓」の方である。こうしたサンプル検査の穴も、生体濃縮の実態を見えづらいものとしてしまっているようだ。



海の表面の汚染は流されても、海深くには汚染が蓄積されている…。

さらに、その汚染は「南下」している傾向も明らかにされてきた。

海底の土を調べてみると、福島沖よりも茨木沖のほうが濃度が高かったりもする。

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これは奇妙な事だ。

なぜなら、太平洋沿岸には「黒潮」という巨大な流れが「下から上(南から北)」、そして日本から離れる方向へと向きを変えて行く。

ところが、汚染の実態をみると、汚染は太平洋沿岸に留まり、巨大な流れに逆らって南下しているように見えるのだ。



その理由の一つとして指摘されているのが「沿岸流」の存在である。

沿岸流というのは、太平洋沿岸に沿う形で「南下」している。黒潮に逆流するのは、地球による自転の力が関係しているとのこと。

放射性物質はこの沿岸流により、福島沖から茨城、そして千葉へと流されて行っているようである。

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海の汚染には、もう一つ深刻になる事情がある。

それは、陸上の「除染」である(除染とは、放射性物質の水などで洗い流すことである)。

さて、陸上で除染された放射性物質は、どこへ向かうのか?

海しかない。



よく福島の小学校などでは、排水溝からドンでもない汚染が発見されることがある。

それは、校舎の巨大な屋根が、雨などに含まれる放射性物質を、「排水溝」に集めてしまうためである。



それと同じように、福島山系、そして関東山系の山々は巨大な屋根の役割を果たし、排水溝がそれを集めるように、大きな河川が放射性物質を一つの流れに集約する。

ある河川の実地調査によれば、事故後に放射性物質の濃度が120倍にも跳ね上がっているところもある。

そして、それらは海へと流れ出る。そして、深海にたまる。

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大きな河川の河口では、高濃度の放射性物質が検出されることが、ままあるという。

除染の有無に関わらず、山々には自然と放射性物質が溜まりやすい。そして、それらもやはり最終的には海へと向かうのである。

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海の汚染は、消えてなくなるのではなかったのか?

「福島沿岸で検出された高濃度の放射性物質の多くは、黒潮によって太平洋の沖へと、すみやかに移送され希釈されました。」

こんな公式見解が虚しく響く。

意に反して、放射性物質は日本近海に留まり、海の底を南下している可能性が高い。



放射性の「セシウム」というのは、水に溶ける性質があるという。

それらは細かい粒子(砂など)に吸着して移動したり、海中を浮遊したりもする。

その結果として、海底近くを泳ぐ魚たちは汚染されやすくもなる。これはサンプリング調査の結果とも一致していることである。



放射性物質というのは、なにもセシウムばかりではない。

科学者たちが懸念するのは、より長く持続する放射性物質(ストロンチウム、プルトニウムなど)である。

「見落としはいくらでもある」という。



たとえば、放射性の銀110m(エム)。

民間の調査によれば、海水中では「検出せず」となる銀110mも、アワビの肝などからは、セシウム以上の濃度となり検出されることもあるという。生体濃縮の度合いは予期できるものではない。

先述の通り、肝などの内蔵は公的機関の調査「対象外」。さらには、銀110mの公的な規制値は存在しない。

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不幸にして、太平洋岸の漁業者たちは「宙ぶらりん」の状態に置かれている。

公的検査の不十分さが人々の疑心暗鬼を生み、それは風評となって何倍にも拡散する。海の放射性物質が予想以上に拡散しなかったのとは、まったく対照的である。



国が補償するのか?

そうもいかない。彼らは「自粛」していることになっている。

しかし、「福島産」というだけで返品されてしまう悲しい現実もある。



「海の放射能汚染」

これは今回の原発事故に特有のものである。

チェルノブイリは海に面していなかった。



事故から3週間後(4月4日)、福島第一原発の放射能で汚染された水1万トン以上が、海へと放出された。

その説明は、「近海の魚介類を一年間にわたり毎日食べたとしても大丈夫」となされた。

しかし、今、近海の魚介類を食べる人は誰もいない。自粛という名の禁漁は今も続いているのである。



海洋に放出された放射性物質(セシウム137)は、公式発表によれば「15ペタベクレル」。

聞いたこともない単位である。「ペタ」とは1,000兆。

その数字の意味も不明ながら、海洋への複雑な影響も誰も分からない。




こうした事実を知らなければ良かったのだろうか?

しかし、知らないことが問題を解決することにつながるのだろうか。

原発関係者は、海への影響を「知らずに」、汚染水を放出したのである。

もし、「知らずに」放射性物質を体内に取り込んだらどうなるのだろう?

人智の浅はかさを痛感するばかりである。



アンコウ屋の親父は、怒りを隠さない。

客足は遠のくばかりだ。

漁師たちの心中も穏やかではない。来る日も来る日も海のゴミ集めばかり。



あの日の真っ黒い雲。

この暗雲は、いまだ太平洋を暗く覆い続けている…。




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出典:ETV特集
「ネットワークでつくる放射能汚染地図(4)海のホットスポットを追う」


posted by 四代目 at 06:59| Comment(0) | 放射能 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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