2011年11月25日

ユーロ危機に笑う人、泣く人…。恐ろしくもシナリオ通り。


闇の深まるユーロ危機の渦中にあっても、「大儲け」している人々もいる。

ヘッジファンドを運営する「ルイ・ギャルゴア」氏も、その一人である。

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彼の戦略は、危機が深まれば深まるほどに大金が流れ込む仕組みになっている。

主なターゲットは「CDS(クレッジト・デフォルト・スワップ)」。

CDSというのは、国債にかかる「保険料」のようなものであるから、その国の国債が不安視されるほどに値段が「上昇」する。



具体的なCDSの価格は、国債の「利回り」と連動して上昇するものと考えても差し支えない。

安全な国債ほど利回りは低く(CDSは安い)、危険な国債ほど利回りは高い(CDSは高い)。

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ある意味、利回りというのは、金融商品の「危険度」を表している。

たとえば、利回り「1%」の国債よりも、利回り「10%」の国債の方が危険度が高い。

その危険を承知で引き受けるからこそ、「利子」というご褒美も高くなるわけだ。



CDSは国債の「保険料」であるから、安全な(金利の低い)国債ほど安く、危険な(金利の高い)国債ほど高くなる。

ギャルゴア氏は、このCDSの動きに目をつけたのだ。



彼はCDS(保険料)が安いうちに、ギリシャ国債のCDSを大量に購入。

その後、ギリシャは混迷を深め、ギリシャ国債はみるみる金利が急上昇。同時に、CDSも急上昇。



ギャルゴア氏は頃合いを見計らって、相当に値上がりしたギリシャ国債のCDSを「売却」。

その結果、投資資金は4倍になって帰って来たという。作戦は目論見通り大成功である。



現在のギリシャ国債の金利は30%を超えるという異常な水準である。

ギリシャはこの巨額の利払いに耐え切れず、ヨーロッパに救済を要請。それでも耐え切れず、ついには借金の半分をチャラにしてもらうことになった。

金利が30%を超えるというのは、それほどに危険な水準なのである。



汲々のギリシャを横目に、ホクホクのギャルゴア氏。

さて、次は…、「イタリア」だな。



ギャルゴア氏がターゲットを定める目安は、その国の財政状況である。

借金が多い、経済成長が鈍い…となると、いずれその国の国債は信用を失う。

収入が伸び悩んでいるにも関わらず、借金だけが増え続ける。そんな状況におかれた国家が持続可能なわけはない。

じつにシンプルな考え方である。



現在のユーロ危機とは、そのくらい単純な仕組みなのである。

国の借金が増える。そして、その借金が返せそうになくなる。すると、その国の国債は信用を失い、国債の利回りは上昇する。

ただでさえ払えそうもない借金。さらにその金利が上昇するとなれば、すっかり悪循環。他の国に助けてもらうより他になくなる。

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ギリシャ、アイルランド、ポルトガルは、皆同じ過程をたどってニッチもサッチもいかなっくなっているのである。

そして、次に同じ道をたどるのは…、「イタリアだろう」とギャルゴア氏は目をつけたわけである。



その結果は…、大当たり。

イタリア国債の利回りは急上昇。危険水域である7%を一気に突破(7%越えが救済を受ける目安とされている)。

8年半にも及んだベルルスコーニ首相の脂ぎった首まで吹っ飛ばしてしまった。

このタイミングで、ギャルゴア氏はイタリア国債のCDSを売却。

「グラッチェ、イタリー」

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シャンパンで祝杯を上げながら、次のタヌキの皮を品定めするギャロップ氏。

次は…、「フランス」だな。



現在のフランスの「格付け」は世界最高レベルであり、国債の利回りも低い(安全な)水準にある。

しかし、その最高ランクのフランス国債の信用は、格下であるはずの日本やブラジルなどよりもすでに低くなっている。



つまり、フランスの目下の懸念は「格下げ」である。

アメリカも格下げされる状況にあっては、いつフランスが格下げされてもおかしくはない現状がある。

もし、格下げされれば、フランス国債の利回りが上昇するのは避けられない。



そうなれば、あの悪循環がスタートするのである。

そして、ギャルゴア氏が再び勝利の美酒に酔うのである。



ユーロ危機が騒がれはじめて、すでに2年ほどが経過しているが、この過程は恐ろしいほどに「シナリオ通り」に進んでいる。

ギャルゴア氏は、このシナリオ通りに事を運んでいるだけである。

彼は特別な世界観を持って投資をしているわけではない。新聞やメディアが予測していたような、世間一般の見解のままに動いているのである。

すなわち、ヨーロッパ各国は「分かっていながら」も、衆目が予想した最悪のシナリオをバカ正直に歩んでしまっているのである。



思えば、ユーロ危機が表面化したのは2年前(2009秋)。

ギリシャの政権交代により、ギリシャ財政の予想以上の悪化ぶりが明るみに出されてからだった。



当時、ギリシャは「犬のシッポ」と思われていた。

ギリシャの経済規模は、ユーロ圏の3%にも満たない。

ドイツやフランスなどのユーロ圏の大国がその気になれば、口笛を吹きながらでも軽々と救済できる規模だったのである。



ところが、大国はそうしなかった。

「勤勉なドイツ人が真面目に稼いだ金を、ギリシャ人のバカンスに使われるのは納得いかない」として、容易には救済しなかったのである。

救済はつねに「遅すぎるし、少なすぎる」と非難されがちだった。



そして、現在。

ヨーロッパどころか、世界全体が「犬のシッポ」に振り回されている。

震源地のヨーロッパでは、ユーロ圏中核国であるイタリア、フランス、ドイツにまで火の手が及びつつある。



ユーロ圏の経済規模は、1位ドイツ、2位フランス、3位イタリアである。

すでに火の手は3位のイタリア国債を炎上させている(ちなみに、国債残高ではイタリア国債がユーロ圏で一番多い)。



最悪のシナリオに従えば、次は二の丸フランス、そして遂には本丸ドイツである。

フランスは格下げの影に怯えている。

最強のドイツですら、悪い兆しが現れつつある。



先日のドイツ国債(10年物)の入札は、悪い兆しの一つである。

なんとドイツ国債が「札割れ」である。応札率は61%。つまり4割近くに買い手がつかなかったのだ。

見たことも聞いたこともないほどの異例の事態である(ドイツ連銀が残りの全てを買い取った)。



ヨーロッパ各国は、金融市場に翻弄され続けている。

苛立ったドイツのメルケル首相は、「誰がボスなのかを市場に分からせてやる」と断言していた。

ルクセンブルクの首相は、「拷問の道具なら地下室にある」と言っていた。

また、「アングロサクソンは、ずっとユーロを毛嫌いしており、ユーロを潰す気だ」と言う人もいる。



光の見えないユーロ危機に、ヨーロッパ首脳たちの「被害者意識」は軒並み高まっている。

その様は、あたかも金融市場は「敵」であり、ユーロ危機が悪化を続けるのは、その凶悪な敵のせいだと言っているようである。

「我々は適切な対応をとっている。それでも良くならないのは、市場の悪意によるものだ」



彼らに言わせれば、ギャルゴア氏は悪人の一人であろう。

かのベルルスコーニ首相(イタリア)は、辞任声明で「投機筋の仕業だ」と言っていた。



しかし、投機筋と言われるギャルゴア氏に敵意はない。

投資家として適切な行動をとっているだけだと言う。神の見えざる手の一本である。

「政府は正すべきことを正さなければならない」



かつて、ジョージ・ソロスという大投資家は、イギリス政府を打ち負かした(1992)。

その結果、イギリスはERM(欧州為替相場メカニズム)からの脱退を余儀なくされ、ユーロ導入を断念せざるを得なくなった。



ソロス氏の信念は、「政治統合なしに通貨を統合することは危険である」というものであった。

当時のイギリスは、ユーロ参加へ向けて自国通貨が「高く固定」されており、その悪影響として、経済が後退し、失業率も上昇していた。

ソロス氏は、イギリスのユーロ参加は不利益であると判断したのである。そして、実力でそれを阻止したのである。



現在、イギリスがユーロを導入しなかったことは、ひとまずの朗報となっている。

そして、ユーロ危機の本質には、ソロス氏が懸念した通りの「政治統合なしの通貨統合」の弱点がある。



同じ通貨を使う国々の政治がバラバラであるために、話が一向にまとまらず、一向に進まないのである。

その結果、決断は遅れ、救済は後手後手に回り、火を見てから水を汲みにいっているような状態である。



「政府 vs マネー」の対立構図は、当面続きそうである。

そして、そのトバッチリは確実に庶民に及び続ける。

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ギリシャの街中では、回収されないゴミが山と積まれている。

イタリアの小学校では、雨漏りを直すお金も、トイレットペーパーを買うお金も与えられていない。

それもこれも、政府が生んだ巨額の借金を返すために、削減に継ぐ削減を余儀なくされている結果である。



公的サービスの低下により、身軽な人々はヨーロッパの国を離れつつある。

ギリシャ国民であったヴェルギス氏は、家族ともどもオーストラリアの国籍を取得し、ギリシャを後にした。



ポルトガルのコスタ氏は、「アンゴラに行くかもしれない」と言っている。

アンゴラとはアフリカ南西部の国で、ポルトガルの旧植民地である。

かつては植民地(アンゴラ)から宗主国(ポルトガル)へと人々は移動したものであるが、今やその流れは逆流を始めているようである。

内戦が終結したアンゴラでは、現在石油ブームに沸いており、来年(2012)の経済成長は12%という高い数字が見込まれている。



ポルトガル政府の統計(2009)によれば、約4万人のポルトガル人が国外へ移住している(アンゴラへ2万3,700人、ブラジルへ1万6,900人)。

民間による最新の統計では、その数は倍近くの7万人以上。年々増加傾向にあることがうかがえる。



身軽な国外へ旅立つのは、若いか、才能があるか、エネルギーがあるか、そういった国家としての一番の働き手たちである。

そして、残される人々は…、お金がないか、高齢か…。



日本にも魔の手は確実に回りつつある。

ユーロ危機のあおりを受けて、「厚生年金基金」の多くがマイナスの運用成績である(平均マイナス7.4%)。

運用見込みは5%前後のところが多いのであるから、その差は10%以上。急激な勢いで、厚生年金基金が減少している。

つまり、高齢化社会に黄色信号が灯り始めているのである。



現在、日本国債の金利は世界一低い部類である。

しかし、借金は多く、景気は低迷している。

ところが、日本の通貨・円は、国の景気が悪化しても買われるという世界でも不思議な通貨の一つである。

これには、日本の輸出産業も悲痛な面持ちにならざるを得ない。



たとえば、キャノンは売り上げの80%以上が海外である。

円高に対処するために、徹底して経費、そして現場のムダを削減せざるを得ない。

足の動き一歩=0.8秒、振り向き90°=0.6秒、手の動き20cm=1.0秒…。

涙ぐましいまでにムダを洗い出し、一つでも多くのデジカメを作り出そうとしている。

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かたや、ギャルゴア氏は…、世界が荒れるほどに大金が転がり込んでくる。

世界の乖離は予想以上に激しいようである。



ヨーロッパの空が晴れ上がるのは、いつの日のことであろうか?

現状のままでは、痛みだけが腫れ上がるばかりである。




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出典:NHKスペシャル
「ユーロ危機 そのとき日本は」


posted by 四代目 at 07:16| Comment(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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