「ボーイング787(ドリームライナー)」
アメリカの航空会社「ボーイング」が開発・製造し、先ごろ(10月26日)日本の航空会社「全日空(ANA)」が初の営業飛行を行ったことで話題となった旅客機である。
アメリカのボーイング社が開発したとはいえ、その機体の70%近くが「海外メーカー」に外注されているため、この旅客機には世界中の最高技術が結集されている。
日本企業も数十社が参加し、その担当比率は35%と非常に高く、当のボーイング社と同等の比重を占めている。
担当比率の高さもさることながら、日本の任された箇所は「主翼(三菱重工)」「胴体(川崎重工)」などと極めて重要な部分である(ボーイング社が主翼を海外企業に任せるのは初めて)。
なぜ、日本が重要な部分を任されたかといえば、日本のもつ「炭素繊維」の技術が世界に秀でていたためである。
ボーイング787(ドリームライナー)の機体は従来のアルミニウムではなく、炭素繊維で出来ているのだ。
炭素繊維強化プラスチックなどの複合材の使用割合は約50%。
残りの50%は炭素繊維に適さないエンジンなどであるため、実質上、機体は完全に炭素繊維が元になっていることになる。
しかも、787の巨大な胴体は、継ぎ目のない一体成型である。
炭素繊維メーカー「東レ」は、ボーイング社が使用する炭素繊維材料の全量を供給する長期契約を結ぶほどに信頼されている。
そして、この炭素繊維が使われたことこそが、ボーイング787をして「次世代型」と称せられるようになった所以(ゆえん)でもある。
炭素繊維は金属よりも軽く、かつ強度が高い。
機体が軽ければ、それだけ「燃費」も良くなる。
テスト飛行をした時(シアトル → 日本)、パイロットは「こんな少ない燃料で、日本まで着けるかな」と心配になるほどだったという。
従来機に比べ、787の燃費は20%向上している。
さらにサビない。
金属でできた飛行機はサビが怖いために、機内の湿度は一桁台とカラカラに乾燥させている。
それに対して、サビの心配が小さい787では、加湿器でシットリさせることが可能になったという。
なるほど、炭素繊維の利点は大きい。
思えば、人類の歴史は石器から青銅器、さらには鉄器へと進化して来た。
道具の素材が時代を切り拓き、最新の素材を操れた民族は大いに栄えた。中東ではアッシリア、日本では出雲の民などが鉄の製造に長けていたという。
鉄器から波及した種々の金属文化は長く続き、現代もそうした時代の延長にある。
ところが、炭素繊維というのは、それらの金属文化とは一線を画する存在である。
ボーイング787(ドリームライナー)が象徴するように、まさに次世代だ。
今までは、重たい金属の塊(かたまり)を動かすために、高出力の「石油」が大量に必要だった。
ところが、軽量な炭素繊維であれば、従来ほどに燃料を必要としなくなる。
つまり、金属から炭素繊維へと替わることで、我々が大いに依存してきた化石燃料からの脱却の道が見えてくるということだ。
金属の利点は頑丈さ。そして、弱点は重さや腐食(サビ)。
炭素繊維は軽くて頑丈(鉄の4倍の強度)。しかもサビない。
もはや選択は決まっているようにも思える。
加えて、化石燃料への依存度をも減らすことができる。
世界の歴史は、どれほど化石燃料によって引っ掻き回されてきたことか。
第二次世界大戦において、日本がアメリカと開戦せざるを得なかったのも、石油の輸出を止められたからであった。
中東の情勢がなぜあれほどに不安定なのか。その原因も石油であろう。
もし、新しい時代が金属も石油も必要としなくなったら?
まったく世界は変わるのではなかろうか?
エネルギーは多様化し、一極集中(石油)の利権構造は崩壊。
もしかしたら、自然エネルギーからでも十分な動力が得られるかもしれない。軽いモノは小さな力でも動かせる。
炭素繊維の秘める可能性は大きい。何より軽量であることが最大の利点である。
重い重い時代は、無駄にエネルギーを必要とする。
新しい時代は、軽々としたいものである。極力小さなエネルギーでまかないたい。
終わりの見えつつある化石燃料にいつまで頼れるのか?
頓挫しつつある原子力の未来は?
将来のエネルギー供給は、より不透明になってしまっている。必然的に、省エネルギーという道を模索しなければならない。
省エネにとって、軽さは大きな味方となりうる。
炭素繊維がふんだんに使われたドリームライナーは、まさに次世代へのドリーム。
この飛行機が空に増えれば増えるほど、時代は塗り替えられていく。
現在、ドリームライナーは世界中から847機が発注されている。
その機体の炭素繊維が日本の技術であるということは、日本民族として大いに誇らしい。
素材が時代を切り拓くのであれば、炭素繊維の高い技術をもつ日本民族が、それを成すということにもなる。
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出典:ワールドビジネスサテライト
特集「787の実力に迫る」

