「自分のエネルギーは自分でつくる」
そんな時代が来ようとしているのであろうか?
「熱電発電」という発電方法は、その名の通り、「熱」が電気に変わる仕組みである。
「人の体温」でも発電が可能だという。

なぜ、熱が電気に変わるのか?
それは、電気の元である「電子」が、「温度の高いところから温度の低いところへと向かう」という性質を持つからである。
これを称して「ゼーベック効果(Seebeck feedback)」という。
今から100年近く前(1821)、ドイツの物理学者「トーマス・ゼーベック」は、金属の片側を熱すると、そこに「電流」が流れることを発見した。

熱エネルギーを与えられた金属内では、電子の運動が活発化し、その活性化された電子が温度の低い部分へと移動するのである。
それはあたかも「温度差」によって「勾配(傾斜)」が生じ、その坂を電子が転がり落ちていくようなものである。温度差が大きいほどにこの勾配はキツくなり、その結果、大きな電流を生じることになる。

この「熱電発電」はすでに実用化されている。
たとえば、宇宙を旅し太陽系を離れようとしている惑星探査機「ボイジャー」には、熱電発電装置が搭載されている。
また、工場などでは排熱を利用して照明などの電力源としているところもある。

我々の現代生活においては、あらゆる場面で無駄に熱が捨てられている。
お湯を沸かせばヤカンやコンロ、給湯器などから熱が捨てられる。テレビやパソコンは使うほどに熱くなる。自動車の排気ガスを出すマフラーも熱々だ。
今後、お湯を沸かす熱をキッチンの照明にしたり、テレビの熱でビデオを動作させたり、自動車の排熱を電気に変えて再利用するなどの技術が実用化する可能性がある。
いままでの文明は「一方的に熱を出しては捨てるのみ」であったが、これからの時代は「捨てる神あらば、拾う神あり」。捨てられた熱(廃熱)を有効活用する道へと向かうのかもしれない。
いつまでも化石燃料にばかりも頼れない現実もある。
石油の産出量のピークは2010〜2020年頃と言われている。今までは比較的容易に採掘できた石油も、これからは深海や氷の海にまで触手を伸ばさざるをえず、採掘には大きな危険も伴うようになる。
新たな発電技術の開発は、思っている以上に「急務」なのかもしれない。
建設機械の「コマツ」では熱電発電の研究が盛んに行われており、その試算によれば、熱電発電のコストは「8.9円(kWh)」。
太陽光「66円」や風力「10〜24円」よりも現実的であり、水力「13.6円」や石油「10.2円」よりも割安である。
熱電発電の短所は、廃熱が社会全体のあらゆる場所に分散しているため、まとまった大きな電力を取り出しにくいことである。
しかし、逆に考えれば、あらゆる場所に電力の源は存在するということであり、身の回りの小さな電力は自給可能になるとも考えられる。
社会に散らばった小さな廃熱は、「1円玉」のように価値が低いかもしれないが、その「1円玉」でも大量に集まれば「1億円」にも「1兆円」にも成りうるのである。

この分野の研究はまだまだ進化し続けている。
昨年(2010)、日本の研究者(齊藤英治教授)は「絶縁体」でも「ゼーベック効果」が起こることを発見した(正確にはスピンゼーベック効果」)。
「絶縁体」というのは、内部の電子が移動できないため、電流の流れない素材である。
ところが、その絶縁体の内部の電子は、動けなくともその場で「回転(スピン)」することが出来た。そして、その力を電力に変えることが出来たのである。
この発見は、従来の常識を覆す大発見として、学界を大いに沸かした。
現代文明はまだまだ発展途上。
知らないことは山のように我々の前に積み重なっている。その山を一歩一歩登るたびに、我々の生活は快適になってゆく。
いずれは、電力に今ほどお金を払わなくてもよい時代が来るのかもしれない。
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出典:サイエンスZERO
「身近な熱を電気に変えろ〜実用化迫る!熱電発電」
私は熱電発電に興味があります。
とってもわかりやすくありがとうございます。