今から20年ほど前、カナダ(ケベック)で「大停電(1989)」が発生する。
この大停電の原因は「巨大な太陽フレア」であった。
「フレア」とは太陽で起こる「大爆発」のことである。
太陽フレアは、太陽系で最大の爆発現象であり、その威力は水素爆発10万個分とも1億個分とも言われている。
その「爆風」や凄まじく、太陽系で最遠の惑星「海王星」まで到達する。
幸い、地球の周囲には「大気圏」と「磁気圏」という二重の防御圏があり、通常の太陽フレアくらいではビクともしない。副産物であるオーロラという美しい現象を楽しむ余裕すらある。
しかし、大規模な太陽フレア(大爆発)となると話は違う。
太陽系惑星のうちでも、地球は太陽の至近距離に位置しているため、その爆風たるや強烈である。さすがの地球の防御圏(大気圏・磁気圏)でも防ぎ切れない。
観測史上最大といわれる太陽フレアが起きたのは、今から8年前の2003年。
地球の磁気圏の外側にある「人工衛星」などはモロにその衝撃を受けた(わずか8分で到達)。日本の探査機「はやぶさ」も太陽光パネルが回復不可能なほど破損している。
宇宙空間にいる宇宙飛行士なども放射線で「被曝」する危険性があった(最悪、致死量に達することもある)。そのため、国際宇宙ステーションの宇宙飛行士たちは緊急避難を命ぜられた(放射線の到達までは数時間を要する)。
幸い、この時のフレアは地球をそれたため、地球上への被害は免れた。
しかし、上述の1989年のカナダ(ケベック)においては、太陽フレアにより電力網が破壊され、9時間に及ぶ「大停電」が発生したのである。
なぜ、太陽フレアが停電につながるのか?
太陽フレアが起きて2〜3日後に、太陽のコロナガス(プラズマ)が地球に到達する。
強い磁場を帯びたプラズマが地球の磁気圏に衝突することで、大規模な「電気エネルギー」が発生し、この巨大すぎる電気エネルギーが地球の発電設備をパンクさせてしまうのである。
現在では、「宇宙天気予報」というのが存在し、太陽の一挙手一投足は一時も休まず監視されている。
なにせ、現代社会は電気なしには成り立たない。大規模な太陽フレアが起これば、現代社会は完全にストップ。食料や水すら手に入らなくなる危険性がある。
幸い、地球に被害が及ぶのは太陽フレア発生から2〜3日後である。この間に、ささやかながらも何らかの手が打てる可能性があるのである。
今後、大規模な太陽フレアが発生することはあるのだろうか?
太陽は地球のような岩石ではなく、燃えたぎる火の海である。そのため、地球の海が回流するように、太陽の火の海も40年かけて大循環をしている(表面的なものではなく、内部深くから循環している)。
この循環スピードが速くなるほど、爆発エネルギーは太陽内部に充満していることになり、耐え切れないほど早くなった時に大爆発が起こる。
その周期はおよそ50年。
また、太陽には11年ごとに「極大期」と「極小期」を繰り返しているが、大循環のマックスと「極大期」が重なることで、大爆発の可能性はグンと高くなる。
カナダで大停電が起きた1989年は太陽の極大期に重なっている。
2003年の史上最大の太陽フレア発生時は、太陽が極小期に向かっている時期だったので、この時の大フレアは少々異常であった。

太陽の内部循環の速度は「1986〜1996年」の間に最も速くなった。しかし、この時に溜め込んだエネルギーは十分に解放されていないと見られている。
つまり、現在においても太陽の巨大な爆発エネルギーは内部に留められたままなのである。
ところで、現在の太陽の活動の状況は?
2007年末に太陽は極小期に入った。翌年の8月には太陽の黒点はゼロに(黒点が多いほど太陽活動は活発である)。
黒点がゼロになるのは1913年以来であり、実に100年ぶりの元気のなさであった。2009年も1月、2月、8月が黒点ゼロ。この辺りが極小期の「底」であった。
ようやく2009年後半からは、徐々に太陽の黒点は増えだし、この傾向は現在まで続いている。
今後の予測として、来年(2012年)は黒点の増加が続くと見られている(宇宙天気情報センター)。
しかし、前回の黒点ピークと同様、次回のピークも低めに終わる可能性が高いようだ。
ちなみに、1980年頃と1990年頃の極大期には黒点の数(月平均)が200を超えていたが、前回の2000年頃はピーク時でも黒点の数(月平均)は150程度であり、それ以前のピークよりも2〜3割減であった。
最近の太陽活動の傾向は、極小期が長く続き(通常の11年周期以上)、極大期においてもピークが低めになっている。
そのため、「地球は氷河期に入るのでは?」と囁かれたり、「今回、太陽の極大期のピークが2012年までずれ込んでしまったのは、マヤ暦の終末予言の通りだ」との憶測も飛び交っている。
いずれにせよ、太陽の活動が地球に多大な影響をおよぼすことは、紛れもない事実である。
しかし、近年の太陽の活動は過去からの予測を逸脱することが多く、今後の予想が困難となってきている。そのため、太陽活動を巡る論争は、氷河期から史上最大の太陽フレアとまで両極端である。
もし発生すれば、現代社会に多大なダメージを与えかねない巨大太陽フレア。
その前兆を一刻も早くとらえんと、科学者たちは太陽を凝視し続けている。
先月9日にも巨大な太陽フレアが発生したばかりだ。
画像:地球ドラマチック
「月と太陽の神秘(2)皆既日食が明かす太陽の力」