ダーウィンは悩んだのだという。
「なぜ、『眼』のような複雑なものが『自然淘汰』から生まれたのか?」
「これは、この上なく『不条理』なことだ」
ダーウィンの信じる「進化論」においては、「眼」はその構造が複雑すぎるために明確な説明を与えられなかったのだ。
眼の複雑さは科学的な解明が困難だったため、神学者(ウィリアム・ペイリー)は「神の奇跡の証拠」であると述べている。
「眼」はどのように進化したのか?
5億4,000万年前、「カンブリア大爆発」というのが起こる。
これは実際の大爆発ではない。この時期に生命が「爆発的」に多様化(進化)したという意味である。
この大爆発以前の地層からは、動物の化石がほとんど見つからない。
ところが、この大爆発を境にして突如、「生物のラインナップ」が出揃うのである。まさに爆発的に。
はたして、この大爆発以前は単純な生物しか存在しなかったのか?それとも、ただ化石が見つからないだけなのか?これはいまだもっって謎の領域である。
ただ、はっきりした事実は、大爆発以降の生物は「高度に進化している」ということである。
なぜ、いきなり進化したのか?
この問いの答えの一つに、「生物が『眼』を獲得したからだ」というものがある。アンドリュー・パーカーの「光スイッチ説」である(1998)。
生物の歴史上、初めて『眼』をもった生物は「三葉虫」だったという。
眼を持ったことは圧倒的な強みであった。なにせ相手はこちらが「見えない」。三葉虫は目の見えない生物を「食べ放題」である。
しかし、眼という特権は三葉虫の独占特許ではなかった。次々に眼をもった生物が現れる。
こうして、あたかも「軍拡競争」のように、眼を持つ生物たちによる進化合戦が激化し、生物は一気に多様化した。
これが、「光スイッチ説」による「カンブリア大爆発」の説明である。
眼によって「光」をより正確に感知できるようになったことが、進化を爆発的に加速させたというのである。
「眼の進化」をもう少し詳しく見てみよう。
眼の最も単純なカタチは、「球」と考えれば良い。この球が「光」を感じるのである。
しかし、単純な球では「光」がどの方向から差しているのかが分からない。分かるのは「明るいか、暗いか」だけである。
そこで、その球に「へこみ」ができた。
へこんだ部分ができると、「へこみ」によって球の中に「光と影」ができる。
この「光と影」を感知することにより、光がどの方向から差してくるのかがより正確に分かるようになった。
ここに来て、ようやくエサ(もしくは敵)のいる「方向」が正確にわかるようになるのである。
そして、光の方向性を捉えたことで、生物は爆発的な進化をスタートさせることとなる。
ダーウィンの進化論は、眼の複雑化する過程に対応しきれない。
ところが、ある日本人研究者(笹井芳樹氏)が、この眼の進化に新たな光を見出した。
笹井氏によれば、眼は「勝手にできた」のである。
実際、笹井氏は眼が「勝手にできる」様子を実験で証明している。
その方法は極めて単純明快。
ES細胞を一定の培養液の中に浮かべて、一定の環境に置いておくだけである(ES細胞とは、何にでも変化できる万能細胞のこと)。
そうして、待つこと約1ヶ月。勝手に眼が出来ている。
光の方向性を感知する「へこみ(眼杯)」がシッカリと出来ているのだ。
笹井氏の研究は世界的に賞賛され、「Making Eyes」、眼を作った男として「nature誌」の表紙を飾った。
我々はややもすると、「脳ミソ」が細胞すべてを統括しているかのように誤解してしまう。
ところが、実際の現場では、細胞たちが結構勝手にうまいことやってくれているようだ。
「眼をつくりなさい」という指示を出さなくとも、勝手に眼を作ってしまう。
かえって、「好きなように作っていいよ」といって、環境さえ整えてやれば、細胞たちは見事な生物を作り上げてしまうのである。
これは脳ミソが「考えて」出来るようなことでは決してない。
まさに「神の奇跡」としか言いようがないのかもしれない。
細胞たちは明確な指示がないところでは、「試行錯誤」を繰り返す。
3歩進んだかと思うと、2歩戻る。
その様はまるで「酔っぱらい」のようだと表現する科学者もいる。
「フラフラしている」というと、現代社会では否定的な意味にしかならない。
ところが、細胞の世界では「ふらふら」することで、あらゆる可能性を試している、すなわち試行錯誤しているのであって、決して遊んでいるわけではない。
そして、その「ふらふら」の結果、偉い脳ミソが考えもつかないようなモノまで作り上げてしまうのである。
若者たちが「ふらふら」することは、故(ゆえ)なきことではない。
それは立派な「試行錯誤」である。
むしろ、立派な大人たちも頑張って「ふらふら」しなければならないくらいである。
意味のないこと、無駄なこと、それらを排除してばかりでは、いずれ一歩も前に進めなくなってしまうかもしれない。
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出典:サイエンスZERO
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