月は「一年におよそ3.5cm」ずつ地球から遠ざかっている。
月が離れすぎると、地球には数々の異変が起こると言われているが……。
月の誕生は「45億年前」と考えられている。
45億年前、グツグツと煮え立った「原始地球」に、火星ほどの大きさ(地球の半分ほど)の星(テイア)が「激突」。
その激突には「45°の角度」がついていたため、地球は決定的な破壊を免(まぬが)れた。しかし、その凄まじい衝撃により、地球のマントル(核)の一部が破壊されて地球周辺に撒き散らされる。
そして、それらの破片が集まって「月」ができた。月ができるまでに要した時間は、「わずか一ヶ月」と言われている。
「テイア」の激突は、地球に破滅的なダメージを与えたものの、その副産物としてできた「月」によって、地球は恒久的に守られるようになった。
月は地球の何を守っているのか?
「地球の軸(地軸)の傾き」の角度(現在23.5°)を守っているのだという。
玉である地球は本来コロコロと転がりやすい。ところが、地球と月がお互いに引っ張り合うことにより、地球は横倒しになることなく、キリッと立った状態をキープできているのだそうだ。
できたてホヤホヤの「月」は、地球にピッタリと寄り添っていた。
その距離は3万2,000キロ、現在(38万キロ)の10倍以上も近かった。そして、両者が近い分だけ、お互いが引っ張り合う力も強かった。
そのため、地球は今以上に「直立」しており、地軸の傾きは「10°」しかなかったという(現在23.5°)。
さらには、地球の回転(自転)も今より高速で、6時間で一周していたそうだ。つまり、一日が24時間ではなく、「6時間」だったのである。
長い長い年月を経て、月は少しずつ少しずつ地球から離れていった。
そのペースは「一年に2cm」ほどだったという。
こうした長い年月のすえ、月と地球は今の関係に落ち着くことになった。一日は24時間になり、地軸の傾きは23.5°に落ち着いたのだ。
おかげさまで、地球は毎年「ほぼ安定したリズム」を刻めるようになった。
もし、地球に月がなかったら、こうした安定は得られなかったかもしれない。
その実例は「火星」である。
地球は月と引っ張り合うことで傾きを安定させているが、火星には月のような巨大な衛星はない(小さい奴はある)。
そのため、火星の軸はフラフラである。0〜60°ほどフラつくという。直立したり、横倒しになったりと不安定極まりない。60°も傾けば、地球でいうと「赤道」がモスクワやロンドンあたり(北緯50数度)まで来ることになる。
火星は「傾き」が定まらないまま太陽の周回を続けたため、全面がコンガリと太陽で焙(あぶ)られた。かつては「水」があったとも言われているが、今はカラカラに乾燥した赤い大地が広がるのみである。
火星がフラつく理由はもう一つある。
「木星の引力」である。
木星は太陽系最大の惑星で、火星の20倍以上の大きさがある。そのため、火星はお隣りの巨大すぎる引力の影響をモロに受けてしまうのである。この点、火星は木星の独裁化にあるようなものである。
木星の引力は地球にも影響を与える。木星は地球と比しても10倍以上のサイズがある。
ところが幸いなことに、地球には月がある。地球は月と協調する(お互いに引っ張り合う)ことにより、木星の引力の影響をあまり受けずに「独立した回転」を保つことができているのである。
ところが、そのベストパートナーである月が地球から離れていっている。
離れるほどに、お互いの引き合う力は弱くなる。
かつては一年に「2cm」だったペースが、「3.5cm」へと拡大している。
月の支えは少しずつ弱まっている……。
このまま進めば、地球の独立は危うくなり、火星と同じようにフラフラと軸がブレてしまう可能性がある。そうなると、地球は火星化しかねない。ヤバッ。
この点に関しては、良くも悪い事実がある。
月が地球を離れるペースよりも、太陽が膨張するペースの方が早いのだそうだ。
つまり、月が地球から離脱する前に、地球と月は巨大化した太陽に飲み込まれてしまうのだという。
これほどのスケールになると、人智も及ばなければ、人命も持たない。10億年単位の話であり、SFである。
ここまで話を大ゲサにする必要はない。
しかし、月と地球の距離が変わるということは、地軸の傾きに変化を与える可能性があることは確かである。今までも月が地球から離れることにより、地軸が10°から23.5°へと変わっている(40億年以上かかったが)。
現在23.5°の傾きであるが、これが1〜2°変わるだけでも地球環境にとんでもない影響を与えかねない。
地球温暖化のシミュレーションを思い出してみるとよい。気温が6℃も上がってしまえば、その未来は現在とは激変するのである。
それが、気候の大元である地軸の変化となったら……。
また大ゲサになった。
宇宙の尺度は「億年」単位である。
つまり、こうした変化も「億年」単位。
人間の一生はどんなに頑張っても「100年」単位。
この儚(はかな)さは、宇宙のどんな些細なものよりも儚(はかな)い。
出典:地球ドラマチック
「月と太陽の神秘(1)地球が月と離れる日」