そんな彼の歌うラップは辛辣だ。
「ビンラディンは犯人じゃない ♪ 本当はお前だろ ♫」
「サウジもイスラエルもイギリスも ♫ アメリカと共謀さ ♪」
「アメリカを動かすのは ♪ 麻薬とユダヤ ♬」
若き日の彼は、酒もギャンブルもたしなむ見事なアメリカンであった。
ところがある日、彼は唐突に「イスラム教」へと改宗する。
彼の家族は敬虔なカトリック教徒(キリスト教)。イスラムとのつながりは何もなかった。
しかし、退廃的な生活を送っていた彼は、世の中に「疑問」を抱き始めていた。誰もが体験するこの「若き悩み」の末、彼は「イスラム教」を選んだのである。
それ以来、彼は全くの別人に「生まれ変わった」。
名前もイスラム風の「ハムザ」と改めた。
イスラム教では「神への冒涜」とされる飲酒もキッパリとやめ、祈りの生活に入った。
過去の「麻薬の売人」という苦い経験を活かし、麻薬問題のカウンセラーとしても働き始める。
さらに、犯罪者たちへ自分の体験や人生の教えを語る仕事も請け負った。
めでたく結婚もし、子供たちに囲まれた平穏な日々が彼の日常となった。
ところがっ、その平穏は荒々しいFBIによって突然終わりを告げられた。
FBIは彼のモスク(イスラム教の礼拝堂)に突入し、信徒たちの身柄を拘束したのである。
「ハムザ、お前の下調べはついている。」
テロを取り締まる「愛国者法(Patriot Act)」により、FBI(連邦捜査局)には信じられないほどの特権(強制捜査)が与えられていたのだ。
庭先に引きずりだされたハムザ氏は、数日前からモスクを監視する「カメラ」が設置されていたことを思い出した。
彼は苦々しく思う。「隣町は麻薬の売人だらけなのに、なぜこのモスクを標的にするんだ…。」
それから半年……。
ハムザ氏は前にもましてイスラム教を深く学ぶようになっていた。
預言者「ムハンマド(イスラム教の開祖)」の生涯を追ううちに、ムハンマドがキリスト教やユダヤ教などの「異教徒たちともうまく関係を結んでいた」ことを知る。
その事実を知ったことにより、ハムザ氏は「むしょうにキリスト教徒やユダヤ教徒たちと『連携』したくなった」という。
ハムザ氏は受刑者への説法で、「自分自身を知ること」を語る。
イスラム教のハムザ氏の言葉は、キリスト教の「汝自身を知れ」という教えと共鳴し、多くの受刑者たちの心をとらえた。
彼の歌う歌の歌詞も大きく変わった。
「お帰り ♪ 過去と決別し ♫ まっすぐな道を進もう ♪」
ところがっ、またしてもFBI(連邦捜査局)が行く手を阻む。
ハムザ氏の刑務所への出入りが突然禁止されたのだ。
「愛国者法」によれば、FBIにその理由を説明する必要はない。
アメリカ政府は、イスラム的なことに神経を研ぎ澄ましている。
イスラムを取り締まることが、「テロの撲滅」へつながると信じているからだ。
その結果、アメリカとイスラム世界の溝は大きく広がった。
そうした風潮に疑問を感じる人々は少なくない。
ハムザ氏もその一人であり、かつてカトリック教徒であったという利点を活かしながら、アメリカとイスラム世界との融和を図ろうと尽力していたのである。
大きく広がった溝に、何とか橋を渡そうと必死であった。
また、麻薬の売人であった過去も活かし、いかにして若い麻薬の売人を救えるかという難問にも立ち向かっていた。
意見の異なる両者が対峙するとき、両方の世界を知っている人物というのは極めて貴重な存在である。
しかし、ハムザ氏は過去の麻薬の売人としての前歴が、マイナスにマイナスに評価さてしまっているのである。
イスラム教徒としても同様。あたかもキリスト教徒の造反者のような扱いを受けてしまっている。
ハムザ氏は歌う。
「重荷を背負って歩くとき ♪ 自分の魂が見えてくる ♪」
「酸(す)いも甘いも」知り尽くしているハムザ氏。
「甘いもの」だけしか知らない人々に彼の想いは届くのか?
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出典:BS世界のドキュメンタリー シリーズ
「ニュー・ムスリム〜あるプエルトリカンの挑戦」


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