1998年以前、宇宙は「収縮している」と一般的には考えられていた。ところが、1998年〜現在に至るまで、宇宙は「膨張している」と考えられるようになった。
いったい、1998年に何があったのか?
それは、「ダークエネルギー」の登場である。

リンゴが落下する様を見て、「ニュートン」は万有引力の法則を発見した。つまり、「重力」の発見である。古い宇宙観においては、ニュートンの世界がその全てであった。
しかし、ダークエネルギーというものは、重力とは全く正反対の働きをする。リンゴが落下するのではなく、宇宙の果てまで飛んでいってしまうのだ!

リンゴを吹っ飛ばすエネルギー、これが「ダークエネルギー」である。
当然、地球上ではリンゴは落下する。しかし、宇宙の常識はその正反対なのである。宇宙はダークエネルギーによって、外へ外へと押し広げられている(膨張している)と考えられている。
1998年以前、宇宙が収縮していると思われていた根拠は、「超新星」が「減速している」と考えられていたためである。
「超新星(supernova)」というのは、その一生を終える時に「大爆発」を起こす。その時の光量たるや凄まじく、遠い遠い地球からでも見えるほどである。

その超新星が「爆発する光」を観測することによって、地球からの超新星の「距離」が割り出せる。そして、その距離を元に、超新星がどれくらいの「スピード」で地球から離れていっているかも計算できる。
もし、超新星が遠ざかるスピードが基準値よりも速ければ、宇宙は「膨張している」ということになり、逆に遅ければ宇宙は「収縮している」ということになる。
そのスピードを知る手がかりとなるのが、光の「色」である。
色には「波長」があり、遠ざかるほどに波長は引き伸ばされ、その色は「赤味」を帯びる(赤方偏移)。
たとえば、「音」も波長であり、遠ざかるほど波長が引き伸ばされ、引き伸ばされた音は「低く」聞こえる。遠ざかるサイレンの音が低く聞こえるという「ドップラー効果」がそれである。

1998年以前、超新星の遠ざかるスピードは、実際よりも「遅く」見積もられていた。
なぜかといえば、宇宙の「チリ」が邪魔して、観測結果が不正確であったためである。宇宙のチリが「色」を狂わせていたのである。
たとえば、「夕日」が赤く見えるのは、空気中のチリが影響している。そのため、ピーカンに晴れたクリアーな日よりも、空気中にチリや水分がある日のほうが、夕日は赤く美しく見える。

観測技術の向上、そして次々と発見される超新星。
その結果、超新星は思っていたよりも「速いスピード」であることが判明した。
つまり、宇宙は「膨張している」と判ったのである。

そして、この現象を説明するには、どうしても「ダークエネルギー」の存在を認めなければならなくなった。
このエネルギーはほとんど「未知のエネルギー」であるにも関わらず、宇宙には普通に存在していると考えられている。
かつて、アインシュタインは「ラムダ(Λ)」という概念を宇宙論に持ち込んだ。
今考えれば、この「ラムダ(宇宙定数)」こそが「ダークエネルギー」であった。
しかし、当時の学会ではこの「ラムダ」を説明しきれず、「物笑いのタネ」にしかならなかったという。当のアインシュタイン自身もひどく後悔し、「人生最大の過ち(biggest blunder)」とまで自虐的になっている。

ところが、アインシュタインの「直感」は正しかったのだ。
「ダークエネルギー」なしには、現在の宇宙を説明することはできない。
現在の科学はようやく「天才の直感」に追いつくことができたのだ。
追いつきはしたが、未だにダークエネルギーのことはロクに分かっていない。
ダークエネルギーの登場により、分かっていたと思っていた宇宙がますます分からなくなった。
いや、逆に「分かっていなかった」ことが判った。
分からないことが増えたお陰で、宇宙の地平は格段に広がった。

「宇宙は逃げ去っている ♪」
「全てはすごくシンプルなのかもしれない ♪」
「もしくは、タチの悪い冗談なのかもしれない ♪」
我々は宇宙のことを何も知らなければ、自分自身のことすら何も知らない。
知ってるつもりになれるということは、なんと幸せなことだろう。
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出典:コズミック フロント〜発見!驚異の大宇宙〜
「ダークエネルギー 発見!加速する宇宙」