福島原発の事故後には「諸悪の根源」と糾弾されている「安全神話」は、どのように醸成されたものなのだろうか?
その起源をさかのぼると…、「アメリカ」のある報告書に行き着いた。
その報告書とは、1975年の「ラスムッセン報告書」である。

アメリカ政府が10億円を投じて調査したと言われるこの報告書は、「バイブル(聖書)」とも呼ばれるほどアメリカでは珍重されたという。この報告書によれば、原発で事故が起こる確率は、「50億分の1」。つまり、「起こるわけがない」と結論付けている。
対比された事故は、自動車事故(4千分の1)、飛行機事故(10万分の1)、落雷(200万分の1)、ハリケーン(250万分の1)などなど。
原発で事故が起こる確率は、ハリケーンが200回連続で来る確率よりも低いとされたのである。
ところがっ……。
この報告書の数年後、当のアメリカ国内で「原発事故」が起こる。ご存知、スリーマイル島における原発事故(1979)である。
アメリカ国内では、原発の「安全性」に対する激しい議論が巻き起こる。
その時、スリーマイル島の原子炉を差しおいて槍玉に上がったのが「マークT(ワン)」という原子炉。この原子炉は、他の原子炉に比べて、あまりにも「格納容器が小さい」ため、事故の危険が高いとされたのだ。

「マークTは廃炉にすべきである」とまで責め立てられた。
ご存知の方も多いと思うが、この「マークT」こそが「福島第一原発の原子炉」なのである。
スリーマイル島で事故を起こした原子炉(PWR)は、「マークT」に比べれば、はるかに巨大な「格納容器」に守られている。

「格納容器」が大きいほど、外部に放射性物質が漏れ出る可能性を抑えることができる。
なぜなら、炉心溶融により発生する「水素(水素爆発の原因となる)」を、巨大な格納容器内で再燃焼させて、炉内の圧力を下げることができるからである。
「格納容器が小さい」という設計上の致命的な欠陥をかかえていた「マークT」。
すでに設置された「マークT」には、「建て替える」以外の改善方法は見当たらなかった。当時、すでにアメリカ、スペイン、そして日本で、30基以上の「マークT」が稼働していた(日本には10基、そのうち5基が福島第一)。
建て替え以外の窮余の策とされたのが、「ベント」の設置である。「ベント」とは、原子炉内の圧力が急上昇した時に、空気穴から炉内の空気を抜いて圧力を下げることである。
そもそも格納容器とは、炉内の汚染された空気を外部に漏らさないためのもの。しかし、「ベント」を付けるということは、その格納容器に「外部への道」を付けることになる。これは設計の目的からすると大きな矛盾であった。
そのため、ベントの設置作業は実に「消極的」に行われた。何のバックアップも設置されず、事故に極めて弱い設備となった。福島の事故でも明らかにもなったことであるが、ベントの設備が疎(おろそ)かすぎて、その作業にとんでもない時間がかかっている。
「マークT」の欠陥は、格納容器の小ささだけに留まらなかった。
冷却水を循環させておくドーナツ型の「圧力抑制プール」の不備も指摘された(1976)。原子炉内の圧力が高まると、このプールはその圧力に耐え切れずに破損してしまうというのだ。

この不備を勇敢にも指摘したGEの技術者ブライデンボウ氏は、残念ながら辞職に追い込まれている。メーカー(GE)と電力会社の圧力に押し出された悲しい結果である。
福島の事故を見た彼は、その悔しさを新たにした。福島第一2号機の「圧力抑制プール」が破損したことを知ったからである。これはブライデンボウ氏が指摘していた事故想定とまったく同じであった。
スリーマイル島の原発事故(1979)以降、その脆弱性が次々と明るみに出た「マークT」。
多数の指摘を受けて、アメリカでは「マークT」の設置地域が東側一帯に限定される(24基)。なぜかといえば、東側の方が「地震がおこらない」とされたためである。

「マークT」最大の弱点は、「地震」にあると考えられた。これがアメリカ原子力規制委員会(NRC)の結論である(NRCは「地震多発地帯」での「マークT」の安全評価は行っていない)。
地震多発地帯である日本に「マークT」がやって来たのは、1967年。栄えある初上陸の地として選ばれたのが「フクシマ」である。

当時の日本は、まったく原発の知識・技術を持たず、完全にアメリカ(GE)に「丸投げ」状態であったという。追々、東芝や日立が学んでいくというスタンスであった。
しかし、GE側の考えは、「マークT」を電力会社に引渡した後、「GEには一切の責任がない」というものであった。つまり、「マークT」の構造上の問題が顕在化した後の責任は、日本の電力会社がすべて担わなければならないのである。
上述した以外の「マークT」の弱点は、「全電源喪失」のリスクであった。
このタイプの原子炉は、電源を失ってしまうと手も足もでない状態となるのである。実際、福島原発事故の原因の根源は、「全電源喪失」にあった。
当然、その全電源喪失のリスクを回避するために、「非常用発電機」は追加で建設された。福島第一の「非常用発電機」は、原子炉一基に対して2つずつ造られた。2つ造ったのは、万が一1つがダメになっても、もう1つが動くようにとの配慮からである。

ところが、福島第一では、2つの非常用発電機が全く同じ場所に造られた。しかも、地震を考慮して、「地下一階」に2つである。ご存知の通り、この2つの非常用発電機は、津波によってアッサリ水没して使い物にならなくなっている。
これには、アメリカの研究者たちも呆(あき)れ顔である。
「信じられない過ちです。
リスクを分散させるために2つ造るのに、なぜ2つとも同じ場所なのか?
しかも、空気を取り込む配管まで同じ高さではないか!」
「多様性」こそが原子炉を守る最善の防御と言われている。福島第一と同じ「マークT」を使っているアメリカの「ブラウンズフェリー原発」では、2つの非常用発電機は当然「別々の場所」に設置され、さらには水害を考慮して「防水扉」で密閉されている(この原発は河畔に位置している)。
日本の電力会社が「想定外、想定外」を連発する中、アメリカの研究者たちは、全く違う思いでフクシマの事故を見つめていた。
「恐ろしいほどに想定通りだ。」
全電源喪失による原子炉の高温化。その結果の炉心溶融。炉心溶融で発生した水素に起因する水素爆発……。
「マークT」で指摘されていた脆弱性が、恐ろしいほど正確に再現されたのである。これは、アメリカの研究者が、何十年も事故をシミュレーションした通りのシナリオだった。
「原始」炉とも揶揄されていた「マークT」は、不名誉な期待に応えてしまったのである。
「マークT」は、福島以外でも日本で稼動している。女川、浜岡、島根、敦賀……。
福島の事故後には、これらの「マークT」の廃炉の意見が相次いでいる。
数々の問題を抱える「マークT」であるが、様々な分析からは事故を回避するための「希望」も見えてくる。
弱点が明らかとなった今、安全性を向上させるための施策は明確である。
福島原発の事故によって、「想定外」は完全に「想定内」となったのである。
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出典:ETV特集 「アメリカから見た福島原発事故」
責任者の責任がきちんと糾弾され、
逮捕者の数人も出さない限り,政府も東電も信じない
昨年暮れに政府事故調の中間報告でも一部指摘されてますが誤認、誤判断、誤操作これ等は人が介在する限り必ず発生します。中間報告より易しい具体的なまとめを特集していただければと願ってます。これからも日本での原発は特別危険そのものであり即廃炉し燃料棒の最終処分をフィンランドに依頼すべきと思っている。(再度起こした場合は世界から完全にスポイルされ日本は完璧に破滅します)
ただ原発に限らずどんなものにも起きる人介在によるミス発生を如何に軽減し致命的事故にさせないか についても特集して欲しいと願ってます
で、不信に思い調べてみてこちらに行き着きました。
アメリカや政府にとって都合の悪いことはとことん隠蔽されてしまいますね……
アメリカにだって責任があるハズなのに、今見ている番組では日本側が全面的に悪く、アメリカは日本に対して呆れてるよ、的な自虐としか思えないような内容を放送していますしね。
全く、もうやだこの国って感じです。
最後に。
こちらの記事は、わかりやすい説明で助かりました。
ありがとうございます。