その原因は何か?
今回のNHKの調査では、原子炉の「設計の不備」を問題として取り上げている。
福島第一原発の原子炉は、アメリカ製である。
福島と同じタイプの原子炉が、アメリカ・ノースカロライナ州の「ブランズウィック」原発でも使われている。

今回注目されたのは、このアメリカの原子炉で1970年代に行われた「ある実験」である。
この実験では、原子炉内部に大量の空気が送り込まれた。原子炉がどれくらいの「圧力」に耐えられるか、その限界を調べるためである。
その結果、ある一定の圧力を超えると、原子炉内部の「圧力の上昇が止まる」ということが確認された。
原子炉内部の「圧力の上昇が止まる」とは、どういうことか?
空気を送り続けているのにも関わらず「圧力の上昇が止まる」ということは、どこからか「空気が漏れている」ということを意味する。穴が空いたタイヤに空気を送り続けるようなものである。
これは原子炉としては、「致命的な欠陥」である。なぜなら、「空気が漏れる」ということは、外部に「放射性物質が漏れ出す」ということを意味するからである。
原子炉は、一個の塊から削り出して造られるわけではないので、必ずどこかに「つなぎ目」がある。
一番大きな「つなぎ目」は、原子炉上部の「ふた」の部分である。この「ふた」は燃料棒を交換する際の出入口ともなっている。

この「ふた」は、シリコンゴムの「パッキン」とボルトで強固に密閉されているはずだった。しかし、上記の実験の結果は、どこかにできたスキマから空気が漏れ出していることを示している。
シリコンゴムには、「高温により縮む」という性質がある。圧力が高まれば温度は上昇する。高温でパッキンが縮めば、当然そこにスキマが生まれることになる。

1970年代には分かっていた福島の原子炉の欠陥であるが、残念ながらその欠陥は「放置」された。
原子力発電業界の常識は、「事故は起きない」という安全神話に立脚している。当然、実験されたような高圧力状態に原子炉が陥るわけはないと判断されたのである。
ところが、3.11の津波後、その原子炉の圧力は、なんと限界の2倍近くまで上昇した。
そして、その後の圧力はアメリカで実験された時とほぼ同じ数値に落ち着いた。

つまり、原子炉の圧力が急上昇した時に、「ふた」と本体の間にスキマができ、そのスキマから中の気体が外に漏れ出した。そして、その結果、圧力が一定になったと考えられるのである。
外に漏れ出した気体には、当然、放射性物質が含まれている。この原子炉の圧力の上下とシンクロするように、原発正門の放射能の数値は急上昇している。
原子炉内部の圧力の上昇は、事故直後も最大の関心事だった。
そのため、「ベントするか否か?」で迷ったのである。「ベント」とは、原子炉の空気穴を開放して中の空気を逃がし、原子炉内部の圧力を下げる作業である。
なぜ迷ったかといえば、原子炉内の空気を外に逃すことは、放射性物質を大気中に放出することを意味するからである。懸念されるのは周辺住民の放射能被曝である。
事故を検証してみれば、ベント作業をやるやらないに関わらず、すでに「ふた」のスキマから放射性物質が漏れ出ていた可能性が大きくなっているのだが……。
そして、原子炉内の空気が漏れた最悪の結果が……、原子炉建屋をぶっ飛ばしたというあのショッキングな「水素爆発」である。爆発により勢いよく飛び出した放射性物質は、思わぬほどの広い範囲を汚染した。
思えば、チェルノブイリで放射能汚染を拡大させたのもトンでもない大爆発であった。
もし、爆発だけでも避けられていたら……、汚染地域はもう少し狭まったかもしれない。
パッキンの弱点を放置した代償は、償い切れないほど巨大なものとなったのである。
ベントに関しても一つの疑問が生じている。
ベントのための空気穴に、「なぜフィルターが装着されていないのか?」ということである。
ベントのための空気穴は、原子炉内部の空気(放射性物質)を外に逃すためにあるのだから、当然、放射性物質を絡めとるフィルターがついていて然るべきである。実際、ヨーロッパの原子炉には、当然のようにフィルターが完備されているという。
ここで登場するのも、原発の安全神話である。「ベントが必要になる事故が起こるわけがない。だから、そんなフィルターは不要だ。」となるのである。
数々の不備が明るみに出てくる福島第一原発。
できること(想定されたこと)を無視していたことに関しては、一考する余地がある。
発展途上の人類にとって、欠陥や不備があることに何ら不思議はない。どんな賢者にも「一失」はある。しかし、それらを認識していながら、ノーアクションに終わっていたことは悲しい事実である。
欠陥や不備はドンドン見つかれば良い。それらを潰していくことこそが成長するということである。
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出典:サイエンスZERO
「原子炉で何が起きていたのか〜炉心溶融・水素爆発の真相に迫る」