ここに、「品質」よりも「利益」を優先させた自動車会社の面白い話がある。
その自動車会社とは、アメリカではビッグ・スリーのひとつに数えられる「フォード社」である。
フォードの車には、カムシャフトという部品(バルブを開閉する部品)に問題があった。この部品の摩耗率は高く、走行距離が1万5,000キロに達しないうちに故障する車が続出した。
経営陣は、この事実を認識した上で、あえてこの部品の問題を放置した。
なぜなら、この部品が磨耗すれば、車の所有者は「自費」で部品を交換せざるをえない。そして、その交換する費用が、フォードの利益を押し上げていたためである。
経理部にとっては、利益の上がることは望ましい。
しかし、問題がある部品の製造を続けることは、エンジニアたちのプライドが許さない。
それでも、経理部は「何もしないでくれ」と懇願したという。なぜなら、この問題を改善するには5,000万ドル(38億円)もかかるからだ。
ここに颯爽と登場するのが、「製造の賢人」と謳われたロバート・ルッツ氏。
当然のように部品の品質を向上させ、フォードの狂った車をマトモな車へと改善する。
ルッツ氏曰く、「経理屋たちは、5,000万ドルを惜しむあまり、品質の評判を地に落とした。これは犯罪者の行為と何ら変わるところがない。」
彼が「経理屋」という言葉を使う時、それは「Bean Counter(豆を数える人)」という単語が当てられており、そこには「蔑(さげす)み」が込められている。
ルッツ氏は続ける。
「靴屋は靴屋が経営すべきだ」
経営の専門家であるMBA取得者に経営を任せてしまうと、数字にばかり囚われて、自動車の本質を見落としてしまうというのである。
「MBA経営者は、自動車に対する愛も情熱もない。」
現在、アメリカで業績不振に陥っている企業の管理職では、MBA取得者の比率は90%。逆に、好況にある企業のMBA取得者は55%だという。
つまり、いくら経営学修士(MBA)の称号をもっているからといって、現場の経営がうまくいっているとは限らないのである。いや、むしろ上記の数字は、その弊害を示している。
ルッツ氏は、フォードの後に「GM」へと移る。
GMはリーマンショック後に破産申請をしたものの、現在は再び世界一の座に返り咲いている。
その功績の陰には、ルッツ氏の姿があった。「エンジニアたちに自由を与え、表現したいスタイリングを形にさせた」のだという。
その結果生まれたのが、「キャデラック・SRX」「シボレー・イクイノックス」などの車種で、これら「モノづくり」にこだわった魅力的な車たちが、再生への牽引役になったのだという。
ルッツ氏は語る。
「アメリカには、もっとエンジニアが必要だ。MBA(経営学修士)ばかりが多すぎて、エンジニアは少なすぎる。」
「モノづくり」を続けるには、エンジニアもMBAも必要だろう。しかし、その両者のバランスが崩れた時、かつてのフォードのように狂った車たちが誕生してしまう。
物事の本質とは何か?
簡単すぎる答えが、遠く彼方に霞んでしまうこともある。
2011年08月31日
この記事へのコメント
コメントを書く

