2011年08月29日

なぜ細胞は自ら「死」を選ぶのか?雌雄(オス・メス)の別が生み出した、巧みな「生」の形。

人間の細胞は「60兆個」あるといわれているが、その内の「3,000億個(0.5%)」は毎日死んでいくのだという。

自らを「不要」と悟った細胞は、「自発的な死」を選ぶ。これを「アポトーシス」という。

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たとえば、「ウイルス」に感染してしまった細胞。自分の中に入ってきたウイルスを撃退できなくなった細胞は、ウイルスを抱え込んだまま静かに「自殺」する。もし、ウイルスを外へ散らしてしまうと、他の細胞に迷惑がかかってしまうからである。

アポトーシスを起こした細胞は、ビーズ玉のように小さく縮まる。そして、その死んだ細胞は、掃除屋さんの「マクロファージ」がキレイに食べてくれる。

こうして、体内に発生した問題は、小さなうちに解決されてゆくのである。

人間という「大きな生」を守るために、細胞レベルでは自己犠牲的な「小さな死」が日常的に起こっている。



こうした自発死による「秩序維持」のシステムが確立されたのは、20億年も前のことだという。

原始的な生物は、分裂して自らと「同じモノ」を増殖させるという方法をとっていた。しかし、この方法では結局「同じモノ」しか作れないため、ちょっとした環境の変化で、一気に全滅してしまうこともシバシバだった。

そこで、ちょっとづつ「違うモノ」を作って、少しでも生き残るモノを増やそうと考えた。オスとメスに分かれて、それぞれの遺伝子をランダムに組み合わせる方法である。ご存知、今の人間の繁殖方法である。

この方法により、生物は一気に「多様化」した。そして、より多様な環境に耐えられるようになった。



しかし、ここで問題が生じた。

ランダムな組み合わせの中からは、「不具合な組み合わせ」も多く生まれてしまったのだ。そうした不具合な個体の存在は、種(しゅ)全体の生存を脅かしかねない。

そこで、細胞の一つ一つにあらかじめ「死」がプログラムされた。生まれると同時に、ある「酵素(カスパーゼ)」が組み込まれ、その酵素がいつでも自死できるように細胞内に待機することとなった。

これは、武士がいつでも切腹できるように、懐刀をつねに持ち歩くようなものである。

こうして、細胞は「コントロールされた死(アポトーシス)」という方法を身につけるようになった。



受精卵の中で、生命が形づくられてゆく時、このアポトーシスという機能は大いに活躍する。

細胞はつねに多めに作られ、不具合な細胞は適宜アポトーシスによって選別されていく。

たとえば、手の指を作るとき、すべての指は最初つながった塊(かたまり)になっているが、指と指のスキマになる部分の細胞は、アポトーシスによって少しずつ死んでゆく。そして、最終的に5本の指が形成される。

つまり、最初から指を作るのではなく、一枚の板のようなモノを削った結果、指が出来あがるのである。この原理は、カエルのシッポが消える現象とまったく同じである。



ウイルスなどに感染した細胞は、タンパク質から「自殺せよ」との指令が発せられるのだが、受精卵の中では、お互いの細胞は「共に生きていこう」と励まし合っているらしい。

ところが、細胞の中には、「共に生きていこう」という声が伝わらない細胞もある。それが指の間になる細胞であり、カエルのシッポの細胞である。

そうして孤立した細胞は、結果的に死を迎えることとなる。しかし、この死は悲劇的なものではない。この死があって初めて、色々な形を形作ることができるようになるのである。



「死があれば、生もある」

細胞一つ一つは、より「大きな生」を守るために存在している。彼らは、その使命をまっとうするためには、死をも厭(いと)わない。時には積極的に犠牲になる。

より「大きな生」とは、「生殖細胞」である。オスは「精子」、メスは「卵子」、それらが結合して「受精卵」となり、「生」を次代に継いでゆく。

その証拠に、アポトーシスという細胞の積極死は、オス・メスに分かれた生物以外には存在しない。

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普通の細胞と「生殖細胞」は、その役割がまったく違う。

生殖細胞は、あらゆる細胞を生み出せる可能性をもつ「万能細胞」である。手にもなれれば、足にもなれる。心臓にもなれれば、脳にもなれる。

この全能性を維持するためには、できるだけ早い段階で「生殖細胞」を作っておく必要がある。なぜなら、すでに何者かになってしまった細胞からは、全能の細胞を作り出すことはできないのである。



そのため、生殖細胞は驚くほど早い段階で作られる。

どれほど早い段階かというと、人間であれば、精子と卵子が受精して「一ヶ月後」には、次の世代のための「生殖細胞」が出来あがるという。

まだ、自分の身体も出来ないうちから、次の子供を生む細胞は形作られるという驚くべき早さである。受精一ヶ月後では、生殖細胞が収まるべき「精巣」も「卵巣」もない状態である。

逆に考えれば、それほど「生殖細胞」とは大事なものだといういうことになる。

まっさきに出来あがる生殖細胞は、後に精巣(または卵巣)ができる場所で、静かに待機しているのだという。精巣(または卵巣)が出来たあとも、思春期(第二次性徴)を迎えるまでは、さらに長い間の待機が続く。



生殖細胞以外の細胞は、生殖細胞(精子・卵子)を守るために存在している。

彼らは「命がけで殿をお守りする武士」のような存在である。自分の脳力を超えてしまった問題(ウイルスや病原菌)に直面すれば、潔く腹を切る。

これは、われわれ人間様とて同じこと。われわれ人間様は「主」ではなく、「従」なのである。「主」はあくまでも生殖細胞(精子・卵子)。人間という個体は、「主」たる生殖細胞を次代に引き継ぐために存在しているのである。



働きバチたちも、一匹の女王バチを守るために存在している。人体と生殖細胞の関係もこれと同じである。ただ、人体と生殖細胞は表面的には同一化しているように感じるために、こうした意識を持つことは難しい。

しかし、細胞一つ一つは、決して主従を勘違いしたりはしない。いついかなる時も、死の覚悟をもって生きているのである。

これは、わが体内で日々行われている営みではあるものの、どこか誇らしいような気分にさせてくれる覚悟である。

死は終わりを意味するものではない。終わらせないために死を選ぶのである。




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出典:サイエンスZERO
「シリーズ・細胞の世界(5)見たぞ!生と死 その根源」




posted by 四代目 at 05:24| Comment(0) | サイエンス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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