ゴビ砂漠、タクラマカン砂漠、サハラ砂漠‥などなど。
日本は、地球上の砂漠ベルトと同じ緯度に位置している。それにも関わらず、日本ほど「水」に恵まれた国は、世界でもマレである。

なぜか?
お察しの通り、「海」が日本列島に「水分」を供給してくれるのである。
日本の東、太平洋を流れる「黒潮」は、赤道付近の、水温は20℃になろうかという温かい海の水を、一気に日本列島まで運んでくれる。
時には、「台風」などの激しい形をとりながらも、黒潮の果たす功績は実に大きい。
日本の西、日本海には「対馬暖流」が流れる。
黒潮から枝分かれして日本海に入るこの海流は、冬のシベリア寒気団と相まって、日本海側に豪雪をもたらすこととなる。
対馬暖流は、冬の厳しい寒さという困ったお土産とともに、やはり日本を豊かにしてくれている。

東に黒潮、西に対馬暖流。
これらは、暑く湿った「夏」と、乾燥しながらも大量の雪を降らせる「冬」を、日本列島にもたらしてくれる。
その結果、四季を通じて、水に事欠かない「水の国」日本が誕生した。これが、砂漠ベルトにあってなお、干からびることは決してない日本列島の秘密である。
しかし、黒潮、対馬暖流は、もともと日本の近くを流れていたものではなかったという。
かつての黒潮は、赤道から東南アジアを通過してインド洋に抜けていた。その流れが変わるのは、オーストラリア・東南アジアが地殻変動により、北上したためである。
地殻の北上とともに、黒潮は大きく北方向(日本の方向)に捻じ曲げられ、日本に沿って流れるようになる。これは1700万年前の話である。

対馬暖流もしかり。
度重なる氷河期は、日本列島をユーラシア大陸から切り離した。
そして、朝鮮半島と九州の間にできたすき間に、黒潮の一部が滑り込む。これが対馬暖流となった。こちらは、260万年前の話である。
歴史の必然により、日本列島は水で満たされた。
海流の運ぶ水分は、日本に「四季のメリハリ」をもたらし、奇跡的なほど多様な種(しゅ)を育むこととなった。
現在確認されているだけでも、9万種は下らない。八百万といわれるほど多くの神々が住む列島は、神々の数のみならず、動植物の多様性も世界一なのである。
日本に暮らす動植物たちは、「水」に関わりをもちながら進化していった。
特徴的なのが、水際で暮らす「両生類(カエルなど)」の種類が、日本でダントツ多いことである。大サンショウ魚が今も生息できるのは、とりわけ貴重である。
世界では水に住まない「ホタル」も、日本では普通に水辺に生息する。
世界では熱帯の森に暮らす「サル」も、日本では「ニホンザル」となり、冬場の温泉を住処とする。時には、水中に潜ってエサをとったりもする。

日本では、「水がある」ことがあまりにも普通のことである。
しかし、それは地球的には珍しいことなのである。
たいてい、雨期と乾期というものがあるものだが、日本では年中雨が降り、梅雨の時期などは、いらぬほどの雨が降る。雨期と超雨期があるようなものだ。
これも、夏の黒潮、冬の対馬暖流の成せるワザである。
この両海流は、夏に太平洋側、冬は日本海側を、まんべんなく湿らせてくれる。
海の恵みは「お魚」ばかりではない。本当の恵みは、日本を湿らす「水分」なのである。
日本の美しい森は、海の恵み、その湿り気のおかげである。
そして、豊かな山々は、蓄えた養分を川を通して、海へと返す。
その養分は、日本近海の豊かな漁場を形成する。
海の恵みは、山に恵みをもたらし、山の恵みは海を豊かにする。
見事なまでの、好循環である。
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出典:NHKスペシャル ホットスポット
最後の楽園 第6回「日本 私たちの奇跡の島」