2011年06月26日

最悪の山火事からの再生。森のもつ深遠なダイナミズム。

2009年、オーストラリア南部は100年に一度といわれる「熱波」に襲われていた。

気温が40℃を超える日が連日続き、大地は極度に乾燥。高齢者は暑さに耐え切れず、30人が死亡。1908年以来の猛暑である。

そんな猛暑の話題が紙面を騒がせていた一週間後であった。



「暗黒の土曜日」

オーストラリア史上、最悪の山火事が発生した。

のちの調査で、切れた送電線が原因の一つとされ、電力会社は裁判を起こされている。また、放火の疑いにより、数名が逮捕された。



その日のメルボルンの気温は46.4℃、湿度10%。自然発火の例も多数報告されるほど、山火事が起こりやすい状況にあった。

火の手が上がるや、猛火は旋風を巻き起こし、燃え広がるなどという生優しさではなく、紅蓮の炎は弾丸のように、一瞬で森一帯を包み込んだ。

猛烈な火柱は、林立するビル群のごとく立ち昇り、森の動物のみならず、地域の住民たちも死を覚悟した。

森は休むことなく燃え続け、その勢いが収まるまでは3週間も待たねばならなかった。人為の及ぶところではなく、待つより他にはなかったのである。

この山火事による死者は173名、焼失面積は40万ヘクタールにものぼった。



オーストラリアの森は、70年に一度、山火事に見舞われるという。

そして、その度に森は、奇跡の復活を成し遂げる。

史上最悪といわれた2009年の業火ですら、森を死滅させることはできなかった。



森は山火事を「防ぐ術(すべ)」を一切持たないものの、再び「立ち上がる術(すべ)」は、無数に隠し持っている。

まだ地面がホカホカと燻る中、さっそくキノコが顔を出す。

次に出てくるのは、コケだ。ここ数十年、見たこともなかったような種類のコケが、倒木を覆い尽くす。ずっとずっと地中で出番を待っていたのだ。

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草花も咲き誇る。やはり普段は見られない種類だ。森が巨木に覆われているうちは、光が地面まで届かないため発芽できないが、山火事で焼け野原となり、発芽のチャンスを掴んだのだ。

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焼けた森は、こうして進化の過程を再び繰り返す。



黒コゲになった巨木も全滅したわけではなかった。

火傷の軽い木は、枝先から新芽を伸ばす。かなり焼けた木でも、幹から新芽を出す。もうダメだろうと思う木でも、根っこが無事なら、地際から新芽が出る。

本当に焼け死んだ木々ですら、森にとっては有益な存在だ。その枯れ木に鳥が住み、小動物が隠れ住む。

枯れ木たちは、優秀な仮設住宅となり、森の復興を加速させるのだ。

山火事のあとに、枯れ木を「伐採」してしまうケースが多く見られるが、そうした行為は、森の再生を100年遅らせると、森の賢者は嘆く。

人のおせっかいは森の再生を遅らせる。



木々の種は、熱による刺激をうけて、発芽を促されるものも多い。

ユーカリ、マウンテンアッシュなどの木々がそうだ。

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こうした木々は、山火事のたびに世代を一新させ、災害を学習した若い世代が新たに台頭する。

彼らは、山火事のたびに学び、強さを増してゆくのである。



動物たちも次第に集まってくる。

木々が焼失し、地面が野ざらしになっているので、鷹やハヤブサなどの捕食動物は、獲物を見つけやすい。

小動物も、柔らかい新芽を求めて集まってくる。

森の生態系は、もう一度、平原の生態系から再スタートである。



山火事は一瞬で全てを奪い去るが、森の再生には200年かかるという。

再生が完了する前に、再び焼失することすらある。

それでも、森は立ち上がる。

燃やされるたびに、その再生力は強さを増す。

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燃えた森は、弱者にチャンスを与え、多様性を増す。

燃えた森ほど、再生の土壌は確かなものとなってゆく。

逆に、安定した森ほど、強者が占有してしまい、生態系は限定的となる。それは強さでもあり、弱さでもある。

森の山火事には、旧弊を打破し、時代を一新させる一面もあるのである。



この山火事から一年後、焼けた山に12年ぶりのまとまった雨がもたらされた。

森は一気に息を吹き返したが、反面、雨により貴重な森の土が流されてしまった。

しかし、この流された森の土は、河口地域の土壌を豊かにする。

自然のもつダイナミズムは、局所的にみれば悲劇でも、大局的にみれば丸く収まっているものである。




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出典:BS世界のドキュメンタリー シリーズ 
森に生きる 「焼け跡に芽吹く〜山火事の森 1年の記録」

posted by 四代目 at 07:45| Comment(0) | 植物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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