何とシンプルで、希望のある言葉であろうか。
地球を縛っていた「大気圏」を抜け出した男「ガガーリン」の言葉である。
人類で初めて、宇宙から地球を見た人物が、ガガーリンである。
ガガーリン以前、宇宙は未知の空間であり、無重力の環境で人間は「失神」してしまうのではないかと恐れられていた。
人々の不安を突き破るように、彼は未知の空間へと旅立った。
大気圏をスムーズに突きぬけ、彼は優雅に宇宙からの眺めを楽しんだ。しかし、トラブルは、地球への帰還時に起きた。
分離すべきロケットが引っかかり、彼の宇宙船はそれに引っ張られるようにキリモミし、彼の身体は、無重力から一転、地球の10倍もの重力に押しつぶされそうになる。
窮地の彼を救ったのは、自動脱出装置。電卓もない時代に作られた自動装置は、見事機能し、ガガーリンは奇跡の生還を果たすこととなる。
この脱出装置はじめ、人類を宇宙へ押し出したロケットを作ったのが、今回の主人公、天才「コロリョフ」である。
華々しく新聞の一面を飾った「ガガーリン」とは対称的に、天才「コロリョフ」の名を知る人は、当時、全くと言っていいほどいなかった。
コロリョフの存在は、ソ連政府によって「秘中の秘」とされていたからである。
というのも、ソ連はアメリカによる暗殺を警戒していた。
当時のソ連は、アメリカと激しくやり合っており、核爆弾はじめ、宇宙開発においても、「いかに相手を出し抜くか、いかに相手を蹴落とすか」に血眼となっており、暗殺も厭わない時代であったのだ。
コロリョフの頭脳は、時代を超越していた。
人類初の人工衛星(スプートニク)、人類初の有人宇宙飛行(ガガーリン)、人類初の宇宙遊泳(レオーノフ)。
これら全ての偉業が、コロリョフの頭脳から湧きいで、現実化したものである。
コロリョフは、人類の進化を一気に加速させた人物なのである。
アメリカにとって、これほど厄介な人物はいまい。
コロリョフのいるソ連は、「無敵」であった。そのソ連にアメリカは連戦連敗。
圧倒的なソ連の宇宙技術を前に、アメリカはなす術を知らなかった。慌てて打ち上げたロケット(ヴァンガード)は、地上を離れることなく爆発するというお粗末さであった。
ソ連の至宝として重宝されたコロリョフ。しかし、彼の若き日々には、苦難の時代があった。
時の権力者「スターリン」は、彼の真価を見抜くことができなかった。
突然、スパイの嫌疑でコロリョフを「投獄」してしまう。
零下40℃を下回る極寒のシベリアで、金採掘という重労働を強いられたコロリョフ。
重労働に加え、激しい虐待の日々が続く。全ての歯が抜け落ち、アゴの骨は砕け、心臓の病をも患ってしまう。
この時の心臓病は、長く尾を引き、ついには彼を死に至らしめる。彼の死後、ソ連の宇宙開発は全く頓挫してしまい、アメリカの先行を許してしまうのだが、その遠因は、スターリンによる虐待の時代にあった。
コロリョフを獄中から救ったのは、敵国ドイツによるソ連への猛攻(第二次世界大戦)であった。
ドイツの科学技術は抜群に秀でており、最新兵器によるドイツの猛攻は、ソ連を瀕死の状態にまで追い詰めていた。
特にロシアの心胆を寒からしめたのが、ドイツの開発した新ロケット「V2」である。射程距離300kmというこのロケットは、当時の常識では考えられないほど高性能であった。
このロケットの開発者は、天才「フォン・ブラウン」。のちに彼はアメリカへ亡命し、人類初の月面着陸の立役者となる。
このドイツの猛攻に対抗すべく、白羽の矢が立ったのがコロリョフである。
獄中から復帰したコロリョフは、ソ連の期待に大きく応え、またたく間に天才「フォン・ブラウン」を凌ぐ高性能ロケットを完成させる。
戦争が終結しても、コロリョフの勢いは留まるところを知らず、彼のロケットはグングンと飛距離を伸ばして行き、初の大陸間弾道弾を完成させ、ついには宇宙に達する。
その勢いのまま、コロリョフは人工衛星の打ち上げを成功させ、世界の人々を「あっ」と言わせる。
人々の口がふさがる間もなく、宇宙にガガーリンを送り込むことにまで成功。
アメリカは、ただ呆然とソ連の宇宙船を見送るより他になかった。
不世出の天才「コロリョフ」の死は、突然であった。
ソ連が「月」へ乗り出さんとしていた、その矢先の出来事である。
コロリョフは、月へ行くロケットをほぼ完成させていたが、彼の後を継ぐ者たちに、そのロケットを月に到達させる力量はなかった。
相次ぐ打ち上げ失敗に、人々はコロリョフの偉大さを改めて思い知った。
コロリョフの死により失速したソ連を、アメリカは悠々と追い抜いた。
かつては苦杯を舐めた、もう一人の天才「フォン・ブラウン」は、アメリカを月へと導く。
コロリョフにより黄金時代を築いたソ連は、彼の死後、アメリカの優位に立つことは二度となかった。
天才「コロリョフ」の夢は、火星にあったという。
彼にとって、月はどうでもよく、是非「惑星間飛行」を実現させたかったのだ。
巨大な宇宙船を何回かに分けて打ち上げ、それを宇宙で組み立てて火星を目指す。動力は太陽光。船内には、食料を栽培する植物工場まで設置する計画であった。
現在の人類ですら到達していない火星への夢を、コロリョフは人工衛星を打ち上げる以前から抱いていた。
もし、彼があと10年でも長生きしていたら、今頃人類は火星の地を踏んでいたかもしれない。そう夢想させるほどに、彼の業績は革新的であり、未来を切り開く強力さを秘めていた。
現在、ロシアで行われている「マーズ500」という計画は、コロリョフの構想に基づくものだという。
この計画は、閉鎖された空間にどれほど人間が耐えられるかを検証する実験であり、520日(一年半)を目標にしている(この日数は火星への往復に要する日数である)。
2010年6月30日に開始されたこの実験は、今年11月に完了する予定である。
時代の先の先を行っていたコロリョフ。
コロリョフは語る、「夢、夢、夢。夢を失った人間は、羽を失った鳥と同じである」
コロリョフの夢は、時代の不可能を次々と切り裂いていった。
そして、彼の夢は確実に現代へと受け継がれている。
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出典:コズミックフロント〜発見!驚異の大宇宙〜
「旧ソ連 幻の宇宙計画〜天才科学者コロリョフの見た夢」

