山好きにとって、この名は燦然(さんぜん)と輝いて響く。
世界最高峰、エベレストに挑戦し、「女性」として、世界で初めてエベレストの頂に立った女性である。
今から36年前、1975年の快挙であった。
エベレストに登るには、個人の力量もさることながら、びっくりするほどの「お金」が必要である。
当時の女性の初任給は「4万円」。登山に要した費用は、その1,000倍以上、「4,300万円」。
車のシートを切って、自作「手袋」をつくるほどの節約を強いられた。
世界初の快挙を成し遂げた女性登山隊は、世界一の「貧乏」登山隊でもあったのだ。
血のにじむような4年間の準備期間。
ようやく一行は、ヒマラヤのベースキャンプにたどり着く。
あの悲劇はここで起きた。
ジェット機のような爆音とともに、巨大「雪崩(なだれ)」が発生。
夜の出来事であったため、全員テントで眠っていた。
逃げる間もなく、巨大雪崩は、そのテント村を飲み込む。
15人の女性隊員のうち、13人が重軽傷という惨事となった。
「日本女子隊がヒマラヤで遭難」
「女性初登頂は絶望的」
新聞は、この話題で持ちきりであり、記事を読んだ100人中100人が、諦めた。
ところが、女子登山隊の執念は「ヘビ」よりも深かった。
「今までの4年間を無駄にしてなるものか!」
まさかの頂上アタック決行。
結果は周知のとおり、見事すぎるものであった。
山頂に立ったのは「田部井淳子」。
ここに世界初の偉業が成された。
当時、彼女には3歳になる娘がいた。
娘の誕生日、田部井はヒマラヤにいた。
娘に一筆、ヒマラヤからハガキをしたためる。
「誕生日おめでとう」。
彼女の娘は、この手紙を今でも大切に持っている。
田部井は、エベレストだけで終わる女ではなかった。
1991年には、女性で世界初、七大陸最高峰の登頂者になり、偉業に偉業を重ねた。
今回の番組で、NHKのアナウンサーに「エベレストの登頂、すごいですね」と感心された田部井。
「若気のいたりです」とアッサリ返す。
山を登る人たちは、一様に「気取り」がない。
世界的な偉業を成しても、一見、そう見えない。
山というトンでもない巨人の前に、人はあまりにも小さい。
自分よりも大きな存在が、常に目の前にあると、おのずから謙虚になれるのかもしれない。
今までエベレストの頂上に立った日本人は、142人。
世界では、アメリカに次いで多い数字である。
出典:世界の名峰 グレートサミッツ
「世界最高峰エベレストに挑む」

