1937年に始まった「日中戦争」のさなか、こんな大胆な発言をしていた中国人がいた。北京大学の「胡適(こてき)」という学者である。
その意図は?
「ソ連」と「アメリカ」を戦争に巻き込むためであった。
「胡適」によれば、中国一国のみで「日本」に対抗することは「不可能」。日本に勝てるのは「ソ連の陸軍力」と「アメリカの海軍力」しかないと考えていた。
当時の日本は、それほどに強大な軍事力を有した国家だったのである。
陸・海ともに、世界最強レベルにあった日本は、中国は「弱い」とバカにしていた。軍首脳から一兵卒、一般市民にいたるまで、それは共通認識であった。
ところが、中国は予想以上に強かった。ドイツから軍事顧問を招き、兵力の近代化を図っていたことが効を奏していた。
思わぬ苦戦を強いられた日本。
中国との戦闘は長期化し、ついにはアメリカとの戦争が始まり、結局はソ連も参戦。日本は降伏せざるをえない結末を迎える。
歴史の結末をみれば、「胡適」の意図通りに戦争は進んだ。
負け続けた中国は、アメリカを引っぱり出し、ソ連を引っぱり出した。そして、最終的には勝利を収めた。
「世界を巻き込む」という遠大な計略は、見事に成功したことになる。
日中戦争に対する日本の「大義名分」は、「東亜新秩序」と呼ばれた。
アメリカの「資本主義」ではなく、ソ連の「共産主義」でもない。「第3の道」である。
朝鮮、台湾、中国、満州国を含めて、東アジア全域を豊かな経済圏にして、「東亜永遠の安定」を目指すという、たいそうなものであった。
第二次世界大戦後、世界はアメリカ陣営とソ連陣営に二分され、両陣営は朝鮮戦争、ベトナム戦争とアジアを苦しめ、その後遺症は現在まで続いている。
もし、日本がこの2大勢力に割って入り、「第3の道」を示せていたら、と考えるのも面白い。
しかし、大国を自認し傲慢になっていた日本。そんな国がどんな立派な理想を掲げようと、他国にとっては「押しつけ」以外の何物でもなかった。現在のアメリカの「押しつけ」と何ら変わるところがない。
現在の世界において、ソ連の「共産主義」はすでに崩壊し、アメリカの「資本主義」も怪しくなりつつある。
「東亜新秩序」ではないが、必然的に「第3の道」を世界は必要とし始めている。
新しい秩序とは、どんなものであろうか?
出典:さかのぼり日本史 昭和 とめられなかった戦争
第3回「日中戦争 長期化の誤算」

