動いて敵から逃げる動物と違い、植物は「智恵」を使って敵を撃退、または遠ざける術を会得した。
「タバコ」という植物。
バッタなどが葉をかじると「ニコチン」が出て、葉っぱがマズくなる。それ以上は食べられない。ニコチンは猛毒なのだ。
ところが、この毒である「ニコチン」を好む珍奇な昆虫もいる(人間もそうかもしれない)。「タバコスズメガ(煙草・雀・蛾)」という「ガ」の幼虫である。
ニコチンの毒に耐性をもつ「タバコスズメガ」の幼虫は、平気で「タバコ」の葉を食べることができる。ほおっておけば、葉を全て食べてしまう。
そんな時、「タバコ」は「一週間ほったらかしにした灰皿」のような「悪臭」を放つ。これがSOS信号となり、カメムシがやってくる。呼ばれて飛び出たカメムシは、ガの幼虫を喜んでムシャムシャ食べてくれる。ウィン・ウィンの成立だ。

植物の使う一般的なツールとして、「ミツ」がある。
人間界の「お金」にあたるのが、植物の「ミツ」。この「ミツ」の報酬が欲しいがために、働いてくれる昆虫たちも多い。
「アリ」がその代表だ。アリは植物にとっては、頼もしい用心棒なのである。

葉っぱがカジられると、茎からミツを出し、アリを呼ぶ。アリは仲間を呼び、人海戦術(蟻海戦術?)で大きな敵でも撃退してくれる。
植物は自分の身に危険が及ぶと、匂いや蜜などの何らかの物質を発するわけだが、それは自分の身を守るためだけではない。同じ仲間に危険を知らせる「危険信号」の役割もある。
ある植物がカジられると、周辺にある植物はカジられる前に、防御物質を出すことが知られている。火事の延焼を防ぐために、燃えていないものに水をかけるようなものだ。
植物はコミュニケーションをしているのである。
この植物のコミュニケーションを活用した事例がある。
植物の植えてある土に電極を差し込み、土が乾いたら電気信号を送る。この信号は携帯電話へ電波を飛ばす。
リーン、リーン。「はい、もしもし?」
「あっ、こちらトマトだけど、ちょっと乾いて困ってんだ。水くんない?」
ウソのようなホントの話である。
植物は目や耳、鼻のような明確な感覚器をもたないため、勝手に「鈍感な奴」だと決めつけられてきた。
ところが人間が感じるよりも、もっと微細な信号を感じ取り、コミュニケーションしていることが判ってきた。
植物同士のコミュニケーションはもちろん、昆虫たちとも連絡を取り合っている。
その場を一歩も動くことなく、何億年と命をつないできた植物の智恵は、人智の及ぶところではない。
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出典:地球ドラマチック
「オドロキ!植物の知恵〜守り・捕食・コミュニケーション」
NHKオンデマンド