事故後の放射性物質により、森のマツは枯死。その枯れた松林が赤茶けていたことに由来する、悲しい呼び名だ。
「赤い森」の動物たちも一時全滅。森の生態系は、一瞬にして破壊された。
あれから25年。「赤い森」はすっかり蘇っている。蘇るどころか、以前よりも生態系は多様になり、多くの絶滅危惧種が暮らす「奇跡の森」となっている。
なにも放射性物質の恩恵ではない。汚染地域から人間が消え去ったことによる恩恵だ。
皮肉にも、「赤い森」は、人間が関与しなければ、どれほど自然が豊かになれるかを示した実例となった。
事故直後、異常に巨大化した植物や奇形の動物が人々を恐れさせた。放射性物質という未知の力を、このとき初めて目にしたからである。
急激に高い放射性物質を浴びることを「急性被曝」というが、事故直後は「急性被曝」による破壊的な悪影響が次々と現れたのだ。
年数がたつと、放射性物質は拡散する。そして、その影響は「慢性被曝」と呼ばれる、弱い放射能が延々と続く状態になる。
チェルノブイリにおける放射性物質は、主に「セシウム137」、「ストロンチウム90」、「プルトニウム239」の3つ。
このうち「セシウム137」と「ストロンチウム90」の半減期はおよそ30年。30年で半分になる。完全になくなるとされるのは、その10倍、300年である。
この2つの物質は植物に吸収されやすい。なぜなら、植物が常時必要とする「カリウム」と「カルシウム」に似ているからだ。植物は勘違いして「セシウム137」と「ストロンチウム90」を吸収してしまうのだ。
その植物を草食動物が食べ、草食動物を肉食動物が食べ‥‥、こうして放射性物質が食物連鎖に取り込まれる。
放射性物質を取り込んだときの影響は、動植物によって様々に異なる。
たとえば、サクランボの果肉に放射性物質はたまりにくく、種にはたまる。つまり種さえ食べなければ、サクランボはほぼ無害である。もっとも、ふつうに種は食べないだろうが‥。
また、ツバメは弱く、ネズミは強い。
放射能の影響で、ツバメは寿命が短くなり、精子に異常をきたし繁殖ができなくなる。
ネズミはほとんど影響を受けない。正確には「慢性被曝」の影響をほとんど受けない。というのは、被曝して分子が破壊された時にでる「フリーラジカル(活性酸素)」をやっつける「抗酸化物質」の働きが盛んだからだ。
ツバメも「抗酸化物質」をもつが、最終的には「フリーラジカル(活性酸素)」に負けてしまうのだ。
ネズミにとって、少量の放射性物質は、むしろ有益である。これを「ホルミシス効果」という。
「毒」も大量であれば死にいたるが、少量であれば「薬」になるという理論だ。人間では温泉などが「ホルミシス効果」にあたる。拡大解釈すれば、酒やタバコもそうかもしれない。
チェルノブイリのネズミは、適度な放射線を浴びて健康になり、元気に世代を重ねているというわけだ。
極限の環境になると、こうした原始的な生命力の強さがモノをいう。登場から20万年程度のホモ・サピエンス(人類)の及ぶところではない。
チェルノブイリも福島も、人間が汚染地域に立ち入ることは、ほぼ不可能。ところが、動植物のなかには、それをモノともしないツワモノたちがいる。
原発事故が起きるたびに、動植物の楽園が増えていくとは、何とも皮肉な結果である。福島第一原発周辺も、30年後には豊かな生態系が形成されているかもしれない。
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出典:BS世界のドキュメンタリー シリーズ
チェルノブイリ事故 25年 (2) 「被曝(ばく)の森はいま」

